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解雇に関する“正しい”知識・法律をおさらい 問題社員の解雇を検討する際に押さえておきたいポイントを解説します

記事作成日2023/08/29 最終更新日2023/09/21

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厚生労働省がまとめた「令和4年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、民事上の個別労働紛争相談件数は272,185件と高止まりの状況が続いています。相談内容は「いじめ・嫌がらせ」が最多ですが、それ以外にも、メンタル不調や協調性の欠如、能力不足、勤怠不良等、社員が抱える問題は多種多様です。

問題社員に対して様々な対応策を講じる中で、「解雇」を検討せざるを得ない場合もありますが、労働トラブルに発展するリスクの高い「解雇」は慎重に判断しなければなりません。
そこで今回は、問題社員の解雇を検討する際に押さえておきたいポイントを解説します。

解雇の分類

そもそも解雇とは、使用者の一方的な意思表示で雇用関係を終了させる行為のことです。
解雇は普通解雇、懲戒解雇(諭旨解雇)、整理解雇と大きく3つに分類されます。

普通解雇

労働能力が低い、健康状態に問題があるなど、労働契約を継続しがたい事情があるときに行われる労働契約の解除のことです。

懲戒解雇(諭旨解雇)

重大な規律違反を行なった社員への罰則として労働契約を解除することです。なお、労働基準監督署から解雇予告除外認定を受けた場合は、予告なく即時解雇することも可能です。

整理解雇

事業の業績悪化に伴い人員を削減する際に行われる労働契約の解除のことです。整理解雇を行うには人員削減の必要性の説明や解雇回避努力、人選の妥当性などが求められます。

解雇を取り巻く現状

近年、解雇に関するトラブルが増加傾向にあります。

厚生労働省が発表した「令和3年度 個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、労使紛争の件数は右肩上がりとなっており、解雇・退職に関する紛争も依然として高い水準になっています。

では、なぜ労働トラブルは増加しているのでしょうか。

インターネットの普及

一昔前は「不当解雇だ」と労働者が思っても、労働に関する法律知識のない社員、あるいはそうした情報を集める術のない社員は、結局泣き寝入りするしか方法がありませんでした。しかし、インターネットが普及したことにより、労働者は労働関係に関する法律や周辺情報を簡単に集められるようになりました。

個別労働紛争解決制度の普及

個別労働紛争解決制度とは、「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」に基づいて、民事上の個別労働関係紛争の解決を図る制度のことです。

都道府県労働局長による「助言・指導」と紛争調整委員会による「あっせん」制度があり、どちらも無料で受けることができます。

以上の理由から、安易に社員を解雇すると、会社にとって深刻なリスクが生じる恐れがあります。

解雇に関する誤解

そもそも、解雇に関する誤った知識がトラブルにつながっていることも少なくありません。
解雇に関する誤解には以下のものが挙げられます。

・入社して14日以内なら、いつでも解雇できる
・試用期間中なら、いつでも解雇できる
・1ヶ月前に予告すれば、解雇できる
・解雇予告手当(1ヶ月分の賃金)を支払えば解雇できる
・パート社員(有期雇用契約者)はいつでも解雇できる

上記は、解雇に関する通説として知られていますが、実はこれらは全て間違っています。

万が一、間違った認識のままに解雇してしまった場合、労働者から訴えられたらまず勝ち目がありません。
解雇が無効となった場合、職場復帰が原則となりますが、その際に慰謝料や係争中の賃金などを損害賠償として請求される恐れもあります。

解雇に関する法律

慰謝料や損害賠償といった問題が発生しないためにも、解雇に関する法律を正しく理解しておく必要があります。

(1)解雇理由の合理性

民法では、使用者が労働契約を解除しようとする場合、2週間の予告期間をおけば、理由の如何を問わずに解雇が可能としています。
しかし、労働契約法には以下の規定があります。

労働契約法 第16条  (就業規則違反の労働契約)
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする。

解雇に関する紛争の大半は、使用者の解雇が解雇権の濫用に該当するかどうか(解雇に合理的な理由があるかどうか)です。したがって、解雇理由の合理性については、慎重に判断しなければなりません。

