今現在アメリカにお住まいの方であっても、近い将来、日本に帰国して余生を過ごしたいとお考えの人は多いと思います。ただ、その場合、アメリカに残してある不動産や株券などの財産をどのようにしたらよいか、お悩みの方も多いのではないでしょうか?
大事な資産を、いかに次世代に残していくか。このブログでは、現在アメリカにお住まいで将来日本に帰って”終活”を行いたい方に向けて、日本の相続制度について詳しく解説します
目次
納税義務者と財産の所在地
日本の相続税は税制の改正により、一部納税義務者が変更されましたが、将来、日本に帰国し日本で亡くなると、アメリカに置いてきた財産も含め、全世界にある財産に対し、日本の相続税が掛かります。
以下、日本に住むアメリカ人がどのような条件で日本の相続税が適用されるかを解説します。また、財産の所在地はどのように判定されるのかを解説します。
日本の相続税(贈与税)の納税義務者
今までは、一時的に来日しているアメリカ人も、日本で亡くなると、日本だけではなくアメリカを含む全世界にある財産すべてに日本の相続税が掛かっていました。
しかし、2021年の税制改正によって一定の要件を満たす外国人は、日本で亡くなっても、日本にある財産にしか、日本の相続税が掛からなくなりました。
また、亡くなった方が日本に住所がなくても、一定の方は、全世界にある財産に日本の相続税が掛かります。つまり、被相続人、相続人の国籍、住所、財産の所在地によってどの国に相続税を支払うのかが決まります。
財産の所在地の判定と国外財産の評価
財産の所在地がどこにあるかを判別する方法は、条件によって変動します。日本の銀行でも海外支店に預金をすれば、財産の所在地は日本ではなく海外です。
また、日本の証券会社で購入した海外の会社の株式は所在地が海外と判定されます。このように、所在地の判定は複雑です。そのため、財産の所在地を確認せずに安易に決めつけず、しっかり確認しておく必要があります。次の項目で具体的な例を紹介します。
例① 日本の銀行のLA支店の預金を相続したときの所在地
日本の銀行であるもののアメリカのロサンゼルス(以降LA)にある支店に預金した場合は、財産の所在地はアメリカです。アメリカに財産がある場合、被相続人、相続人の国籍、住所が日本であっても、日本での相続税申告だけでなく、アメリカでも遺産税の申告が必要になる可能性があります。
例②日本の証券会社で購入したLAの会社の株式を相続したときの所在地
日本の証券会社でLAに本店がある会社の株式を購入した場合は、株式の所在地はアメリカが所在地と判定されます。このように、株式投資でも購入場所である証券会社を所在地だと勘違いしやすいため、日本国外の株式には注意しましょう。会社の本店がどこなのかをしっかり確認しておくことが重要です。
帰国前に知っておきたいアメリカのこと
アメリカには日本と制度が異なる部分がいくつかあります。相続がスムーズに進まない原因になることもあります。
互いの制度を把握しておかないと相続の際に思わぬ余計な費用と手間がかかる場合があるため、しっかり把握しておきましょう。
Joint TenancyとJoint Account
Joint TenancyとJoint Accountは日本には存在しない制度です。
Joint Tenancyとは不動産に関する制度で、日本語で直訳すると、不動産を複数人で「含有」する、といいます。
たとえば、日本に国籍、住所のある夫婦がJointでアメリカ不動産を購入した際に、夫が100%支払いをしたとします。
その場合、不動産の半分を妻に贈与したとみなされてしまいます。
Joint Accountは複数人名義の口座ですが、日本の考え方では、その口座に、夫の稼いだお金だけしか入っていなければすべて夫のお金とみなされ、全額夫の相続財産になります。日本で言う、名義預金に近いものです。
アメリカの出国税(EXIT TAX)
アメリカでは過去15年間の内8年以上グリーンカードを保持していた永住権放棄者、国籍離脱者には、以下の条件に当てはまるかを確認しておきましょう。
(1)放棄前・離脱前の5年間の平均連邦所得税額が$171,000を超える
(2)放棄日・離脱日の全世界純資産(債務も考慮)が$2,000,000を超える
(3)放棄前・離脱前の5年間の連邦個人所得税申告納税への準拠について宣誓証明ができない
上記のいずれかに該当した場合、みなし譲渡益の時価評価税、繰延課税資産の源泉課税、相続贈与の受益者課税という出国税が適用されます(詳しくは、アメリカの弁護士、CPAへご相談下さい)。$725,000の非課税枠があるものの、出国者はFederal Registerにその名前が公表されます。しかも、市民権離脱者からの贈与や相続で、アメリカ在住の家族が取得した財産には40%の厳しい税が課せられます。
アメリカでのプロべート対策
相続発生後、財産総額が州法で定められた一定額を超えると、財産はプロベートという裁判所の管理下に入ります。
アメリカの財産については、被相続人がアメリカ非居住者でも対象です。よって、日本に帰国後も、アメリカに残した財産がプロベートの対象になる可能性があります。
なお、プロベートの手続きが完了するまでに数年かかり、その間弁護士等への報酬も発生します。プロベートには、時間と費用がかかるだけでなく、個人情報もオープンになってしまいます。
日本の相続税の申告納税期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月と定められています。そのため、プロベートの手続きをしている間に日本における相続税の納付期限が過ぎてしまいます。帰国前に、リビングトラストなどの回避方法をアメリカ弁護士に相談し対策をしてください。
遺言(Will)日本と海外に財産がある場合
日本の公正証書遺言にアメリカの別荘が財産として記載されていても、殆どの州では受付してくれません。
もし受付ができなくなると、遺言自体は有効でも相続が進まないという事態に陥ります。そのため、アメリカの財産に関してはアメリカで遺言とリビングトラストなどを作成しておくとよいでしょう。日本の財産に関しては、日本で公正証書遺言を作成しておくと手続きがスムーズに進みます。
海外送金の現状
昨今、海外送金において制度変更がありました。さまざまな変更の解説と、変更を受け、どのように国をまたいだ送金をすればよいのかについて、アメリカを例に解説します。
2019年1月以降マイナンバーがないと海外送金ができないのか
アメリカの口座から日本の口座への送金は、2021年12月31日からマイナンバーがなければ入金できないようになりました。
2019年12月施行のデジタル手続法
デジタル手続き法では、国外転出者の個人番号カード、公的個人認証の発行が可能、マイナンバーカードの発行が可能となります。
「海外送金に関するお尋ね」とは
銀行は100万円以上の送金があったときに税務署に報告する義務があります。100万円以上の海外送金が確認された際に税務署から「海外送金に関するお尋ね」が届くことがあります。海外送金したお金が何に使われるのか等を尋ねられます。答えることは義務ではありませんが、できるだけお尋ねには答えるようにしましょう。正直に答えれば問題ありません。
まとめ
将来、日本に帰国し日本で亡くなると、アメリカに置いてきた財産も含め、全世界にある財産に対し、日本の相続税が掛かります。相続税申告と納税の期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。
よって、アメリカの財産について、プロベートの対象になってしまうと期限内の申告・納税に間に合いません。そのため、必ずプロベート対策をしておいてください。アメリカ側の相続対策と日本側の相続対策をできるだけ早めに行いましょう。
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