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会計不正の事例紹介 その7(従業員の着服)

記事作成日2018/10/17 最終更新日2020/06/22

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会社は、配電制御システム、機関監視制御システム等の製造販売を行っている会社です。従業員が無断で、会社の原材料を他社に転売し、代金を着服した事例となります。「お金」と「もの」の流れが容易に思い浮かべられるわかりやすい事例でした。やはり現金取引は危ないと改めて考えさせられる、また1人に業務が集中している場合には、いつ起きてもおかしくないと考えさせられる事例であったと思われます。是非ともうちの会社は大丈夫かと業務フローを確認してみてください。

事例の紹介

(概要)
・工場の購買担当である従業員が、平成21年12月から平成30年5月までの期間において、購買した原材料を無断で、依頼を受けた他社に転売し、その売得金を不正に着服。当該従業員による着服金の総額は6億3000万円(会社に与えた損害額は約8億6000万円)に及ぶ

・共犯はなく、従業員1名で実施したものと推認

・9月14日付けで訂正報告書を提出(有価証券報告書等、内部統制報告書の訂正報告書を提出)


(発覚の経緯)
・不正を行っていた元従業員(以下、X)が体調不良で欠勤、銅材購入に関する業務処理が滞るため、担当業務を新担当者に引継ぎ。銅スクラップを売却していた会社から現金で購入した取引の領収書が届いていないので、領収書を発行して欲しいとの要請が後任者にあり

・同社から現金購入した取引資料の提出を受け、以前にも銅スクラップを現金で購入して、現金をXに渡し、Xから領収書をもらっていたとの説明あり(領収書のコピー提供もあり)。かなり以前から現金取引での銅スクラップ売却があり、代金はXが受領したままで、約2億1000万円(当初の発覚時)の入金がないことが判明し、調査委員会を設置

(着服の状況)
・銅材を購入しているA社から取引先に納入する銅材が手許にないため、在庫から融通して欲しいとの申し出あり。売却代金が現金で支払われ、Xは売却代金を着服。代金の着服が発覚しなかったため、在庫融通依頼に対する不正な銅材売却と代金の着服を継続。銅材を銅スクラップとしてA社へ売却するという手法で不正を継続。A社からXの会社の銀行口座への振込しかできなくなったとの連絡を受け、A社への売却を断念(平成21年12月から平成23年10月までで約7000万円を着服)

・その後、従来から銅スクラップを売却していたB社に対して、在庫の銅材を銅スクラップとして不正売却し代金を現金で回収するという手法で不正を開始、今回の発覚まで継続(平成24年3月から平成30年5月までで約5億6000万円を着服)


(具体的手法)
・Xは、A社及びB社に対して、領収書としてシリアル番号の記載がない市販の領収書用紙を利用していたことが判明(社名のゴム印、角印の押印あり)

・銅在庫の不正売却により、現物の銅在庫が基幹業務システム上の銅在庫を下回る事態が発生。解消のために、個々の製品製作に際して現実に使用した鋼材を上回る銅材を使用したように基幹業務システムに入力。基幹業務システム上の銅在庫を少しずつ減らし不正な銅在庫売却を隠蔽


(長期にわたり発覚しなかった理由)
・銅材の外部業者への発注、入庫の基幹業務システムへの入力、外部業者への銅材の代金支払処理、各製品製作時の銅材の原価投入(出庫管理)の基幹業務システムへの入力、製品製作時に発生した銅スクラップの売却、実地棚卸時の棚卸結果の原紙記録の記入指示という銅材に関する処理の全てをXが実質1人で担当。内部統制は有効に機能せず

・各製品製作時の銅材の出庫(原価投入)の基幹業務システムへの入力の操作により、チェックできるはずのシステム事業管理室の業務監査及び会計監査人の監査を擦り抜け


(動機と背景)