(2)解雇制限

解雇が無効となる期間や解雇理由にしてはいけないものがあります。

労働基準法第19条:正当な解雇理由があっても解雇できない期間

・業務上の負傷または疾病の場合で、療養のために休業する期間およびその後30日間
・産前産後休業中、産後休業から復職後30日間

労働者の責に帰す事由が発生した場合でも、上記の期間は解雇することはできません。

解雇理由にしてはいけないもの

・国籍、信条、性別を理由とする解雇
・公民権行使等を理由とする解雇
・監督機関(労働基準監督署等)に対する申告を理由とする解雇
・公益通報を理由とする解雇・結婚、妊娠、出産を理由とする場合
・育児休業、介護休業等を取得したことを理由とする解雇
・不当労働行為となる解雇

(3)試用期間中の解雇

試用期間中は、本採用決定後よりも解雇の有効性が認められやすいですが、認められやすいだけであって、いつでも解雇できるわけではありません
試用期間中であっても、解雇をする場合には、通常の解雇と同様に注意・指導が必要です。

(4)有期雇用契約者の解雇

有期雇用契約者の雇用契約は、やむを得ない事由が無い限り期間途中で解雇はできません。

労働契約法 第17条 (契約期間中の解雇)
使用者は、期間の定めのある労働契約(有期労働契約)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
2 使用者は、有期労働契約について、その有期労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その有期労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。

(5)解雇予告

労働者を解雇する場合は、原則として30日前までに解雇予告をしなければなりません。
ただし、労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合で、労働基準監督署の認定を受けた場合は、予告する必要はありません。

除外認定の基準は、通達(昭和23・11・11基発1637号)で示されています。

(イ)原則として極めて軽微なものを除き、事業場内における盗取横領、傷害等の刑法犯に該当する行為のあった場合
(ロ)賭博、風紀素乱等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす場合
(ハ)雇入れの際の採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合
(ニ)他の事業へ転職した場合
(ホ)原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
(ヘ)出勤不良又は出欠常ならず、数回にわたって注意を受けても改めない場合

(6)解雇理由証明書

労働基準法第22条に基づき、労働者から請求があった場合には、解雇理由証明書を交付しなければなりません。

労働基準法 第22条第2項
労働者が、解雇の予告をされた日から退職の日までの間に、解雇の理由について証明書を請求した場合は、使用者は、遅滞なく解雇理由証明書を交付しなければならない。

解雇に関する紛争が発生した場合には、解雇理由が争点になりがちです。
一度交付した解雇理由証明書に後から理由を付け足すことは原則として認められませんので、解雇に踏み切る際には、抜け漏れの無い解雇理由証明書を交付できるように予め準備しておくことをお勧めいたします。

なお、労働者から請求があったにもかかわらず、解雇理由証明書を交付しない場合、30万円以下の罰金に処せられる恐れがありますので、注意が必要です。

当然ですが、法律に則った形で解雇を実施しなければトラブルにつながります。
そのため、経営層は正しい知識、最新の法律を備えておかなければなりません。
解雇に関する法律についてはこちらのセミナーでも詳しく解説しますので、ご参加ください。

懲戒・解雇回避措置・退職勧奨について

解雇を実行するには、客観的かつ合理的な理由が必要になります。
そのため、対象者に対して「教育や注意・指導」「懲戒」「解雇回避措置(配置転換・降職など)」といった施策をどの程度実施したか(検討したか)もポイントになります。

「解雇」と「退職勧奨」の違い

解雇が難しい場合や、紛争のリスクを避けたい場合には、退職勧奨を実施することも考えられます。
退職勧奨とは、使用者が労働者に合意退職の申込や退職の意思表示を勧める行為のことです。

退職勧奨を実施すること自体は、経営判断として当然の行為ですが、勧奨に応じないからと言って退職を強要するのはNGです。

解雇や問題社員の解決法はTOMAにご相談ください

経営者にとって解雇という選択はなるべく避けたいですよね。
解雇は回避措置や手続きといった業務が負担となるだけでなく、紛争リスクもあります。

一番良いのは解雇をしなくても良い労働環境を構築すること、そして問題社員に対する適切な対応を行い、労働トラブルを未然に防ぐことも大切です。

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