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【就業規則のポイント①】適用範囲・試用期間のよくある不備と影響をわかりやすく解説!

記事作成日2022/05/18 最終更新日2022/05/19

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会社と労働者との間で守るべきルールを定めたものが、就業規則です。
「ひな形どおりに就業規則を作ったから、不備はないはず」
「就業規則に不備があるかどうかがわからない」
そのようにお考えの方は、多いのではないでしょうか。

就業規則は、一度ひな形どおりに作成したからといって、不備なく運用できるわけではありません。業種や雇用形態の種類によって盛り込むべき内容は異なりますし、関連する法改正に対応して、随時見直しの必要があるためです。

就業規則に不備があると、正社員以外の従業員にも正社員と同じ待遇を要求される・高額な時間外手当を請求されるなど、従業員とのさまざまなトラブルの原因になります。

このような就業規則の不備をなくしていくためには、まずは「よくある不備」を把握し、自社の就業規則にも同じような抜けがないかを確認することから着手するのが効果的です。
そこで今回は、就業規則のよくある不備のなかでも「適用範囲」「試用期間」の2分野に焦点を当て、以下のような7つのポイントについてわかりやすくご紹介します。

【適用範囲のよくある不備】
①適用範囲の規定が不十分
②労働契約法第18条に関する規定がない
③正社員以外を対象とする規定がない
④同一労働・同一賃金に関する規定がない

【試用期間のよくある不備】
①試用期間の定めがない
②延長規定がない
③試用期間中または満了時の解雇事由がない

上記に加えて、不備なく就業規則を作るうえで押さえるべき就業規則の基本も解説しています。このようなポイントを確認しておくことで、トラブルの予防に効果的な就業規則を整備することができるようになるでしょう。

無用のトラブルに巻き込まれてしまう前に、就業規則にありがちな不備を確認してみてください。

就業規則の不備はトラブルの原因に!

就業規則のよくある不備を確認する前に、就業規則は何のために定める必要があるのか・どのような点がポイントなのか・不備があるとどのように問題なのかといった基本的なことを解説します。

基本的な就業規則の特徴をつかんでおくことで、不備を見つけるのが簡単になったり、効果的な修正をすることが可能になったりするので、ぜひ確認しておいてくださいね。

就業規則とは

就業規則とは、会社と労働者との間で守るべきルールを定めたものです。就業規則に定めた事柄は労働契約の内容になるため、拘束力が生まれ業務命令の根拠や裁判などで争う際の材料としても使えるようになります。

定めるべき内容として最低限のポイントは法律などで決まりがあるものの、それ以外に盛り込みたい事項がある場合、基本的に自由に盛り込むことが可能です。各事業者の状況に応じて、明確に決めておきたいことは就業規則に入れておくと、もしもの時に安心でしょう。

労働基準法89条に基づき、常時10人以上の労働者を使用する雇用主は、就業規則の作成・届け出義務があります。従業員数が10人未満であれば作成義務や提出義務はありませんが、トラブル回避・良好な労働環境を作るためには、定めておくのがおすすめと言えるでしょう。

なお、労働基準法や労働協約などと就業規則との関係性は以下のとおりです。

就業規則をトラブル予防に効果的に運用するポイント

就業規則を効果的に運用しトラブルを未然に防ぐためには、以下の4つのポイントを押さえる必要があります。

【ポイント①】適用対象を明確にして具体的に定める

詳しくは「よくある就業規則の不備|適用範囲編」で後述しますが、各規定の対象がどの範囲であるのか明確にしておきましょう
全従業員が対象なのか正社員だけなのか、アルバイト・パートや嘱託社員はどうなのかといったことが不明確であると、会社側が想定していない対象から、休暇や手当を請求されるトラブルに発展するリスクがあるためです。

【ポイント②】社員に周知する

就業規則を定めるだけではなく、従業員全員に確実に内容を周知させましょう。せっかくトラブル回避や従業員の労働環境改善に役立つ規定を作っても、従業員が内容を把握していなければ効果を発揮しないからです。
就業規則の策定と周知は、セットで行いましょう。

【ポイント③】トラブルになりそうな部分ほど明確に定める

採用・退職や解雇関係・休職や復職・服務関係・懲戒・労働時間・休憩や休暇・賃金など休暇や手当に関係する部分はトラブルに発展しやすいため、具体的かつわかりやすく定めておきましょう。
万一トラブルに発展しても、就業規則が明確であれば、規定を理由に責任を回避することが可能になります。

