新型コロナウイルスの世界的な蔓延とともに、従業員を海外へと赴任・駐在・転勤させていた際の税金の取扱いは複雑化しています。
そこで今回は、所得税についての基本事項の確認と具体的な事例でそのポイントを解説していきます。
目次
居住者と非居住者とは
最初に居住者と非居住者について見ていきましょう。
・居住者とは、国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人をいいます。
・非居住者とは、居住者以外の個人をいいます。
居住者と非居住者の課税関係
日本の居住者(永住者)は、国内源泉所得だけでなく国外源泉所得についても課税対象となります。課税所得に対する税率は累進税率となっています。一方で、非居住者は国内源泉所得のみが課税対象となり、税率は一律20.42%となります。
また厳密には永住者・非永住者という区分もあるので、気になった方はこちらのブログに解説があります。
>>Resident Status and Tax Treatment(英字ブログ)
国内源泉所得・国外源泉所得とは
ここで注意するポイントは、国内源泉所得・国外源泉所得とは何かという点です。今回のように従業員の給与の場合には、従業員がどの勤務地国で給与を得ているかで考えましょう。
つまり日本勤務者が海外子会社の仕事をし海外子会社から給与を支給されているような場合であっても、その給与所得は国内源泉所得になるので注意が必要です。
一時出国していた従業員を日本に帰国させない場合の事例
事例:内国法人A社は、これまで従業員を海外現地法人に派遣(3ヶ月)してきましたが、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う移動制限を踏まえて、この派遣期間が終了した後も当分の間、従業員を日本に帰国させることなく、引き続き現地において、当社の業務に従事させています。
この従業員には、内国法人A社から給与を支払っていますが、このような場合派遣期間中に支払った給与に関する源泉徴収の手続きと何か変更点はありますか。なお、この従業員は、通常は日本国内で暮らしており、帰国後も同様です。
ポイント:この従業員は国内に住所を有していると考えられるため、「日本の居住者」に該当します。またこの従業員は現地において勤務しているためこの給与は国外源泉所得となりますが、居住者であるため内国法人A社は派遣期間中と同様に所得税を源泉徴収する必要があります。
ただし、この従業員の派遣期間が1年を超える場合には、再度居住者か非居住者かの確認をする必要があります。また、海外で課税された場合には二重課税を調整する外国税額控除の適用が受けられる場合がございますので確認すると良いと思います。
海外に出向していた従業員を一時帰国させた場合の事例
事例:内国法人B社は、海外現地法人に従業員を出向(1年以上)させていましたが、今般の新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、従業員を日本に一時帰国させており、現在この従業員は日本で海外現地法人の業務に従事しています。
この従業員には、出向先である海外現地法人からの給与のほか、現地との給与水準の調整等を踏まえ、B社から留守宅手当を支払っています。
このような一時帰国者については、租税条約の適用により所得税が課されない場合があると聞きましたが、B社がこの従業員に支払う留守宅手当について源泉徴収は必要でしょうか。また、この従業員は、日本で確定申告をする必要があるでしょうか。
なお、給与の支給形態は帰国後も変更はなく、海外現地法人は、日本国内に支店等を有していません。
ポイント:通常1年以上の予定で海外赴任している人は「日本の非居住者」にあたります。この海外赴任者が一時帰国して日本で勤務した際に、留守宅手当などの日本払いの給与・賞与は非居住者の国内源泉所得
として20.42%の源泉徴収を行う必要があります。(源泉分離課税で完結し、還付などの手続きはできません)
なお、この一時帰国している間の日本負担分の留守宅手当については、下記の「短期滞在者免税の要件」の2及び3を満たさないため、短期滞在者免税の適用はありません。
海外現地法人が支払う給与についての取扱いの事例
事例:海外現地法人が上記6のような非居住者である従業員に支払う一時帰国している間の給与については、どのような取扱いになるでしょうか。
ポイント:この場合は、国内で行う勤務に基因するものと認められるため、国内源泉所得として所得税の課税対象となり、20.42%で課税されます。
ただし、この海外現地法人には源泉徴収の義務はないので、この従業員はこの分の給与について、日本における確定申告の提出及び納税をする必要があります。
一方で、上記のように課税対象となる場合であっても、その給与所得者の居住地国と日本との間に租税条約等があり、非居住者である給与所得者が租税条約等における短期滞在者免税の要件を満たす場合には、所定の手続を行うことで日本における所得税が免除されます。
「短期滞在者免税の要件」※一般的なものであり、必ずしもこの要件通りではありません。
1.滞在期間が課税年度又は継続する12か月を通じて合計183日を超えないこと。
2.報酬を支払う雇用者等は、勤務が行われた締約国の居住者ではないこと。
3.給与等の報酬が、役務提供地にある雇用者の支店その他の恒久的な施設によって負担されないこと。
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