令和6年6月1日から施行される令和6年度診療報酬改定の概要が厚生労働省より公表されました。
今回の診療報酬改定では、医療DXの推進やポストコロナにおける感染症対策の推進に関わる項目など多岐にわたる項目が改定されますが、今回は、診療報酬改定の中でも特に賃上げに関連する内容について紹介いたします。(2024年5月29日「届け出期限の延長」追記)
目次
医療従事者の賃上げ
賃上げを目指す背景
はじめに、医療従事者の賃上げが必要となっている背景を紹介します。
最近、光熱費など物価の高騰や、春闘などで賃金上昇の状況が話題になりました。このような状況は、医療分野のサービス提供や医療従事者の人材確保に影響を与えています。
高齢化等により医療需要は増加しているものの、医療業界は、人材確保のために必要な賃上げの状況が他の産業に追いついていないといった理由もあり、特例的な対応として、令和6年度の診療報酬改定で医療従事者の賃上げの実現を目指すこととなりました。
賃上げの内容
厚生労働省では、令和7年度までの2年間にわたり、ベースアップの目標数値を設定しています。
〈令和6年度〉 ベースアップ+2.5%
〈令和7年度〉 ベースアップ+2.0%
具体的な賃上げの方法ですが、下記①~③を組み合わせ、ベースアップ目標数値の達成を目指すことになっています。
①医療機関等の過去の実績
②報酬改定による上乗せの活用
③賃上げ促進税制の活用
賃上げ促進税制については、ブログの最後でもう一度ふれます。続いて、賃上げのために行われる診療報酬改定がどのような内容なのか確認します。
賃上げに関する診療報酬改定
賃上げのための診療報酬改定は、職種によって2つの改定があります。
+0.61%の改定
(内容)「外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)、(Ⅱ)」、「入院ベースアップ評価料」といった診療報酬を創設します。ベースアップ評価料の算定要件は、当該評価料による収入を原則、全額ベースアップ等に充てることになっています。
(職種)薬剤師、保健師、助産師、看護師、准看護師、看護補助者、理学療法士、作業療法士、視能訓練士、言語聴覚士、義肢装具士、歯科衛生士、歯科技工士、歯科業務補助者、診療放射線技師、診療エックス線技師、臨床検査技師、衛生検査技師、臨床工学技士、管理栄養士、栄養士、精神保健福祉士、社会福祉士、介護福祉士、保育士、救急救命士、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゆう師、柔道整復師、公認心理師、診療情報管理士、医師事務作業補助者、その他医療に従事する職員(医師及び歯科医師を除く。)
+0.28%程度の改定
(内容)初再診料等や入院基本料等の引き上げを行います。
(職種)40歳未満の勤務医師、40歳未満の勤務歯科医師、40歳未満の薬局の勤務薬剤師、事務職員、歯科技工所等で従事する者
続いて、新しく創設されるベースアップ評価料についてみていきます。
ベースアップ評価料
ベースアップ評価料の概要
ベースアップ評価料は、令和6年度と令和7年度のそれぞれで、対象職種の給与総額の2.3%になるよう設定されています。ベースアップ評価料は、厚生労働省より提供されているツールを使い、試算することができます。そして、その算定額は、全て賃金の引き上げに充てることになります。
また、ベースアップ評価料の配分方法は、令和6年度と令和7年度ごとに、それぞれ算定した額を充てることもできます。ただ、すべてを算定した年の賃金の引き上げに充てるのではなく、令和6年度に試算したベースアップ評価料を繰り越し、令和7年度分のベースアップ評価料に加えて令和7年度にまとめて賃金の引き上げに充てることもできます。
また、繰り越しをせずに他の職種の賃金引き上げに充てることも可能です。
試算の方法
ベースアップ評価料による算定見込みや医療従事者の賃上げ見込みの試算をするために、「ベースアップ評価料計算支援ツール」があります。厚生労働省のHPに、医科・歯科・訪問看護用のベースアップ評価料計算支援ツールがありますので、試算の際には、該当するものををご利用ください。
〈手順1 対象職員の給与総額を計算〉
対象職員は、+0.61%の改定の対象職員で、病院、診療所、歯科診療所、訪問看護ステーションに勤務する看護職員、病院薬剤師その他の医療関係職種のことです。具体的には、先ほどの記載の通り、下記の職種です。
【対象職種】薬剤師、保健師、助産師、看護師、准看護師、看護補助者、理学療法士、作業療法士、視能訓練士、言語聴覚士、義肢装具士、歯科衛生士、歯科技工士、歯科業務補助者、診療放射線技師、診療エックス線技師、臨床検査技師、衛生検査技師、臨床工学技士、管理栄養士、栄養士、精神保健福祉士、社会福祉士、介護福祉士、保育士、救急救命士、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゆう師、柔道整復師、公認心理師、診療情報管理士、医師事務作業補助者、その他医療に従事する職員(医師及び歯科医師を除く。)
+0.28%の改定の対象となる職種(40歳未満の勤務医師、40歳未満の勤務歯科医師、40歳未満の薬局の勤務薬剤師、事務職員、歯科技工所等で従事する者)については、対象外となりますので、給与総額には含めないよう、試算する際には、ご注意ください。役員報酬についても給与総額の対象外です。
また、給与総額には、賞与や法定福利費等の事業主負担分を含める必要があります。
特に、法定福利費等の事業主負担分を厳密に計算すると、作業量が増え、試算を行う人にとって大きな負担がかかります。そのため、法定福利費が必要な対象職員の給与総額に 16.5%(事業主負担相当額)を含めて計上する方法でも差し支えないこととされています。また、対象職員個人の給与を集計することとなるため、個人のクリニックでは、先生ご自身で試算されることも多いかと思います。ご注意ください。
