診療所開設を検討する際、法人形態の選択は開業後の運営に影響する重要な判断です。近年、一般社団法人で開設する医療機関が増えていますが、制度面でも新たな動きが出てきています。今回は、医療法施行令の改正に伴う制度変更の内容を踏まえながら、診療所開設における法人形態の違いを比較していきます。
一般社団法人の診療所開設

上図は厚生労働省が発表した一般社団法人等が開設した医療機関の推移です。年々その総数が増加していることが分かります。では、なぜ一般社団法人による診療所開設が増えているのでしょうか。
大きな要因は、医療法人と比べて容易に法人設立できる点です。例えば、医療法人を設立する場合は都道府県の認可が必要なため、一定の期間を要します。
一方、一般社団法人の場合は登記手続きのみで設立が可能なため、迅速に診療所の開設申請に進むことができます。しかし、一般社団法人には医療法人のような医療法に基づく厳格な監督制度が設けられていません。
そのため、医療の質や医療経営の透明性の確保に課題が生じ、医療機関が本来確保すべき非営利性が損なわれる事例が見られました。そこで、医療法施行令が改正され、一般社団法人が運営する診療所にも一定の制約が設けられることになりました。
制度改正の影響
では、医療法施行令の改正により、どのような制約が設けられるのでしょうか。診療所を開設する一般社団法人に対し、下記書類の都道府県知事への提出が義務づけられました。
・事業報告書
・貸借対照表
・損益計算書
※事業活動規模が一定の基準に該当する場合は、附属明細書の提出も求められます
これらの書類は、一般社団法人においても従来から作成義務がありましたが、今回の改正により、医療法人と同様に都道府県知事への提出が義務づけられることになりました。なお、この改正は令和8年度事業分から対象となるため、実際の届出は令和9年度以降に必要となります。
法人設立の比較
診療所の開設を検討している先生にとって、医療法人と一般社団法人のどちらを設立すべきか悩まれるのではないでしょうか。
同じ法人形態でも医療法人と一般社団法人では取り扱いが大きく変わりますので、比較していきます。
まず、一般社団法人で診療所開設を目指す場合、非営利型法人としての設立が前提となります。非営利型法人の要件に該当しない場合、保健所から診療所の開設許可が下りませんので、十分ご注意ください。
| 医療法人 | 一般社団法人(非営利型法人の場合) | |
|---|---|---|
| 根拠法 | 医療法など | 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律 |
| 設立手続き | 都道府県知事の認可 | 登記手続きのみ |
| 監督 | 都道府県知事による検査・命令 | なし |
| 理事長 | 医師又は歯科医師 | 制限なし |
| 役員 | 医療機関管理者 | 制限なし |
| 義務 | 決算届、役員変更届、定款変更認可申請 | 財務書類の提出が義務化 |
| 業務 | 本来業務・付帯業務に限定 | 制限なし |
| 非営利性 | 剰余金の配当禁止 | 定款で規定し担保(剰余金の配当禁止等) |
上表の通り、今回の改正で財務書類の提出義務が課されたものの、法人設立における手続き上の負担は依然として一般社団法人の方が小さいといえます。
しかし、本題である診療所開設においては同様ではありません。大きな論点となるのは、開設する法人の非営利性が担保されているかどうかです。医療法人は医療法によって非営利性が法的に担保されているのに対し、一般社団法人は定款に規定することで担保します。
そのため、診療所開設の届出を受ける保健所側の審査基準は高くなります。医療法人以外の法人が医療機関を開設しようとするとき、保健所は下記のような論点を確認します。
・定款に剰余金の配当禁止や、残余財産の帰属先を国等とすることを規定しているか
・取引関係のある営利企業の役員等が過半数を占めていないか
・医療法人ではなく一般社団法人による診療所開設を選択した理由 等
また、開設後2年以上の事業計画書や予算書(根拠資料含む)、開設趣意書の提出を求められることもあります。
さらに、一般社団法人制度は創設から日が浅いため、医療法人による診療所開設よりも開設事例が少ないことが現状です。そのため、保健所側で診療所の開設許可に時間を要するケースがあります。
その結果、法人設立はできても診療開始が当初計画よりも大幅に遅れる可能性があります。法人設立手続きが容易な一般社団法人ですが、診療所開設を目指す場合は慎重な判断が必要です。
まとめ
診療所の開設を目指す場合、医療法人・一般社団法人ともに非営利性を確保することが非常に重要です。厚生労働省は一般社団法人が開設する診療所における非営利性の確保を懸念しているため、今後も新たな規制を設ける可能性があります。
一般社団法人で診療所開設を目指す場合は、保健所が納得できる相当な理由がない限り、診療所開設は難しい状況といえます。一般社団法人による診療所の開設を検討していた方は、顧問税理士や行政書士、または診療所開設を予定している地域の保健所などにご相談することをおすすめします。
TOMAには、医療経営に精通した専門家が多数在籍しています。開業にお悩みでしたら以下の無料相談・お問い合わせよりご連絡ください。