【ポイント④】関係する法律の改正に合わせて適宜見直す

就業規則は一度整備したら終わりではなく、法改正のたびに見直すことで、トラブル予防に効果的な運用が可能です。パワハラ防止法や育児介護休業法・年金法の改正など、就業規則に関係する法律に改正があった場合は、随時見直しを行いアップデートしましょう。

就業規則に不備があると

就業規則に不備があると、さまざまなトラブルの原因になるリスクがあります。例えば、以下のようなトラブルが発生しうるでしょう。

・ボーナスの支給対象は正社員だけのつもりだったが、就業規則の適用範囲に不備があり、アルバイトの社員からボーナスを要求された
・役職手当を残業代に代えるものとして支払っているつもりだったが、就業規則に不備があり、残業代未払請求訴訟に発展した

就業規則に不備があるかどうか、よくわからない場合は、専門家に任せると確実で安心です。TOMAコンサルタンツグループでも「就業規則無料診断サービス」をご用意しておりますので、ぜひご活用ください

よくある就業規則の不備|適用範囲編

適用範囲とは、就業規則の規定が対象とする従業員の範囲(従業員区分)のことです。
労働基準法上、就業規則とは、「労働者」つまりアルバイトやパートなども含めた全従業員について定める必要があります。そのため適用範囲が明確でなければ、正社員向けに作ったつもりの規定が、全従業員に適用される事態になりかねません。

狙った対象に狙いどおりの効果を発揮させるためには、適用範囲を明確にして就業規則を定めることがとても大切なのです。
ここでは、適用範囲に関する就業規則のよくある不備について、以下の4点をご紹介します。

【適用範囲のよくある不備】
①適用範囲の規定が不十分
②労働契約法第18条に関する規定がない
③正社員以外を対象とする規定がない
④同一労働・同一賃金に関する規定がない

【適用範囲のよくある不備①】適用範囲の規定が不十分

規定に、対象となる従業員区分がまったくない・不明確であるといった場合が、この不備に該当します。
対象が不明確とは、「従業員は」としか定められておらず、どの従業員区分を指しているのかわからない場合や、「正社員以外は」としているが、実は契約社員のことでパート・アルバイトは含まない趣旨である場合などが挙げられるでしょう。

このような不備があると、会社側が意図した対象以外にも就業規則の効果が発生してしまい、不利益を被る危険性があります。

例えば、アルバイト・パートには支給しない予定の賞与を支払う羽目になる、正社員のみにあたえるはずだった休暇を全従業員が取得可能になる、などが考えられるでしょう。

このような事態を防ぐためにも、自社に存在する従業員区分をすべて確認したうえで、どの区分を対象にした規定なのかを明確に定めることが大切です。

【適用範囲のよくある不備②】労働契約法第18条に関する規定がない

労働契約法第18条とは、有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合は、有期契約労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換させることを義務づける条文です。
この条文によって発生する可能性の高い無期労働契約パートタイマー向けの規定が無い場合が、「労働契約法第18条に関する規定がない」不備に該当します。

無期労働契約パートタイマー向けの規定が無いと、定年の時期など有期契約パートタイマーにはない事柄で、トラブルに発展する危険性があるでしょう。
パートタイマーは、有期だけでなく無期転換後の場合にどう取り扱うかを検討し、就業規則に落とし込んでおくことが必要です。

【適用範囲のよくある不備③】正社員以外を対象とする規定がない

正社員向けの規定であることが明確であっても、就業規則が1つだけで、他の従業員区分向けの就業規則がない場合も、不備がある状態です。従業員区分には、正社員以外にも契約社員・パートタイマー・アルバイト・嘱託社員など、さまざまな種類があります。

このような他の従業員区分向けの就業規則がない場合、正社員向けの就業規則が適用されるのではないかと主張されるリスクがあるでしょう。正社員向けの規定を明確にしたら、正社員以外の従業員区分ではどうなるのかも明確にしておきましょう。

なお詳しくは次項で説明しますが、正社員と正社員以外の従業員で待遇を変える場合は、職務内容や責任の重さを変えるなど、差をつける合理的な根拠を準備する必要があります。

【適用範囲のよくある不備④】同一労働・同一賃金に関する規定がない

働き方改革関連法の施行に伴い、2020年4月(中小企業は2021年4月)から「同一労働同一賃金」が施行されました。
これに伴い、従業員区分によって待遇に差をつける場合は、「同一労働ではない」ことを説明しやすいように、従業員の定義(雇用区分別)に職務の内容を追加することを検討する必要があります。
従業員区分ごとの職務内容が明確でないと、「同一労働なのに待遇に格差がある」として、トラブルに発展する可能性があるためです。

