6月3日、各地に大雨をもたらした大型の台風6号が関東地方に接近しました。雨のピークが朝の通勤時間に当たったため、多くの社員は在宅で業務を開始しましたが、いつも通り出社した私は雨でびしょ濡れになってしまいました。
毎年暖かくなると発生するとても迷惑な台風ですが、実はここにも重要な経営のヒントがあります。
散逸構造論とは
台風は、熱帯の海上で発生した水蒸気が持つ熱エネルギーを吸い上げ発達し、巨大な渦という構造を作り出しますが、これは散逸構造の代表例といわれます。
散逸構造とは、エネルギーが消費され散逸されていく流れの中に、秩序ある構造が自発的に生まれる現象です。イリヤ・プリゴジンというベルギーの物理学者が提唱し、ノーベル化学賞を受賞しています。
昨年このコラムでエントロピー増大の法則を紹介しましたが、エントロピー増大の法則は、あらゆる物事は常に「秩序から無秩序へ」という方向に進み、その逆は起こらないという科学法則でした。
しかしプリゴジンが提唱した散逸構造論は、「無秩序から秩序が生まれる」という理論です。自然界のあらゆる物事は、何もしなければ時間の経過とともに無秩序に散らかっていくはずなのに、実際には、台風という形ある秩序が生まれることがあります。
ポイントは、エネルギーが閉じ込められておらず、常に外部に開放され絶えず出入りしているということです。エネルギーの流れは、温度差や圧力差など、何らかの差があることで生じます。非平衡開放系と言うそうですが、エネルギーが常に流れ込む環境では、秩序が自然に生まれるということなのです。
台風の発生は、一見するとエントロピー増大の法則に反しているように見えます。しかし、台風が温かい海水の熱を素早く上空に運び大気全体に拡散することで、台風を含む環境全体でみればエントロピーは増大しています。むしろそれを加速させるために、訳あって台風は存在していると言えるのです。

面白いことに、私たち生物も散逸構造なのです。自然界ではあらゆる秩序が崩壊し、バラバラに分解されるはずですが、私たちは肉体という形ある秩序を保っています。
実は私たち生物も環境と繋がりのある非平衡開放系なのです。私たちは食べて排泄し、代謝を繰り返しながら肉体を維持しており、常に中身が入れ替わっています。そして人間が散逸構造であるということは、人間が集まり関係を構築することで存在している私たちの会社も、散逸構造と捉えることができるということです。
多様性は組織のエネルギー源
社会のエントロピーは常に増大し続けています。ここで、社会の中に存在する会社を無秩序から生まれた秩序、つまり散逸構造であると捉えてみてください。会社が組織として構造を維持し続けるために必要なことが明らかになるのではないでしょうか。
会社は非平衡開放系、つまりエネルギーの出入りがなければいけないし、エネルギーの流れを生み出すために何かしらの差や違いが存在しなければならないということです。会社において、エネルギーの出入りのために必要なことの一つが、多様な社員の存在ではないでしょうか。
色々な考え方や感じ方をする社員、異なる長所や短所を持つ多様な社員が関わり合うことで社内にはエネルギーが生まれると考えることができます。
多様性を認めること。そうすることで初めてお互いの違いから生まれたエネルギーの流れが渦となって意味ある秩序が生まれ、会社という構造が維持されていくのです。
このことは裏を返せば、同質的な人が集まった組織からはエネルギーの渦は生まれず、いずれ会社という構造を維持し続けること自体が困難になってしまう、ということではないでしょうか。
会社は常に外部環境の変化に対応し続けなければならず、社員の入れ替わりもあります。多様性を受け入れている組織では、衝突を乗り越え新たなアイデアが生み出され、エネルギーの流れが活発になるものです。会社を散逸構造と捉えることは、組織の本質を理解するうえで重要な視点ではないでしょうか。
TOMAコンサルタンツグループ株式会社
代表取締役社長
市原 和洋
代表メッセージはこちら
<チェックポイント>
□会社(散逸構造)の存続にはエネルギーの出入り(非平衡開放系)が必要
□エネルギーの出入りを生むために必要なことの一つが多様な社員の関わり合い
□多様性を受け入れることで、衝突を乗り越え新たなアイデアが生み出される

