人件費の上昇が経営を圧迫する今こそ、社員が「報われる」と感じる賞与制度の再設計が重要です。適切な評価と還元の仕組みを整えることで、社員のモチベーションが高まり、人材の定着にもつながります。
しかし、実際には「成果が反映されない」「支給基準が不透明」「業績に連動していない」といった課題を抱える企業も多く見られます。こうした問題を放置すれば、優秀な人材の流出や組織全体の士気低下につながりかねません。
本記事では、人事制度の中で賞与制度が果たす役割や、成果を正しく評価するための制度設計の考え方について、中小企業の現場を良く知るTOMAの社会保険労務士の視点から分かりやすく解説します。
「人件費の高騰を抑えながら社員のやる気を高めたい」「納得感のある報酬体系を整えたい」という方は、ぜひ参考にしてみてください。
経営を直撃する「人件費高騰」という現実

最低賃金の連続的な引き上げや物価高、社会保険料負担の増加など、企業を取り巻く環境は大きく変化しています。その影響を最も強く受けているのが「人件費」です。特に中堅企業では、固定費の割合が増え続けており、「人件費を抑えたいが、採用も定着も難しくなるため下げられない」というジレンマが顕著になっています。
社員からの“賃上げ”の期待値が高まるほど、企業側は“人件費の伸びをどう抑えるか”という課題に直面することになります。
まずは、そうした課題を整理していきましょう。
「賞与の慣例化」がもたらすモチベーション低下
多くの企業では、賞与が一定のルールに基づいて支給されていますが、その一方で社員一人ひとりの成果や貢献度が十分に反映されていないケースも少なくありません。例えば、以下のようなケースがよく見られます。
・成果を出しても賞与がほとんど変わらない
・支給基準が曖昧で社員が納得していない
・部門ごとの貢献度が反映されない
制度があいまいなまま続くと、社員の間で「結局、どれだけ頑張っても変わらない」という空気が生まれ、やる気の低下や離職のきっかけになりやすくなります。
成果が反映されない不満による定着率の低下
採用市場が激化する今、若手・中堅層ほど「報酬の納得感」を重視する傾向があります。「自分の努力が反映されていない」「評価が見えづらい」と感じた瞬間、他社への転職を検討するケースも増えています。
特に賞与は、“自分がどのように評価されているか”を最も分かりやすく示す指標です。そのため、成果との連動性が弱い賞与制度は、社員の期待に応えにくく、結果として定着率の低下につながってしまいます。
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人事制度における賞与制度の役割とは

賞与制度は単なる報酬の一部ではなく、人事制度の中で「評価」「育成」「定着」をつなぐ重要な役割を担っています。評価の結果が適切に賞与へ反映されれば、社員は「努力が報われている」と実感し、エンゲージメントが高まります。
一方で、評価と賞与が切り離されていると、制度の信頼性が低下し、育成やキャリア形成にも悪影響が生じます。人材確保が難しい今こそ、賞与制度を“企業文化をつくる仕組み”として捉え直すことが重要です。
以下、あるべき賞与制度の役割を改めて整理します。
役割1:社員の成長を促す「評価の出口」として機能する
評価制度は、目標管理やスキルアップのための“入口”であり、賞与はその結果を反映する“出口”にあたります。この出口が曖昧だと、評価が形骸化し、社員は「何を頑張れば良いのか」がわからなくなってしまいます。
賞与制度が評価と明確に連動していることで、
・目標への意識が高まる
・成果への行動が促進される
・スキルアップや挑戦意欲が向上する
といったプラスの効果が生まれ、評価制度全体の質も向上します。
役割2:透明性の高い報酬制度が「信頼」を育てる
人事制度において、社員の信頼を得るうえで欠かせないのが“透明性”です。特に賞与は金額インパクトが大きいため、支給基準や計算方法が不透明だと、不安や不満の温床となります。
逆に、透明で説明可能な賞与制度が整っていると、
・経営が何を大切にしているかが伝わる
・社員が自分の貢献を実感しやすくなる
・組織内の公平感が高まる
など、組織全体の信頼関係が強まる効果があります。
賞与制度は“数字の話”に見えますが、実は組織の信頼を形成する要素のひとつなのです。
役割3:企業文化の進化と定着を促す“メッセージ”になる