〈手順2 ベースアップ評価料の算定見込みの計算〉
外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)
対象期間の初再診料等の算定回数を入力します。
外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)
無床診療所については、要件に該当する場合、外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)も試算します。試算する際には、医療機関の区分を選択する項目がありますので、無床診療所を選択すると、算定区分を確認することができます。
また、外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)の要件は、以下に記載したもの等があります。
・外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)の算定見込みだけでは、賃金増率が1.2%に満たない場合。
・対象職員が常勤換算で2人以上勤務していること。
・社会保険診療等に係る収入金額の合計額が、総収入の80%を超えること
ここでの「社会保険診療等に係る収入金額」には、保険診療だけでなく、厚生労働省より具体的に明記されている他の収入源も含まれます。例えば、
・予防接種に係る収入
・助産に係る収入(一の分娩に係る助産に係る収入金額が五十万円を超えるときは、五十万円が限度)
があり、これらは「社会保険診療等に係る収入金額」に含めることができます。
記載したもの以外にも要件があるため、実際に試算される際には、ご確認いただくようお願いします。
入院ベースアップ評価料
病院・有床診療所については、入院ベースアップ評価料も試算します。試算する際には、対象期間の延べ入院患者数を入力し、医療機関の区分を選択する項目がありますので、病院・有床診療所を選択してください。その後、算定区分を確認することができます。
入院ベースアップ評価料についても、社会保険診療等に係る収入金額の合計額が、総収入の80%を超えることなど、いくつかの要件がありますので、試算前にご確認いただくようお願いします。
〈手順3 医療従事者の賃上げ見込みの試算〉
「ベースアップ評価料による1月当たりの収入合計」等について、確認します。こちらの試算を確認後、具体的な賃上げの準備(賃金引き上げの計画、労使交渉、給与規定の改定等)を行うことになります。それらを行った後、施設基準の届出、計画の報告を行います。
計画書・報告書の提出について
試算等を行った後は下記のような流れで進めることになります。
賃金引き上げの計画の作成
↓
計画に基づく労使交渉等
↓
計画に基づく給与規程の改正
↓
施設基準の届出及び期中の区分変更の届出
↓
賃上げ状況の報告(令和6年度・令和7年度)
ベースアップ評価料を試算する医療機関等は、今後基準の届出書と合わせて、賃金引上げに係る計画書及び報告書を地方厚生(支)局に提出することになります。
届け出期限の延長
ベースアップ評価料(Ⅰ)について、6月算定開始における届出期限が延長されました。令和6年6月診療分からの算定に当たっては、届出を令和6年5月2日から6月3日までに行っていただく必要がありますが、下記について、地方厚生(支)局への施設基準の届出期限が、6月21日まで延長されています。
・外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)
・歯科外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)
・訪問看護ベースアップ評価料(Ⅰ)
この届出期限の延長は、ベースアップ評価料(Ⅰ)のみですので、下記については、6月1日から算定する場合、これまでどおり6月3日までの届出が必要となります。ご注意ください。
・外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)
・歯科外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)
・入院ベースアップ評価料
・訪問看護ベースアップ評価料(Ⅱ)
賃上げ促進税制について
賃上げ促進税制も利用して、ベースアップを達成することを目標としています。賃上げ促進税制について詳しくは下記ブログを参考になさってください。
【節税対策】賃上げ促進税制、適用要件をチェック!
2024年4月1日より前に、事業年度が開始するクリニックに関する内容です。税制改正前の賃上げ促進税制について紹介しています。
【医療・介護業界向け/令和6年度】税制改正大綱を詳しく解説!
2024年4月1日以降に、事業年度が開始するクリニックに関する内容です。クリニック特有の内容についてもふれており、税制改正後の賃上げ促進税制について紹介しています。
令和6年度税制改正のポイントをわかりやすくまとめました【資料ダウンロード】
2024年4月1日以降に、事業年度が開始する場合で、繰越控除措置など賃上げ促進税制の制度自体について詳しく知りたい方は、こちらをご確認ください。税制改正後の賃上げ促進税制について紹介しています。
要件等は複雑ですので、算定前に詳細をご確認いただくようお願いします。TOMAではお客様に最新の情報を提供しています。本ブログに関心を持っていただけた方は是非こちらまでお問い合せください。
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