1992年、アメリカの心理学者・経営学者であるロバート・H・ローゼンにより提唱された「健康経営」。博士はかつて別個の概念だった「経営管理」と「健康管理」を統合することによって、企業の業績を向上させることができると考えました。
日本では長時間労働といった労働環境の改善を目的として、健康経営に取り組む企業が増えてきました。社員が健康になればなるほど経営状況も健康的になることがデータとして明らかになってきており、この数年で健康経営を採用する企業が加速度的に増えています。
今回は、健康経営とは何か、導入によってもたらされるメリットを中心に解説します。
目次
健康経営とは何か
健康経営とは、従業員の健康保持・増進を将来に向けた投資として捉える経営戦略のことです。
経営理念に基づいて従業員の健康保持・増進に取り組むことで、社員一人ひとりのパフォーマンスが上がり『業績の向上』や『組織の価値向上』に繋がると考えられています。経済産業省では、2014年から「健康経営銘柄」の選定を開始しており、2016年からは「健康経営優良法人認定制度」を創設しています。
健康経営と聞くと、大企業が率先して取り入れている印象があるかもしれません。しかし、健康経営優良法人認定制度には中小規模法人部門が備えられており、申請・認定状況は年々加速度的に増えています。設立当初の2016年には397件であった申請数は、2020年には9,403件とわずか5年で23倍になっています。
「業種的に健康経営は導入できないだろう」と考える経営者もいるかもしれませんが、健康経営に業種は関係ありません。事実、健康経営優良法人は、製造業、建設業、運輸業、サービス業のほか、幅広い業種が認定されています。
健康経営に取り組むのが当たり前と言われる時代が来るのは目の前です。時流に乗り遅れないよう、健康経営に積極的に取り組みましょう。
健康経営を取り入れる7つのメリット
では、なぜ健康経営を前向きに考える企業が増えているのでしょうか。それは企業にとって多くのメリットがあるからです。
メリット1:社員の健康状態が改善する
健康経営に取り組むことで、社員の健康意識が高まり、疾患リスクが低減すると考えられています。
東京大学等が、土木建築業種の大企業23社に対して行った調査によると、健康経営で高スコアを出した企業群は、低スコアを出した企業群と比較して、年間医療費平均のほか、メタボ該当率、喫煙リスク者率、空腹時血糖値リスク者率、脂質異常症リスク者率、血圧リスク者率が低いという結果が得られています。
メリット2:離職率が下がる
身体もメンタルも健康な社員は会社を辞める選択をしない傾向があります。経済産業省が実施した健康経営度調査では、健康経営度の高い企業は離職率が低いという結果が出ています。
メリット3:企業価値が上がる
健康経営投資によって得られるリターンは、生産性の向上、医療コストの削減、モチベーション向上、リクルート効果、企業ブランド価値の向上など多種多様です。
ジョンソン・エンド・ジョンソンによる試算では、健康経営に対する投資1ドルに対して、3ドル分のリターンがあったとされています。
メリット4:業績が向上する
健康経営により社員の健康が維持・増進すると、欠勤率・離職率が下がり、業務パフォーマンスが向上するのは前述したとおりです。
経済産業省が、健康経営開始前後の5年間の売上高営業利益率の業種相対スコア(業種内において健康経営を推進した企業の利益率が相対的に高いか低いかを把握する指数)の平均値を比較したところ、売上高営業利益率が向上するなど、さまざまな好影響が報告されています。
メリット5:ステークホルダーとの良好な関係が築ける
健康経営優良法人に認定された法人に対し、優良法人認定後の変化や効果についてアンケートを実施したところ、大規模・中小規模ともに、下記の通り多様なステークホルダーから評価が得られたとの声が挙がりました。
・取引先やその他の企業から、高く評価してもらえた。
・投資家から「中長期的な成長が見込まれる」と高い評価をもらった。
・健康経営の取組に関する取材が増え、メディア露出の機会が増大。
また、役員による講演も多数依頼されるようになった。
・学生の認知度が向上し、就活生が大幅に増加したり、内定後辞退率が減ったりした。
優秀な人材の確保につながっている。…etc
メリット6:社員のパフォーマンスが向上する
経済産業省が企業に勤務する正社員・正職員を対象に実施したアンケート調査によると、所属企業の健康投資レベルが高いと、健康状態や仕事のパフォーマンスが良好であることが明らかになっています。
メリット7:採用活動にも大きく影響する
社員の健康に配慮した経営は、採用活動にも有効です。
経済産業省が、2016年に、就活生及び就活を控えた学生を持つ親に対し、『将来どのような企業に就職したいか(させたいか)』とアンケートを実施した結果、『従業員の健康や働き方に配慮している』企業は就活生・親双方で高い回答率となりました。
就活生の7割が就職の際に親の意見を参考にするという結果もあり、親が持つ企業イメージも重要になります。
健康経営の始め方
では、健康経営を自社に取り入れるにはどうすれば良いのでしょうか。
ステップ1:健康課題の見える化
まずは自社の健康に関する課題の洗い出しから始めます。
各事業所や部署によって問題は異なるはずです。体調やメンタルヘルス、長時間労働の有無、健康診断の受診率などを調べて、自社の健康に関する課題を「見える化」しましょう。
ステップ2:課題に関する目標設定
それぞれの課題を解決するための目標を設定します。
例えば、長時間労働が発生している部署では、残業時間の上限を設定すること等が効果的です。
ステップ3:改善施策の立案
目標を達成するためにはどんな施策が有効か、検討しましょう。
ポイントは、業務に支障をきたさない範囲で遂行できる目標を設定することです。
ステップ4:期間を定めて施策を実施
改善施策案が決定したら実際に運用を開始します。
ポイントとなるのは、『施策を実施する期間を定める』ことです。一定期間内にどれだけ成果が出たかを確認し、達成できていれば更なる目標を、未達であれば施策に問題がないかを検討し、ブラッシュアップを図ります。
以上のように、PDCAを回すことで健康経営を促進させていきます。
健康経営優良法人認定制度への申請方法
健康経営優良法人認定制度(中小規模法人部門)への認定を目指す場合は、以下の手順となります。
①加入している保険者が実施している健康宣言事業に参加
②申請書の作成
③健康経営優良法人認定委員会による審査
④日本健康会議による認定
ただし、申請すれば必ず認定されるというわけではありません。2020年度は9,403件の申請のうち、7,934件が認定され、約16%の法人は認定されませんでした。
認定を受けるためには、ガイドラインで発表されている必須の認定要件を満たさなければなりません。全くのゼロから健康経営を始めるのには、大変な労力と準備が必要です。
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※本記事は2023年7月に執筆したものです。
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