一般社団法人や一般財団法人の運営または立ち上げを検討している場合、「将来的に公益法人化を目指したい」という方は多いのではないでしょうか。しかし、公益法人化にはデメリットもあるため、メリットとともに把握しておくことが大切です。
この記事では、公益法人になるための要件を踏まえつつ、行政庁から公益認定を受けるメリット・デメリットについて詳しく解説します。
なお、社団法人や財団法人の違いについては、以下の記事をご確認ください。
関連記事:社団法人、財団法人、NPO法人の違いをわかりやすく解説します【まるわかり比較表無料配布】
目次
公益法人になるには?
公益社団法人・公益財団法人を目指す場合、まずは一般社団法人、一般財団法人を立ち上げる必要があります。法人の設立には、定款の作成、登記手続き、人員の確保、財産の拠出など、さまざまな要件が定められているので、あらかじめ把握しておきましょう。
一般社団法人、一般財団法人を設立したら、公益法人化の申請に移ります。申請書類を作成・提出し、行政庁(内閣府又は都道府県)による公益性の審査で承認されると公益認定を受けられ、正式に公益社団法人・公益財団法人として活動できるようになります。
なお、公益認定を受けるためには、「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律 第五条(公益認定の基準)」で規定されている、計18項目の基準を満たす必要があります。これは団体の目的や構成、事業内容などに関する要件を定めたものです。
公益法人化を目指すならば、以下のページに記載されている各項目の内容にもしっかり目を通しておきましょう。
参考:公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律 第五条|e-Gov法令検索
公益認定を受けるメリット
公益認定を受けると、以下のようなメリットが得られます。
■税務上の優遇措置を受けられる
■社会的な信用度を高めることができる
これらは法人運営において大きなメリットなので、きちんと内容を把握しておきましょう。
税務上の優遇措置を受けられる
公益法人になるメリットとしてまず挙げられるのは、さまざまな税務上の優遇措置を受けられることです。
例えば、公益法人に寄附を行なった個人には所得税の負担を軽減できる「所得控除」又は「税額控除」が適用されます。これは寄附した金額に応じて、一定の金額を所得又は税額から控除できる制度です。
所得控除につきましては、以下の算式で計算します。
(その年中に支出した寄付金の額の合計額)-(2千円)=(所得控除額)
注:上記寄付金の額の合計額は所得金額の40%相当額が限度です。
税額控除につきましては、以下の算式で計算します。
(その年中に支出した寄付金(一定の要件を満たすもの)の額の合計額-2千円)×40%=(税額控除額)
税額控除額はその年分の所得税額の25%相当額が限度です。
参考:No.1150 一定の寄付金を支払ったとき(寄付金控除)|国税庁
寄附を行なった個人は、支持している公益法人に貢献できるだけではなく、所得控除や税額控除による節税もできるため、まさに一石二鳥です。
さらに、公益法人側も以下のような優遇措置を受けることができます。
■公益目的事業会計における利益が法人税上非課税になる
■一定の源泉所得税が免税になる
■みなし寄付金制度(収益事業に属する資産から収益事業以外に支払った金額も、収益事業に係る寄付金とする制度)
このような税務上の優遇措置のおかげで、公益法人は寄付金などによる資金調達がしやすくなるうえに、毎年支払う法人税も節税できるようになります。資金に余裕があれば、現状抱えている課題を解決したり、新たな事業を展開したりする可能性が高まるため、公益法人の目的を踏まえても大きなメリットといえるでしょう。
社会的な信用度を高めることができる
「公益社団法人」「公益財団法人」と名乗るためには、厳格な審査基準が設けられた公益認定を受けなければなりません。認定にかかるハードルが高い分、組織名に「公益」と付くだけで社会的な信用を得やすくなるため、多くの類似団体に対して差別化を図れます。
社会的な信用度が高まると、事業活動や広報活動をよりスムーズに進められるため、公益法人としての目的を達成しやすくなるでしょう。
また、公益法人という行政庁からのお墨付きがあれば知名度が高まるうえに、安心・安全な団体として見られるので、企業から協賛金などが得やすくなります。寄付金などと併せて金銭的なサポートを受けることで、さらに事業活動の推進が可能です。
公益認定を受けるデメリット
公益認定を受けると、以下のようなデメリットも発生します。
■ 行政庁の指導監督下に置かれ、公益性を確保する必要がある
■ 事業活動や組織構成が制約される
■ 書類作成や会計処理の事務作業が増える
■ 公益財務三基準を遵守する必要がある
■ 認定取消となった場合のリスクが大きい
それぞれ具体的に解説するので、メリットと併せてご確認ください。
行政庁の指導監督下に置かれ、公益性を確保する必要がある
公益法人は、行政庁の指導監督下に置かれ「公益性の確保」を実現できるよう、さまざまなルールに則った適正な運営が求められます。
