2026年度の地域別最低賃金(時給)改定に向けた議論が本格化し、7月末には新たな目安額が発表される見通しです。
今年の注目は、高市政権の「日本成長戦略」です。「全国平均1,500円」の達成目標は2030年代前半へと後ろ倒しされましたが、賃上げの動向については引き続き注視が必要です。政府は2029年度までに「物価上昇+1%の実質賃金上昇」を社会通念として定着させる方針であり、企業に対しては今後も継続的な賃金引き上げが求められる見通しです。
今回のブログでは、2026年の動向予測から「今更聞けない基本知識」「実務で陥りやすい注意点」、そして「中小企業が取るべき具体策」まで、TOMAの現場経験を踏まえて解説します。
経営者・人事担当者の皆様にとって、賃上げへの対応は企業経営に直結する重要な課題です。今後の対応のイロハとして、ぜひ最後までお読みください。
※過去に掲載したブログを加筆修正・再構成しています。
目次
2026年度最新情報/中央最低賃金審議会の答申内容について
2026年度の最低賃金(時給)改定を巡る議論が、6月26日に厚生労働省の審議会で始まりました。
春闘を受けた賃上げや中東情勢などによる物価高騰を材料に労使の攻防が続いており、数十円引き上げ、全国平均1,100円台後半を視野に入れた展開が予想されています。
労働者側は昨年度並みの水準を目指す方向ですが、経営者側は実態とかけ離れた引き上げは中小・零細企業を疲弊させ、雇用控えなどで地域経済の減退につながるとして抑制を求めています。
今後は、各地方最低賃金審議会で本答申を参考に審議され、各都道府県労働局長が2026年の地域別最低金額を決定することになります。
昨年度(2025年度)は、目安額を63円増としたものの、地方審議会では近隣県を意識した競い合いの様相が強まり、目安を上回る改定が相次ぎました。最終的に、過去最大となる平均66円(6.3%)増で決着しています。
経営者の方や人事労務ご担当者の方にとって重要な発表ですので、続報については引き続き本ブログでお知らせいたします。
最低賃金とは何か
最低賃金とは、1959(昭和34)年施行の最低賃金法によって定められた、国が定める最低限度の賃金のことです。
使用者は労働者に対して最低賃金以上の賃金を支払わなければなりません。たとえ労働者と合意の上であっても最低賃金未満の賃金での契約は法律により無効となります。
最低賃金には、『地域別最低賃金』と『特定最低賃金』の2種類があります。
地域別最低賃金
「地域別最低賃金」とは、産業や職種にかかわりなく、都道府県ごとに定められた最低賃金です。地域別最低賃金は、①労働者の生計費、②労働者の賃金、③通常の事業の賃金支払能力を総合的に勘案して定められています。
現在の地域別最低賃金(2025年度改定)は東京都の1,226円が最大で、高知、宮崎、沖縄の3県が定める1,023円が最低となっています。全国の最低賃金を都道府県ごとの労働者数を勘案し、平均した金額を「全国加重平均額」と呼びます。現在の全国加重平均額は1,121円となっています。
特定最低賃金
特定最低賃金とは、関係労使が基幹的労働者を対象として、「地域別最低賃金」よりも金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認める産業について設定されている最低賃金です。2026年4月1日の時点で、全国で223件の特定最低賃金が定められています。
出典:厚生労働省
最低賃金法違反は企業ブランドを大きく傷つける
最低賃金法で定められた賃金未満しか支払わなかった場合、最低賃金額との差額を支払わなければなりません。
地域別最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合は、50万円以下の罰金(最低賃金法)、特定(産業別)最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合は、30万円以下の罰金(労働基準法)と罰則が設けられています。
また、最低賃金法など、労働基準関係法令に違反した場合、企業名と事案内容が公表されます。企業ブランドを大きく傷つけるリスクがあるため、毎年改定となる最低賃金には最新の注意が必要です。