賞与制度は、会社が「どんな人材を評価し、どんな行動を大切にしたいか」を伝えるメッセージでもあります。例えば、成果重視なら成果に、プロセス重視なら行動や姿勢に配分を寄せるなど、制度の設計自体が“文化づくり”につながります。
また、納得感ある賞与制度は、人材定着に直結します。特に若手層にとっては、「自分の努力が認められ、形として返ってくる」「キャリア形成の手応えが得られる」といった部分が、企業への愛着に強く影響します。
賞与制度を見直すことは、単なる給与調整ではなく、企業文化をアップデートし、組織を強くする取り組みでもあるのです。
成果を正しく評価するための賞与制度設計
賞与制度を見直す際に最も重要なのは、「どんな評価を、どのように還元したいのか」という設計思想を明確にすることです。制度設計の方向性が曖昧なままでは、評価がうまく反映されず、社員の納得感を得ることはできません。
「成果重視で還元したいのか」
「長期的な成長を促したいのか」
「安定した生活基盤を守りたいのか」など、
まずは自社の人事理念をもとに、賞与制度が果たすべき役割を整理することから始めましょう。そのうえで、原資の決め方や支給ルール、評価との連動方法を設計していくことが重要です。
原資設計:固定型・業績連動型・ハイブリッド型の特徴を理解する
成果を正しく評価するための第一歩は、「原資(賞与全体の枠)」の設定方法を明確にすることです。原資の決め方によって制度が社員に与える印象は大きく変わります。以下、そのメリット・デメリットを列挙します。
(1)固定型
毎年ほぼ一定額の原資を確保する方式。
【メリット】安定運用がしやすく、社員に安心感を与える
【デメリット】成果との連動性が弱く、メリハリが出にくい
(2)業績連動型
営業利益や付加価値額など、会社業績に比例して原資が上下する方式。
【メリット】成果配分の説明がしやすく、社員の意識が高まりやすい
【デメリット】業績悪化時の減額による不満が起きやすい
(3)ハイブリッド型
一部を固定、残りを業績に応じて変動させる組み合わせ方式。
【メリット】安定と成果反映のバランスを取りやすい
【デメリット】設計・運用に工夫が必要
原資方式とあわせて検討すべき「算定基準」の考え方
原資方式の選定と並行して「何を基準に原資を算定するか」を決める必要があります。代表的な算定基準には、売上高・付加価値・営業利益・経常利益の4つがあります。
どの基準を採用するかで制度の性格が変わるため、「会社として何を重視したいのか」「社員にどのような行動を促したいのか」を踏まえて基準を選ぶことが大切です。以下、こちらもそのメリット・デメリットを列挙します。
(1)売上高を基準とする場合
【メリット】従業員にとって分かりやすい
【デメリット】会社として安定性に欠ける
(2)付加価値を基準とする場合
【メリット】成果配分の意味合いとして説得力がある
【デメリット】従業員にとって馴染みが薄い
(3)営業利益を基準とする場合
【メリット】販管費への意識付けをさせることができる
【デメリット】P/L(損益計算書)の開示が必要になる
(4)経常利益を基準とする場合
【メリット】会社としての安定性がある
【デメリット】本業以外の損益が関係してくるため、従業員にとって納得性に欠ける
原資の考え方には「絶対的な正解」はありません。自社の経営状況・社員構成・組織文化に合わせて選択することが重要です。
配分設計:基本給制かポイント制か、目的に合わせて選択する
次に、決定した原資をどのように社員へ配分するかを設計します。代表的な方式は「基本給制」と「ポイント制」です。その特徴と課題について記載します。
(1)基本給制(基本給 × ○ヶ月方式)
【特徴】社員にとって理解しやすく、運用が安定しやすい方式
【課題】成果反映が弱く、評価制度との連動が不十分になりがち
(2)ポイント制(評価結果 × ポイント)
【特徴】評価結果を賞与に反映しやすく、公平性・透明性が高い
【課題】制度設計や説明に時間が必要。導入時は混乱しないよう丁寧な説明が求められる
(3)ハイブリッド型(基本給+ポイント)
【特徴】基本給で安定性を確保しつつ、ポイントで成果反映を実現
成果も生活も両立したい企業に最適な方式
「成果を正しく評価したい」という観点からは、『基本給制のみ』よりも『ポイント制またはハイブリッド型』が有効です。
制度の安定運用のために「就業規則・賃金規程」への明記が欠かせない
賞与制度を適正に運用するためには、制度内容を就業規則・賃金規程に明確に記載しておくことが重要です。トラブル防止のためにも、次の5つのポイントを明記しておくとよいでしょう。
