何気なく処理することの多い給与計算ですが、代表的なものでも労働基準法、労働契約法、最低賃金法など実は多くの法律が関係しています。
上記のような給与計算の根拠となる法律の知識を押さえておかないと、知らず知らずのうちに法律に違反する取り扱いをしてしまうなど、トラブルに発展するリスクがあります。法令違反があれば、労働基準監督署による指導勧告の対象となることもあるため、日ごろから注意が必要です。
そこで今回は、以下、トラブルを未然に防ぐうえで欠かせない給与計算や関連する法律の基礎知識を網羅して解説します。
・給与計算に関する基礎知識
・関連する法律のポイント
・法律以外で、給与計算の際にトラブルにならないためのポイント
わかっているつもりでも、意外と欠けているのが法律の知識です。思わぬトラブルに巻き込まれないためにも、ポイントを確認しておきましょう。
目次
給与計算とは
給与計算とは、毎月、従業員に支給する給与を計算する業務です。給与額は、支給額から控除額を差し引くことで求めることができます。
支給額や控除額の例を見てみましょう。
上記を踏まえてスムーズに給与計算をするためにも、ここでは
・そもそも給与とはどういうものか
・支払5原則とは何なのか
・給与計算に関係する法律にはどのようなものがあるのか
について確認していきます。
給与とは
給与とは、労働の対価として支払われる給料や賞与などの総称です。法律によって呼び方が変わり、労働基準法では賃金、健康保険法や厚生年金保険法では報酬と称します。
労働基準法では、賃金(給与)について以下のような定めがあります。
このように、雇用者が従業員に対し労働の対価として支払うものは、名称にかかわらず賃金(給与)です。そのため、就業規則であらかじめ支給要件が定められており、雇用者側に支払い義務が発生する場合、退職金なども賃金(給与)に該当します。
賃金(給与)に該当するかどうかで労働基準法の対象となるかどうかが分かれることから、思わぬ法律違反にならないようにするためには、就業規則に定める内容にも注意を払うことが必要です。
支払5原則
賃金の支払い方のルールも法律で決められています。それが、労働基準法第24条で定められる「賃金支払いの5原則」です。
具体的な内容を確認する前に、まずは以下のケースに問題はないかチェックしてみてください。
Q.次の支払い方は問題ないでしょうか?
1. 外国人労働者なので、その人の出身国の外貨で給与を支払う
2. 従業員から委任を受けた人に給与を渡す
3. 貸付金のある従業員に、貸した分を最初から天引きした差額を給与として支払う
4. 処理が煩雑なので業務効率化のため給与の支払いを2ヶ月に1度に変更する
5. 給与の支払日を「毎月第3金曜日」と定める
いかがでしたでしょうか。
正解は、すべて労働基準法第24条の「賃金支払いの5原則」に抵触し、問題があります。具体的に見ていきましょう。
上記の原則に違反すると、30万円以下の罰金が科せられたり(労働基準法第120条)、労働基準監督署の調査が入ったりする羽目になってしまいます。
給与計算に関係する法律とは
給与の支払い方法以外にも、給与計算に関係する法律が多数あります。
法律に反する処理をしてしまうと罰則の対象になる可能性があるため注意しましょう。トラブルを防ぐためには、法改正があった場合や処理の中で少しでも疑問に感じる点が出てきた場合は、根拠となる法律を確認することが大切です。
なお、上記の法律に加えて、
・労働組合と締結する労働協約
・雇用者が作成する就業規則
・雇用者と従業員の間で結ぶ労働契約
などにも給与計算に関係するルールが定められています。
法律とこれらの取り決めで異なる内容が定められている場合、次の順番でルールを優先させるようにしましょう。
給与計算に関するルールの優先順位
1.労働契約
2.就業規則
3.労働協約
4.法律
このように、法律よりも優先して適用すべきルールがあるため、これらの取り決めの内容もきちんと把握した上で給与計算をすることが、トラブル予防には欠かせません。
給与計算に関する法律のポイント
給与計算に関係する法律の種類を把握するだけでは、トラブル予防には不十分です。特にどのような処理に注意することが必要なのかを押さえ、重点的に法律などを確認するようにすることで、よりスムーズに給与計算を行うことができます。
そこで、ここでは、給与計算で特に誤りやすいポイントを確認しておきましょう。
給与計算の注意すべきポイント
・最低賃金は必ず守る
・労働時間を適切に管理する
・休業・休暇のルールを把握する
・社会保険料の控除に留意する
それぞれ、どのような点に注意する必要があるのか、詳しく解説します。
最低賃金は必ず守ろう
