令和9年分の確定申告(令和10年3月申告)から、青色申告特別控除の仕組みが大きく変わります。書面申告のままでは控除上限が10万円に縮小される一方、電子帳簿保存等に対応した方を対象に、最大75万円の控除が新設されます。
個人開業のクリニック院長はもちろん、医療法人の理事長であっても、個人で不動産所得をお持ちであれば影響を受ける可能性があります。
そして重要なのは、最大75万円の控除を受けるには令和9年(2027年)1月1日の時点で要件を満たしておく必要があるということです。そのため、準備の期限は実質「令和8年(2026年)中」です。
「日々の診療に追われて、税制改正への対応まで手が回らない」――そんな方にこそ読んでいただきたい内容です。本記事では、改正のポイントと今から進めるべき準備を、医療機関の支援を数多く手がけてきたTOMAが分かりやすく解説します。
何がどう変わるのか
今回の改正のポイントは、「電子対応した方は控除が拡大、しない方は縮小」という明確な差が設けられることです。
| 記帳・申告方法 | 改正前(令和8年分まで) | 改正後(令和9年分から) |
|---|---|---|
| 複式簿記+e-Tax+優良な電子帳簿保存等 | 65万円 | 75万円(新設) |
| 複式簿記+e-Tax | 65万円 | 65万円 |
| 複式簿記+書面申告 | 55万円 | 10万円 |
| 簡易簿記(前々年収入1,000万円以下) | 10万円 | 10万円 |
| 簡易簿記(前々年収入1,000万円超) | 10万円 | 0円(控除対象外) |
ポイント1:最大75万円の控除枠が新設
65万円控除の要件に加えて、「優良な電子帳簿の保存」または「デジタルシームレス保存」の要件を満たすと、最大75万円の控除が受けられます。
ポイント2:書面申告の55万円控除が事実上廃止
令和9年分以降、65万円控除を受けるには「複式簿記による記帳」に加え、「確定申告書と青色申告決算書(貸借対照表を含む)をe-Taxで送信」することが必須になります。書面申告のままでは、複式簿記で記帳していても控除は10万円が上限です。
ポイント3:簡易簿記の10万円控除にも制限
簡易簿記で記帳している方のうち、前々年分の事業所得・不動産所得に係る収入金額が1,000万円を超える場合、10万円控除も受けられなくなります。
※不動産所得については、事業的規模の方のみ10万円控除の対象外となります。業務的規模の方は従来どおり最大10万円の控除を受けられます。
75万円控除を受けるための要件
75万円控除を受けるには、65万円控除の要件(複式簿記+貸借対照表を含む青色申告決算書のe-Tax送信)に加え、課税期間の最初(令和9年1月1日)から次のいずれかを満たす必要があります。
① 優良な電子帳簿の保存
その年分の仕訳帳や総勘定元帳について、次の3要件をすべて満たすシステムで、電子データによる備付け・保存を行うことです。
• 訂正や削除等の履歴が残ること
• 帳簿間で相互関連性があること
• 取引の日付や金額に関する検索機能があること
② デジタルシームレス保存
国税庁長官が定める基準に適合するシステムを使用し、電子取引データを送受信・保存することです。その際、改ざん防止・記帳の適正性・電子帳簿との関連性の確保といった法的要件を満たす必要があります。
ここでいうシステムとは、デジタル庁が定める仕様に準拠したデジタルインボイスや預貯金口座の決済データを、上記法的要件に従って保存できるものを指します。法的要件を満たす会計ソフトは「JIIMA認証情報リスト」でお探しいただけます。
いずれの保存方法を選択する場合でも、適用を受ける年分の確定申告期限までに、所轄税務署への届出書の提出が必要です。なお、すでに「優良な電子帳簿の保存」による65万円控除の届出をされている方は、改めて提出する必要はありません。
記帳を税理士事務所に「すべて任せている」場合はどうなる?
記帳は税理士事務所にすべて任せているけれど、75万円控除は受けられるの?
