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後継ぎ、決まっていますか? クリニックの医業承継(親族内)について事例を交えて紹介します。

記事作成日2024/05/13

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高齢化社会が進む日本。
2025年には平均引退年齢とされる70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となりますが、うち約半数の127万人が後継者未定と言われています。このまま放置すると廃業などで約22兆円のGDPが失われる可能性があります(中小企業庁調べ)。

このように高齢化社会が各分野に与える影響を「2025年問題」と呼びますが、医療業界にとっても例外ではありません。これを読まれている医療関係者の中にも、自院の事業承継、すなわち「医業承継」が現実的な問題として迫っている方もいるのではないでしょうか?

今回は、親族内で事業承継したケースを例に、TOMAでお手伝いした医業承継の事例をご紹介します。親族内への医業承継を考えている方はぜひご参考にしてください。

医業承継について

クリニックの事業承継は、大きく分けて個人経営のクリニック法人経営の医療法人があります。それぞれ、親族内承継親族外承継(第三者への譲渡)かで手続きの違いがあります。また医療法人に関しては、これに加えて他の医療法人との合併という選択肢があります。

クリニックと医療法人それぞれについて、事業承継の形態や手続きの概要について解説していますので、下記をぜひご一読ください。

また、今回は医療法人の事例に焦点を当てていますが、個人開業医の承継時の手続きについては下記のブログにまとめています。

親族内事業承継の事例

こちらで紹介する事例は、医療法人に対して、親族内での医業承継の方針決定からリタイア後の財産対策、出資持分対策までTOMAの医業承継サービスとして行ったものです。

事例:持ち分ありの医療法人で、理事長を務めていたお父様からその法人で勤務していたご子息へ事業承継を実施

事例の背景

お父様はAクリニックの理事長兼院長で、ご子息は医師としてそのAクリニックに勤務していました。持分ありの医療法人で、開業当初の持分(出資額)は1,000万円でしたが、年々純資産額は膨らみ持分は8,000万円にまでなっていました。まずはじめに、経営権をどのように移行していったのかご紹介します。

経営権について/段階的な経営権の委譲

前述の通りAクリニックでは、お父様が理事長と院長を務めていました。承継の準備として、理事長と院長の職をご子息に引き継ぐことが決まりましたが、理事長と院長をまとめて一度に変更するのではなく、段階的な移行を選択することになりました。理由は、まずはご子息に経営権を少しずつ譲り渡し、ご子息にクリニックを引き継いだというご自覚を持ってもらうためでした。

そうして、まず最初に院長のポジションをお父様からご子息に移しました。その後、理事長の役職も引き継ぐことで、経営権が徐々に移行することになり、ご子息に責任をご自覚いただく時間を確保しました。理事長の役職を引き継いだ後は、医療法人の持分の贈与を行いました。

医療法人の持分を引き渡す際には、贈与か譲渡をすることになります。今回は、持分を贈与することになりましたが、贈与の場合、持分の金額が大きいと贈与税も高額になる可能性があります。次の項目で、どのように贈与税の対策をしたのかご紹介します。

持分贈与について/退職手当の支給と相続時積算課税制度

まず、持分を贈与する際に発生する贈与税の対策として、持分評価額を下げるための退職手当の支給と、相続時精算課税制度をご紹介します。

・持分評価額を下げるための退職手当の支給

持分の評価額を下げるため、退職手当を支給するという方法があります。退職手当を支給し、純資産額が小さくなることで、持分の評価額が小さくなる可能性があります。また、退職手当は、所得税法上退職所得となります。退職所得は下記のように計算します。

「(収入金額(源泉徴収される前の金額) - 退職所得控除額) × 1 / 2 = 退職所得」

そして、退職所得は持分の評価額を下げるだけでなく、下記に記載したようなメリットを受けることもできます。

勤続年数に応じた退職所得控除

前年以前に退職金を受け取ったことがある場合や、同一年中に2か所以上から退職金を受け取るときなどは、控除額の計算が異なることがありますのでご留意ください。

②1 / 2 課税
先ほど記載した退職所得の計算式のように、退職金から退職所得控除額を差し引いた額の、2分の1が退職所得の金額となります。

③他の所得と分離して所得税額を計算する分離課税
他の所得と分離して、所得税額の計算を行います。

上記に記載したものは原則の計算方法になるため、実際に計算される際には、専門家にご相談ください。

今回の事例では

贈与を受けた場合、暦年課税と相続時精算課税のどちらかにより税金計算を行いますが、今回の事例では、相続時精算課税制度を適用し、税金の対策を行いました。今回の事例で選択した相続時精算課税制度は、最大2,500万円までの贈与について贈与税が非課税となり、相続が開始したときに、その贈与財産と、ほかの相続財産を合わせて相続税を課税するという制度です。

この制度を選択すると、その選択に係る贈与者から贈与を受ける財産については、その選択をした年分以降すべてこの制度が適用され、暦年課税へ変更することはできなくなります。暦年課税と相続時精算課税の選択については、長期にわたった慎重な判断を行う必要があるためご注意ください。

今回の事例で、相続時精算課税制度を選択した理由は、贈与財産である持分を、贈与時の価格で計算することができるため、純資産額が年々増加していたAクリニック様では、相続時の税金の金額をおさえることができると判断したためです。

また、相続時精算課税制度の対象者は、下記の通りです。

贈与者…贈与した年の1月1日において60歳以上である父母又は祖父母
受贈者…贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の者(ただし、2022年3月31日以前の贈与により財産を取得した場合は20歳以上)である子や孫

暦年贈与との違いなど、相続時精算課税制度については下記のブログで説明しています。あわせてご一読ください。

事業承継後の安定運営もTOMAにお任せください

ここまで、TOMAでお手伝いした事例を通して事業承継の対策方法についてご説明をしてきましたが、承継のお手伝いだけではなく、その後も安定した運営ができるようご支援しています。

医療月次顧問サービス

病院・医院の経営支援に特化した部署で、記帳や税金だけにとどまらない総合的なコンサルティング(医療月次顧問)を行っています。前月までの収支である月次決算書をもとに、経営数値の分析や節税対策、資金繰りのアドバイスや、経理合理化支援、経営に役立つ最新情報の提供等を通して、医院経営のお手伝いをしています。

その他、将来的な法人設立や相続対策など

また、長期的には、将来的な経営ビジョンや事業承継までを見据えて医療法人の設立支援や将来の相続対策まで、各分野の専門家が連携し貴院の立場に立った最適な選択肢をご提案しています。承継後の運営についても安心してお任せください。

貴院にとって最適な医業承継をお手伝いします

医業承継は、クリニックの今後を決める大きな選択となるため、ご不安を感じている方も多いと思います。TOMAでは医業承継サービスとして、様々な要素を踏まえたうえで、最適なプランをご提案させていただきます。詳しくは下記をご覧下さい。

前述の通り、医業承継だけでなくその後経営状況にご不安がある場合や今後の相続など、事業承継後の安定運営についてもTOMAでお手伝いすることが可能です。詳しくは以下よりお問い合わせください。