トラブル予防に効果的な就業規則にするためには、従業員区分ごとに定めるとともに、従業員区分間で差を設ける場合は、待遇差が合理的であると判断できるように根拠も合わせて定めておきましょう。

よくある就業規則の不備|試用期間編

試用期間とは、実際に勤務させることでしか知り得ない従業員としての能力や勤務態度などをみて、本採用するかどうか検討するための期間です。

試用期間に関する就業規則の規定に不備があると、試用期間であれば不要な解雇予告や手当の支払いが必要になったり、トラブルに発展したりする原因になります。
ここでは、試用期間に関するよくある就業規則の不備3つについて、確認しましょう。

【試用期間のよくある不備】
①試用期間の定めがない
②延長規定がない
③試用期間中または満了時の解雇事由がない

【試用期間のよくある不備①】試用期間の定めがない

就業規則の不備でありがちなのが、そもそも試用期間の定め自体がないというケースです。
試用期間は一般的にどこの企業でも設けられているので、特に定めがなくても、任意の期間試用できるものと思われがちですが、「どれくらいの期間、どういう条件で試用するのか」などを明確にしておく必要があります。

就業規則に不備があると、試用期間であれば14日以内の解雇の場合不要になる解雇予告や解雇手当が必要となり、従業員の適性を見極めて本採用を検討する期間を確保できなくなってしまうでしょう。

従業員の能力や勤務態度を確認して本採用を検討することができるように、就業規則には試用期間を明示しておくことをおすすめします。
なお、就業規則に試用期間を定める際は、3ヶ月から6カ月の期間を設定するのが一般的です。

【試用期間のよくある不備②】延長規定がない

試用期間は明示してあるけれど延長規定は定めていないという場合も、注意が必要です。
就業規則に試用期間の延長規定が無いと、延長はできません。
そのため、就業規則に定めのある試用期間が終わった後で、特定の従業員に対して試用延長をすることは「不利益な取扱い」になってしまいます。
また、本採用拒否の意思表示をしないまま、就業規則に定める試用期間が経過すると、労働契約上は本採用が確定してしまうのです。

トラブルを避けるためには、「当初の試用期間で本採用について判断がつかない場合は、最長で3ヶ月間試用期間を延長できるものとする」などの規定を、就業規則に追加しておくことをおすすめします。

なお、延長できる期間は、当初の試用期間を含めて1年以内になるようにしましょう。判例では、長すぎる試用期間は合理性のないものとして、無効としたケースがあります。

【試用期間のよくある不備③】試用期間中または満了時の解雇事由がない

試用期間の途中や試用期間が経過した際に、どのような場合に解雇できるのか触れていないケースもよくある不備です。

本採用としない判断基準を具体的に規定しておかないと、自社に適性が無いと判断し本採用は見送るとなった場合に、相手方の納得が得られず争訟などのトラブルに発展するリスクが高くなってしまいます
就業規則には、本採用しない場合を明確に規定したうえで、試用期間開始時に相手方にも本採用しない基準をきちんと説明しておくことが大切です。

なお、試用期間といえども、どのような理由でも解雇できるわけではありません。正当な理由に基づく解雇であることが必要である点に注意しましょう。
正当な理由とは、例えば以下のようなものが該当します。

・業務遂行能力がないと判断できる経緯があった
・無断での欠勤や遅刻が多い
・協調性に欠けチームプレーが難しい

このような状況について、指導・教育を施しても改善が見受けられなかったという事実が、客観的に証明可能であることが求められます。試用期間中の従業員を解雇する場合でも、解雇に至るまでの過程について記録を残しておきましょう。

まとめ

適用範囲が不明確なケースや試用期間についての定めが不十分なケースなど、就業規則にはさまざまな不備がありがちです。ひな形を使用して作ったからといって、安心できないのが就業規則。この機会にぜひ就業規則を見直し、思わぬトラブルの発生リスクをなくしてしまいましょう。

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また、今回の「①適用範囲・試用期間」編に続き「②労働時間と休日・休暇」について解説した下記のブログもぜひご覧ください。

就業規則のポイントをまとめて記載しているブログもあります。就業規則の基礎知識や全体像を把握したいという方はこちらをご覧ください。

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