(1)支給時期・支給回数
一般的には年2回(夏・冬)ですが、会社独自の支給時期を定める場合は明記が必要です。
(2)算定期間と評価期間
「どの期間の実績をもとに算出するか」を明確にし、遡及トラブルを防ぎます。
(3)支給対象者の範囲
在籍要件(支給日に在籍していること)や試用期間中の扱いを定義します。
(4)減額・不支給の条件
懲戒処分や長期欠勤など、減額・不支給の可能性がある場合は、具体的な基準を示す必要があります。
(5)特別加算・調整給の取り扱い
個別加算を行う場合、その目的(功績・特別貢献など)を明記し、恣意的な判断を防ぐことが重要です。
これらを文書化しておくことで、制度の透明性が高まり、社員への説明も容易になります。
制度設計と同時に“ルールの明文化”も進めることが、賞与制度を安定的に運用するための土台となります。
実例で見る、賞与制度改革のポイントと効果
賞与制度の見直しは、企業の状況や人事制度の成熟度によって最適なアプローチが大きく異なります。ここでは、TOMAのコンサルティングの実績の中から、実際に賞与制度を改革した企業の事例を取り上げ、「どのような課題があり、どんな改善策を行い、どのような効果が生まれたのか」という流れで分かりやすく紹介していきます。
同じ“賞与制度の見直し”でも、それぞれの企業に応じた工夫や改善のポイントが見えてきますので、自社の制度づくりを考えるうえでのヒントとしてぜひ参考にしてみてください。
事例1 担当職務に応じて異なる賞与の算定方法
事前の課題・意向
基本給2か月分に対して全社共通の評価に応じた係数をかけて、賞与額を算出していたところ、営業部門の成果の高い社員から、成果が出ていない社員や業績に直接関与していない部門と賞与額に差がないと不満が上がった為、営業部門において個人の業績に対してメリハリをつけることが求められた事例がありました。
見直した賞与制度と効果
・ 営業部門のみ、基本給の0.5か月分とし、これとは別に評価期間の個人の売上高の一定割合をインセンティブとして、合わせて支給するようにしました。
・ 営業の成績がダイレクトに賞与額に反映されるようになり、営業部門のモチベーションの維持、向上に繋がっています。
事例2 事業部制に応じた賞与制度
事前の課題・意向
会社全体の業績に応じて賞与原資が決まり、それを従業員全員に各人の評価に基づき分配していたところ、高い業績を上げる部門とそうではない部門との差が僅かで、納得感が得られず、優秀な社員の離職の要因となっていました。そのため、業績が低い部門も一定程度の賞与が支給されており、業績向上への動機付けが弱くなっていた事例がありました。
見直した賞与制度と効果
・ 賞与原資を部門業績に応じて部門ごとに決定するようにしたほか、部門長に大きく委ね、賞与原資の一部を部門長の裁量で各人に分配する仕組みとしたことで、部門ごとの業績向上に対する意識が強まりました。
・ 評価制度に反映されにくい貢献などが部門長の裁量で賞与に反映され、納得感が高まる結果となっています。
事例3 育児・介護休業期間中の代替者に報いる制度
事前の課題・意向
子育て世代の社員が多く、育児休業を取得した社員の所属する部門における同僚の負担が大きくなっており、結果的に、育児休業の取得を躊躇する社員が出てしまった事例があります。
見直した賞与制度と効果
育児休業期間中、本人は期間に応じて賞与が減額されるが、減額される額を部門長の裁量により、代替する社員の業務負担の大きさに応じて、賞与として分配する仕組みを導入しました。結果、負担に対して報いる仕組みとなったことで、育児休業の取得に対する理解が深まり、安心して取得できる環境を構築できました。
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まとめ
いかがでしたか?
本記事では、人件費高騰という経営環境の変化を踏まえながら、賞与制度が人事制度の中で果たす役割や、成果を正しく評価するための設計ポイントについて解説しました。
賞与制度は、単なる「報酬の分配ルール」ではありません。社員の成長を促し、組織への信頼を高め、人材定着にもつながる“戦略的な仕組み”です。一方で、企業によって抱える課題や最適な制度設計は大きく異なり、この記事だけで制度策定のすべてを伝えることは難しいのが実情です。
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