・Xは当初派遣社員として勤務を始め、その後正社員に。派遣会社が手配した賃貸マンションを退去して、自らマンションを賃借したため、敷金・礼金・引越費用が必要に。また独身のため外食も多く、毎月給与以上の支出をし、日々の生活費に困窮し、販売代金を着服。着服した現金を生活費等の不足に充当しても発見されなかったことから、着服を継続し、積極的な在庫の売却を実施

・Xは、平成21年4月から平成30年6月に後任に引き継ぐまで、銅材、鋼材、海外購入品(オーダー品)、海外購入品(在庫品)、海外特殊電線の購買を1人で担当。特に銅材は、外部業者への発注、銅材の入庫の基幹業務システムへの入力、外部業者への銅材の代金支払処理、各製品作成時の銅材の出庫(各製品への原価投入)の基幹業務システムへの入力、製品製作時に発生した銅スクラップの売却、実地棚卸時の棚卸結果の原紙記録の記入指示という鋼材に関する処理の全てを担当。この状況下では、Xのみで、銅材の数量を調整できる環境(単価、数量の操作もあり)が整っており、不正を行っても銅材の現物調整は可能で、現金取引なら着服は容易と想像

・上位者の承認の必要がない50万円以下に分け、発注内容に関して他の人のチェックを回避

・銅材は輸入品で、語学(英語、中国語、韓国語)に堪能なXは適任のため、担当は長く固定化

事例から学ぶこと

典型的な従業員の着服の事例であったと思います。現金取引を前提にすると、1人で販売して1人で回収することが可能であり、かつ、一連の業務のすべてが1人に集中している中では、現金化の対象現物について、他に気づかれることなく処理することが可能となるため、着服は容易であったと想像されます。現物管理とシステム対応が当該1人に集中しており、数量面の不一致が起こるとは考えにくく、不正の事実を発見することは難しく、担当者が変わるか、業務フローが見直され複数者の担当にならないと気づかないだろうと思われる案件でした。ただし、相手先に発行する領収書として、シリアル番号の記載のない市販の領収書用紙が使われており、相手先がおかしいと考えて、クレームを求めるようなことがなかったのは残念であったと感じました。

通常の取引先の中で行われていたため、特別に運送するというようなことがなければ、取引の異常性の判断は困難であったと思われます。調査報告書には触れられていませんが、現物を動かしているので運送の明細から異常性を確認できなかったかとか、また投入数量を操作していることから歩留率等で確認できなかったのかというようなことは、感じたところです。

業務フローの見直し等が適宜行われておらず、また各人の業務分担の確認が適宜に行われていなかったことが、結果として、長期に渡る不正を許したと考えられます。担当者の交代は事務遅延の原因となる可能性はあるものの、定期で行うことは、不正防止だけでなく、全体としては事務力の底上げにつながると考えられます。なぜ、定期的な見直しが必要かを改めて理解させる事例であったと思われます。

最後に

内部統制監査の対象となっている上場会社で、内部統制の確認がどのように行われているか、気になる案件でした。1人だけで一連の業務が行われるようになっていない業務フローとなっていないことの確認が、内部統制が有効に機能していることなのに、なぜこのようになっていたのかと考えさせられる案件でした。現物の数量まで調整することが可能な状況下では、監査人が工場在庫の棚卸に立ち会っても、既にあるべき数量が修正されており、どうしようもできないと思いました。

10年と不正が行われていた期間も長く、不正に対する考え方が希薄であったと感じられる事例であったと思います。作業がひとりで完結するようになっていないか、改めて業務フローを見直してみてください。同一業務の勤務が長くなっているようなことがないか、あるいは人に係る異動が定期的に行われているか、確認してみてください。また、全体の業務を通じて、内部統制の運用状況の確認が行われるようになっているか、確認してみてください。

現在携っている業務で、あっと感じられるようなことがある方はもちろん、ない方でも話しを聞いてみたい、相談してみたいと思われる方は、TOMA監査法人までご連絡ください。

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