厚生労働省労働基準局監督課が公表した「労働基準関係法令違反に係る公表事案」では、ここ最近では毎年数件の企業が最低賃金法違反で送検されています。
最低賃金で気をつける5つのポイント
最低賃金法に抵触しないと思っていても、気づいたら違法だったというケースも少なくありません。
TOMAの経験に照らしても、労務監査や給与計算アウトソーシングを通じて「まさかうちが最低賃金割れを起こしているとは…」と経営者様が頭を抱えるシーンを数多く目の当たりにしてきました。以下の点に特に注意が必要です。
1:地域別最低賃金は毎年変更する
地域別最低賃金は例年7月下旬~8月初旬頃に改定額の目安が公表され、10月から施行されます。毎年更新されるものなので、忘れずに確認するようにしましょう。特に10月度の給与計算(締日・支払日によっては11月支給分)では、給与計算システムの時給設定の変更漏れによる未払いトラブルが多発するため、厳重なチェックが必要です。
2:最低賃金が適用される範囲
最低賃金は、パート・アルバイト、契約社員、派遣社員などの雇用形態に関わらず、すべての労働者が対象です。研修期間中であっても、最低賃金を下回ってはいけません。一般の労働者より著しく労働能力が低いなど特定の条件がある場合は、都道府県労働局長の許可を受けることで最低賃金の減額が認められています。
3:地域別最低賃金と特定最低賃金、どちらも該当する場合
自社が地域別最低賃金と特定最低賃金の両方に該当する場合、金額の高い方が最低賃金として認められます。
4:事業所の所在地が異なる場合
本社と支社の所在地が異なる場合は、事業所のある所在地の最低賃金が適用されます。近年TOMAへ寄せられるご相談で急増しているのが「フルリモートワーカー」の扱いです。原則として、リモートワーカーであっても「所属している事業所の所在地」の最低賃金が適用されますが、実態として自宅を独立した事業所とみなすか等、判断に迷うケースが増えていますのでご注意ください。
5:時間給以外の報酬体系の場合【要注意ポイント】
最低賃金は時間給で示されているため、日給や月給で賃金を設定している企業は、以下の方法で計算します。
・日給の場合: 日給を1日の平均所定労働時間で割った額と最低賃金を比べる
・月給の場合: 月給を1ヶ月の平均所定労働時間で割った額と最低賃金を比べる
実は、月給制の企業こそ最も注意が必要です。「うちは月給25万円だから最低賃金は関係ない」と思い込んでいる企業様が、労働基準監督署の調査で指導を受けるケースが後を絶ちません。
なぜなら、以下の賃金は最低賃金の計算対象から除外しなければならないからです。
(1) 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
(2) 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
(3) 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
(4) 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
(5) 午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
(6) 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当
固定残業代(みなし残業代)や、計算から除外すべき皆勤手当・家族手当などを引いた「賃金」を平均所定労働時間で割ると、実は時給換算で最低賃金を下回っていた…というのが、中小企業の労務トラブルにおける典型的なパターンです。
最低賃金の上昇で、中小企業が取るべき一手は?
企業を経営する立場であれば、人件費をはじめとする経費はなるべく抑えたいところです。一方、近年は消費者物価指数の上昇が続いており、2025年は前年比3.2%上昇しました。
日本商工会議所と東京商工会議所が公表した調査等でも、多くの企業が賃上げを実施または予定しているなど、もう賃上げは社会的な潮流と言っても過言ではないでしょう。
この流れに乗り遅れると、従業員の生活を守れないばかりか、優秀な人材が待遇の良い企業へ流出してしまうリスクもあります。
最低賃金の引上げに対応するための方法は?