事業活動を進めるにあたって、行政庁の監督を継続的に受けることになるため、活動内容や運営形態などを厳しくチェックされることを覚悟しなければなりません。また、行政庁への毎年度の報告義務が課され、行政庁(内閣府又は都道府県)による定期的な立ち入り検査が行なわれることも覚えておきましょう。
事業活動や組織構成が制約される
一般社団(財団)法人の場合、事業活動に制約がかかることはなく、さまざまな活動に比較的自由に取り組むことができます。
一方、公益社団(財団)法人は「公益目的の事業割合が50/100以上」「公益事業の収入が適正か」など、先述した計18項目の「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律 第五条(公益認定の基準)」に沿って活動しなければなりません。
さらに、活動内容は「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律 第二条(定義)」の別表にある「公益目的事業」の範囲内に限定されます。つまり、公益社団(財団)法人は一般社団(財団)法人に比べて事業活動の自由度が低いということです。
公益目的事業は全部で計23種類あるので、以下のページで詳細をご確認ください。
参考:公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律 別表(第二条関係)|e-Gov法令検索
書類作成や会計処理の事務作業が増える
公益社団(財団)法人になると、行政庁への定期提出書類を作成する義務が発生します。どのような活動を進めているか、事業報告や決算書などを通じて毎年報告しなければならず、必然的に手間が増えるでしょう。
また、公益法人には「3区分会計(公益目的事業等会計・収益事業等会計・法人会計)」が求められます。財務諸表などを公益法人会計基準に沿って作成しなければならないため、会計処理により一層手間がかかることもデメリットです。なお、3区分は明確に分ける必要があり、会計間の財産移転についても制限が課せられています。
このように事務作業が増加・複雑化した場合、法律や会計の専門知識を持つ組織の管理部門・経理部門も整備する必要があります。当然ながら人件費や工数がかかるため、リソース不足にならないよう注意しましょう。
公益社団(財団)法人の書類作成や会計処理については、以下の記事でも解説しています。
公益財務三基準を遵守する必要がある
公益法人として活動する場合、以下の公益財務三基準を永続的に遵守する必要があります。
収支相償
公益目的事業等会計の収入が、その実施にかかる適正な費用を償う金額を超えてはならない。公益目的事業等会計において剰余金が発生している場合は、剰余金解消のための施策を検討する必要があります。
公益目的事業費率50%以上
公益目的事業等会計の費用が、事業費・管理費の合計額の50%以上でなければならない。
遊休財産保有制限
遊休財産(具体的な使途が決まっていない財産)の保有額が、1年分の公益目的事業費相当額を超えてはならない。
公益財務三基準については、以下の記事もご確認ください。
関連記事:公益法人の財務三基準についてポイントごとにわかりやすく説明
認定取消となった場合のリスクが大きい
晴れて公益社団(財団)法人になったとしても、気を抜くことはできません。定期的な活動報告や立入検査の結果、公益性がないとみなされると、行政庁から公益認定を取り下げられる可能性があります。
さらに、認定取消となった場合、公益目的保有財産を分配することは認められていないため、相当額の財産は国や地方公共団体、ほかの公益法人などに贈与しなければなりません。
公益認定を取り下げられないように、常に公益認定基準を満たせる適正な運営を継続する必要があります。
公益法人化を目指すかどうかは、メリット・デメリットを考慮して検討する
社団法人・財団法人を設立するからには、税制優遇や信用向上のメリットを享受できるよう「なんとしても公益法人化を目指したい」と考える方が多いでしょう。
しかし、前述したように公益法人化はメリットだけではなく、事業活動の制約や事務作業の増加といったデメリットもあります。公益法人になったからといって、必ずしも状況が良くなるとは限りません。
公益法人化を目指すかどうかは、組織の維持・運営にかかる手間や人的コストと、公益法人化で得られるメリットを天秤にかけて、慎重に検討することをおすすめします。事業内容や運営理念によっては、自由に活動できる一般法人のほうが適している場合もあるため、よく考えたうえで決断しましょう。
まとめ
公益社団(財団)法人になれば、税務上のさまざまな優遇措置が受けられ、当該法人に寄附を行なった法人・個人にとってもメリットがあります。さらに、「公益」という名称が付くと、社会的な信用が向上するため、寄付金などを集めやすくなることもメリットです。
一方で、公益法人化はデメリットもあります。そのため、それが事業活動の足かせにならないか考慮しつつ、法人にとって最善の判断を下さなければなりません。法律や会計などの知識も求められるため、迷ったら専門家の力を借りるのも一案です。
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