地域ごともしくは産業ごとに定められた最低賃金を守らないと、労働基準法及び最低賃金法に違反することになってしまいます。雇用者と従業員で合意のもとに最低賃金より低い金額を定めても無効です。現在の最低賃金を確認し、下回らないよう注意しましょう。
なお、最低賃金は、厚生労働省のホームページで確認することができます。
・地域別最低賃金の全国一覧
・特定最低賃金の全国一覧
最低賃金について押さえておくポイントは、以下のとおりです。
なお、以下のものは最低賃金の対象ではありませんので、覚えておきましょう。
・精皆勤手当、通勤手当及び家族手当
・臨時に支払われる給与
・賞与などのように1月を超える期間ごとに支払われる給与
・時間外労働、休日労働及び深夜労働の手当
労働時間を適切に管理しよう
給与計算を正しく行うために必ず押さえておくべきことが、法定労働時間と所定労働時間です。
法定労働時間とは、労働基準法で定められている基準となる労働時間で、法定労働時間を超えて労働に従事させる場合には割増賃金を支払う必要があります。
一方、所定労働時間とは、就業規則や労働協約などで定められる事業者ごとの労働時間です。所定労働時間を超えて労働させた場合、時間外勤務手当を支給する必要がありますが、割増賃金の対象とはなりません。特に、法定労働時間と所定労働時間が異なる定めになっている場合、時間外勤務手当の計算が複雑になるので注意しましょう。
休業・休暇のルールを把握しよう
法律で定められた休業・休暇は、種類によって有給・無給が分かれます。トラブルを避けるためには、従業員の休業・休暇取得時は、どのような取り決めになっているか必ず確認することが大切です。
代表的な休業・休暇について、給与の支払いに関してどのように定められているか見てみましょう。
このように、多くの休業・休暇で有給・無給の取り扱いが就業規則の規定にゆだねられています。就業規則をわかりやすく定め従業員に周知しておくことが、トラブル回避には欠かせないと言えるでしょう。
社会保険料の控除に気をつけよう
翌月徴収・翌月納付が原則であるなど、何かと複雑な社会保険料の控除ですが、特に。入社・退職など環境が変化するタイミングの取り扱いが特殊になるため要注意です。
特に気をつけたいタイミングを確認しておきましょう。
つい、前月と同じ処理をして失敗しないように、処理が変わるタイミングは確実に押さえておきましょう。
法律以外にも!給与計算でトラブルにならないためのポイント
給与計算に関連してトラブルに遭わないためには、法律の定めや注意すべきタイミングなどを把握しておくほかにも、以下のように就業規則を整備する、アウトソーシングを検討する等、ポイントを押さえる必要があります。それぞれ、給与計算をトラブルなくスムーズに進めていく上で、どのように効果的なのかを確認しておいてください。
就業規則を整備する
トラブルを未然に防ぐためには、就業規則を会社の実情に合わせて整備することが大切です。
就業規則に盛り込んだ内容は、
・従業員に広く周知徹底させることができる
・万一トラブルに発展した場合も、就業規則に定めがある内容は対抗できる
などの効果があるため、トラブルを予防・解決する上で大きなメリットがあります。
給与計算に関連して就業規則に盛り込む内容の例は、以下のとおりです。上記の他にも、業務実態に合わせて必要な内容を積極的に盛り込みましょう。内容が充実すればするほど、就業規則が雇用者をトラブルから守る効果は高まります。
アウトソーシングを検討する
定型業務なのに専門性が高く煩わしい給与計算は、思い切ってアウトソーシングするのも以下のようなメリットがあるのでお勧めです。
給与計算をアウトソーシングするメリット
・専門知識を持った従業員の育成と処理ソフトが不要になるため、トータルのコストを抑えられる
・法令改正や金額・税率改定の情報を正確に把握できるため、法令違反の心配がなく社内で情報収集する労力も削減できる
・新規採用時や賞与支給時などの給与計算の繁忙期も、他の業務にしわ寄せがこないため生産性が向上する
費用対効果の検討はもちろん必要ですが、現在給与計算が少しでも負担になっている場合や、人的リソースを別のコア業務に割きたいと感じている場合は、アウトソーシングは最適な選択肢の1つと言えるでしょう。以下で詳しくご案内していますので参考になさってください。
まとめ
定型業務ながら専門性の高い給与計算は、思わぬトラブルに巻き込まれるリスクの高い業務です。リスクを回避するためには、関係する法律や誤りやすいタイミングについて把握しておくこと、就業規則を整備することが欠かせません。
この機会に、今一度、処理内容や就業規則の整備状況をチェックしてみてはいかがでしょうか。
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