皆さんは経営の現場で何か問題が起きた時、どのように理解して、それを解決しようとするでしょうか。
私の場合、大きく複雑な問題はなるべく小さな要素に分解し、それぞれを理解することで物事の本質を見極め、対策を講じようとします。この考え方は、私に限らず多くの経営者の思考方法として、深く染みついているのではないでしょうか。
しかし、経営課題を小さな要素に分解しすぎることは、かえって問題の本質が見えなくなってしまうかもしれず、注意が必要です。
KPI は戦略そのもの
私たち経営者は、会社の目標達成の道筋をいくつかの要素に分解することで、何をKPI(重要業績評価指標)とするかを決めていると思います。
KPIは目標達成のための通過点となる中間指標ですから、KPIを設定することで最終目標までの道筋が明確になりますし、それによりPDCAサイクルを回すこともできるようになります。
私たちが日々の業務で追うべき身近な数値目標として、どの会社でも定着しているのではないでしょうか。
ここで、目標達成の道筋をどのような要素に分解し何をKPIとするかを決めることは、目標達成のための戦略を選ぶということであり、重要な視点です。例えばTOMAの全社売上を単純化すると、次の要素に分解して考えることができます。

(A)のように考えると、税理士、社労士、コンサルがそれぞれの努力で顧客数を増やすことが全社売上目標達成のための重要課題ということになるでしょう。
しかし(B)のように考えれば、同じお客様に対し複数の専門家が関わる案件数を増やすこと、そのための専門家連携こそが重要課題ということになります。
同じ全社売上のために必要な顧客数は(A)よりも(B)は少なくて済むため、いたずらに顧客の数を増やすのではなく、TOMAの総合力に期待するお客様に対し確実に価値を提供しようということです。
目標をどのような要素に分解し、何をKPIとして設定するかは、戦略そのものであると言っても過言ではないのです。
グッドハートの法則
しかし、定量的な指標を掲げることで、お客様の満足や信頼関係、自社のブランドといった指標に表れない価値を見落とさないよう、注意が必要です。
イギリスの経済学者チャールズ・グッドハートは「ある指標が目標となると、その時点でその指標は良い指標ではなくなる」と言いました。グッドハートの法則として有名ですが、指標を設定すると、その数値を達成することが目的化してしまい、本来の目的が忘れられてしまう危険性があるということです。
例えば営業マンのアポイント数を指標とすると、契約の見込みが低い相手にも手あたり次第にアポイントを設定するということが行われるかもしれません。
歴史を遡れば、インドの「コブラ効果」が有名です。19世紀のインドではコブラが増殖し社会問題となっていました。
政府が「コブラの死骸を持ってきた者に報酬を与える」という政策を実施したところ、最初は効果的であったものの、やがて人々は自分で飼育したコブラを殺し、報酬を得るようになったのです。
報酬制度が廃止されると、飼育されていたコブラが野に放たれ、結果としてコブラはむしろ増えてしまいました。コブラの死骸の数という指標を追うことで、コブラの減少という本来の目的から遠ざかってしまったという事例です。
人はある指標が評価基準になると、それを最大化するよう行動するようになるため、指標に表れない価値は見落とされてしまうのです。経営者はグッドハートの法則を肝に銘じ、本来の目的が忘れられないようにしなければいけません。
そのためには、定量的な指標は複数の指標を組み合わせること、定性的な情報も重視すること、短期ではなく中長期といった時間軸を意識することなどが重要です。
複雑な問題を小さな要素に分解し理解しようとすることは、KPIの設定が戦略そのものであることからも重要です。しかし、グッドハートの法則が示す教訓には注意が必要です。経営者に求められるのは、数字で測れるものと測れないものの両方を意識し、全体最適を目指す姿勢ではないでしょうか。
TOMAコンサルタンツグループ株式会社
代表取締役社長
市原 和洋
代表メッセージはこちら
<チェックポイント>
□目標をどのような要素に分解し、何をKPIとするかは、戦略そのもの
□目的に立ち返り、指標に表れない価値が見落とされていないか注意する
□数字で測れるものと測れないものの両方を意識し、全体最適を目指す