では、今後も引上げが予想される最低賃金にどうすれば対応していけるのでしょうか。業績が上向かないのに、賃上げを迫られても企業は疲弊する一方です。今後の中小企業にとって、構造的に賃金引き上げに対応できる環境を整えることはこれまで以上に重要なタスクとなります。
方法は業種や企業規模によって様々ですが、製品やサービス価格の値上げ以外に、以下のような手段が考えられます。
賃金の適正分配
資格保有者への優遇措置、スキルマップの作成などにより、会社が必要とする人材の見える化により賃金を適正に配分する方法です。
TOMAが人事コンサルティングを行う中でお伝えしているのは、「ただ一律にベースアップ(ベア)を行わないこと」です。毎年のように最低賃金が上がる中、全社員一律で賃上げをしていては経営が圧迫されます。
賃金制度や人事制度の構築・見直し等により、会社に貢献する人材へメリハリをつけて賃金が適正に配分されるシステムを構築することが、今後の企業存続の鍵となります。(人事制度の構築・見直しやスキルマップ作成方法については以下のブログもご参考ください)
【事例あり】今こそ見直したい「効果的な賞与制度」。社員のモチベーションアップと定着率向上を実現!
【社労士が解説】いまさら聞けない36協定活用法! 変形労働・裁量労働制で実現する「残業代削減」と「人材活躍」のポイント
【退職金制度ガイド】退職金制度の構築・見直しから人事制度の再構築まで社会保険労務士が解説します
スキルマップとは!?社員の成長を可視化し人材育成を加速させる方法を教えます
生産性向上により生まれた予算を賃金に分配する
人材開発に注力したり、ITによる業務効率化などにより、生産性を高めることで売上の向上を目指すことも一つの手段と言えるでしょう。
業務改善助成金の活用もご検討ください
賃上げと関係する厚生労働省の助成金「業務改善助成金」をご存知でしょうか?
業務改善助成金は、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を50円以上引き上げ、さらに生産性向上に資する設備投資等を行った場合に、その設備投資等にかかった費用の一部を助成する制度です。
中小企業・小規模事業者であること、事業場内最低賃金が令和8年度地域別最低賃金未満であることなど、対象事業者の要件を満たす必要があります。詳しくはこちら(令和8年度業務改善助成金のご案内/厚生労働省)をご確認ください。
本助成金の申請期間ですが、令和8年度の場合は令和8年9月1日から、申請事業所の都道府県において適用される地域別最低賃金の発効日の前日又は同年11月30日のいずれか早い日となります。詳しくは上記のリーフレットをご覧ください。
非常に魅力的な制度ですが、「自社で申請しようとしたものの、就業規則の改定や設備投資の要件定義が複雑すぎて途中で挫折し、結局ただ自腹で賃上げをしただけになった」という経営者様の声をよくお聞きします。
助成金を確実に活用するためには、最低賃金の上昇幅に関する情報をいち早くつかみ、専門家のサポートも交えながら事前に申請準備・スケジュール構築をしておくことが重要です。
最低賃金への対応はプロに任せましょう
業務標準化(業務マニュアルを作成する等)や、最低賃金のチェックなどの対応はその道の専門家に任せるというのもおすすめです。
ここまで解説してきた通り、「知らなかった」「勘違いしていた」では済まされないのが最低賃金法です。法的な項目に関しては疎かにした覚えはなくとも、複雑な手当の計算方法やリモートワークへの対応など、現場の実務レベルで対応できていなかったというケースが本当に多いのです。
最低賃金をはじめ、法令が頻繁に改定されるたびに対応を迫られていては、経営陣や人事担当者が本業に集中することはできません。煩わしい事務作業をアウトソーシングし、販路の拡大など業績を向上させる施策に注力することで、賃上げにも対応できる強い経営環境を整えることができます。
TOMAでは、給与計算・社会保険手続きアウトソーシングサービスを提供しています。毎月の給与計算から年末調整や給与支払報告書の提出をはじめ、最低賃金にも対応します。詳しくは下記をご覧ください。
TOMAでは、定期的に社会保険や人事労務に関するメールマガジンを配信しております。ぜひご登録ください。
無料相談も実施していますので、給与計算・社会保険手続きについてお悩みの場合は以下からお気軽にお問い合わせください。