結論から申し上げると、記帳を誰が行ったかではなく、要件を満たしているかどうかで決まります。
電子帳簿保存法一問一答(国税庁)※では、帳簿の作成を「自己が」行うこととされていますが、この「自己」による作成には、記帳代行業者や会計事務所へ委託する場合も含まれます。
ただし、同時に「課税期間中に記帳せず、期間終了後にまとめて記帳する委託方法は認められない」と明記されている点に注意が必要です。
※国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係】」問20
つまり、年1回・期末にまとめて資料を渡す典型的な「丸投げ」スタイルでは、優良な電子帳簿の要件(課税期間の最初からの備付け)を満たせず、75万円控除は適用できません。この場合、e-Taxで期限内に申告すれば65万円控除となります。
一方で、次の体制が整っていれば、記帳代行を利用していても75万円控除の適用は可能です。
・税理士事務所が期首から優良電子帳簿対応ソフト(JIIMA認証等)で記帳している
・納税地でデータを出力できる体制がある
・申告期限までに届出書を提出している
・期限内にe-Tax申告をしている
「すべて税理士事務所に任せているから65万円」と一律に決まるわけではありません。ただし、期中記帳・優良な電子帳簿・届出という体制が整わない限り、控除は65万円どまりとなります。
記帳代行を利用しながら75万円控除を目指すなら、顧問税理士と早めに体制を相談しておきましょう。
なぜ「今」準備を始めるべきなのか
ここまで述べてきたとおり、優良な電子帳簿の要件は課税期間の最初から満たしている必要があります。そのため、令和9年に入ってから慌てて対応しても、その年分では75万円控除は受けられません。また、実務的にも準備には時間がかかります。
・会計ソフトの選定、導入:銀行口座やレセコンの入金管理との連携設定
・複式簿記への移行:記帳ルールの整備、スタッフ・経理担当者への教育
・e-Tax環境の整備:利用者識別番号の取得、マイナンバーカード・電子証明書の準備
・届出書の準備:適用する方式の選択と、確定申告期限までの提出
診療に追われる院長が、年末の繁忙期にこれらを並行して進めるのは現実的ではありません。令和8年のうちに体制を整え、令和9年1月から新体制で記帳をスタートする――これが最も負担の少ない進め方です。
なお、クラウド会計ソフトの導入あたっては、「デジタル化・AI導入補助金」(小規模事業者は導入費用の最大80%を補助)の活用もご検討ください。
■今すぐ確認したいチェックリスト
☐ 現在の記帳方法は、複式簿記か簡易簿記か
☐ 確定申告は書面か、e-Taxか
☐ 会計ソフトは優良な電子帳簿の要件(JIIMA認証等)を満たしているか
☐ 記帳代行を利用している場合、期中記帳の体制になっているか
☐ 75万円控除の届出書の提出準備はできているか
☐ 前々年分の事業所得・不動産所得に係る収入金額は1,000万円を超えているか
クリニック経営者への影響
今回の改正で、最も影響を受けやすい職種のひとつが開業医です。
個人開業医の場合、保険診療と自由診療をあわせると収入が1,000万円を超えるケースも少なくありません。青色申告特別控除は所得から直接差し引かれるものだからこそ、その金額の差がそのまま税負担の差に直結します。
収入1,000万円超で簡易簿記のままでは控除がゼロになり、書面申告のままでは10万円どまりです。75万円の控除を受けられるかどうかで、毎年の税負担に無視できない差が生じることになります。
「うちは医療法人化しているから関係ない」――そう思われた方もご注意ください。個人名義で駐車場やテナント、社宅などを貸し付けて不動産所得を得ている場合、その青色申告特別控除も今回の改正の対象になります。
対応するかしないか。その違いが、そのまま手元に残る資金の差につながります。早めの準備をおすすめします。
まとめ:準備の勝負は「令和8年中」です
令和9年分からの青色申告特別控除の改正は、令和10年3月の申告に関するものであり、まだ先の話のように思えるかもしれません。しかし、勝負は令和9年1月1日時点の体制で決まります。つまり、準備は令和8年中に終えておく必要があります。
TOMAコンサルタンツグループでは、クリニック・医療法人の税務に精通した医業特化チームが、現在の記帳方法の診断から、会計ソフトの選定(JIIMA認証)、電子帳簿要件の確認、e-Tax環境の整備、届出書の提出までワンストップでサポートいたします。
「自院はどのケースに当てはまるのか」「何から手をつければよいのか」――まずはお気軽にご相談ください。
