前回に引き続き、欠損金の繰戻しによる還付制度をご紹介します。(>>【第1回】はコチラ)
【第2回】は、「災害損失欠損金の繰戻しによる還付の制度」について取り上げます。
新型コロナウイルス感染症に関連する制度ですので、是非最後までお付き合いください。
目次
制度概要
災害損失欠損金の繰り戻しによる還付制度
災害のあった事業年度またはその年度の中間申告時において災害損失欠損金が発生した場合、その年度の前1年以内(青色申告法人は前2年以内)に開始した事業年度の法人税額のうち、災害損失欠損金額に対応する部分に関して還付請求できる制度です。
災害と災害損失欠損金の範囲
「災害」
・自然災害 : 震災、風水害及び火災、冷害、雪害、落雷、噴火等
・人為的な災害 : 鉱害、火薬物の爆破等
・生物による異常な災害 : 害虫、害獣などによるもの
「災害損失欠損金」
欠損金の発生した事業年度の欠損金額のうち、災害により棚卸資産、固定資産や一定の繰延資産等について発生した損失の合計額を指します。保険金や損害賠償金によって補填される部分を除き、資産の減失等による損失、原状回復のための費用等、被害の拡大や発生の防止のための費用等が含まれます。
資産に生じた被害に加え、その被害の拡大・発生を防止するために直接要した費用による損失かどうかが論点です。
新型コロナウイルス感染症の影響に関連する例
国税FAQでは、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた災害損失欠損金の範囲について紹介されています。
該当例
以下の例は被害の拡大・発生の防止のために直接要した費用であるため、災害損失欠損金に該当します。
・飲食業者等の棚卸資産の廃棄損
・感染者が確認されたことにより廃棄した器具備品等の除去損
・施設や備品などを消毒するために支出した費用
・感染発生の防止のため、配備するマスク、消毒液、空気清浄機等の購入費用
・イベント等の中止により、廃棄せざるを得なくなった商品等の廃棄損
該当しない例
以下の例は被害の拡大・発生の防止のために直接要した費用とは言えないため、該当しません。
・客足減少による売上の減少
・休業期間中に支払う人件費
・イベント等の中止により支払うキャンセル料、会場使用料、レンタル料
適用法人
災害損失欠損金を有する法人
欠損金の繰り戻しによる還付制度では、青色申告をする中小企業者等が対象でしたが、この制度では、資本金の額に関係なく災害損失欠損金を有するすべての法人が対象です。また、青色申告法人の場合は、前2年以内の事業年度まで繰り戻すことができます。
適用要件
適用要件は以下の3点です。
①還付対象の所得の発生した事業年度から災害損失欠損金が発生した事業年度まで連続して確定申告書を提出していること(青色申告書に限りません)
②欠損事業年度の確定申告書又は仮決算による中間申告書を提出していること
③②の確定申告書又は仮決算による中間申告書を提出すると同時に「災害損失の繰戻しによる還付請求書」を提出すること。
還付請求の手順(専門家による手続き)
専門家の業務範囲ですが、繰り戻し還付請求を行うにあたって必要な申告書等に関して、参考程度にご紹介します。
確定申告時と中間申告時のどちらに還付請求を行う場合でも、手順は概ね同一です。
①「災害損失特別勘定の損金算入に関する明細書」の作成
災害損失特別勘定の繰り入れを行う場合に作成します。
②「災害により生じた損失の額に関する明細書」の作成
③に挙げる申告書別表7(1)の明細書として作成します。
③別表7(1)「欠損金又は災害損失欠損金の損金算入に関する明細書」の作成
④「災害損失欠損金額に関する明細書」の作成
「災害損失の繰戻しによる還付請求書」の付表として作成し、災害損失欠損金をどの還付所得事業年度に
繰り戻すかを明らかにします。
⑤「災害損失の繰戻しによる還付請求書」の作成
災害損失欠損金額に関する明細書に記載した「繰り戻す災害損失欠損金」などを基に、還付所得事業年度ご
とに請求書を作成します。
⑥「確定申告書」を作成し、上記①~⑤とともに提出
・通常の欠損金の繰戻しによる還付請求を同時に行う場合
上記⑤に加えて「欠損金の繰戻しによる還付請求書」を作成しましょう。
・中間申告時に還付請求を行う場合
⑥の「確定申告書」に代えて「仮決算による中間申告書」を作成します。
なお、これを行った場合、その後の確定申告時にその還付請求の対象となった災害損失欠損金の合計額を別表4「所得金額の計算に関する明細書」上で益金に算入します。
詳しい情報はお近くの専門家か、TOMAまでご相談ください。
留意点
青色申告法人の中小企業者等に災害損失欠損金と青色欠損金の両方がある場合
確定申告時、前1年以内に開始する事業年度に欠損金を繰り戻す場合には、災害損失欠損金と青色欠損金を区別することなく、その合計額を還付請求することもできます。この場合には、前章⑤の「災害損失の繰戻しによる還付請求書」ではなく、「欠損金の繰戻しによる還付請求書」のみを作成することになります。還付請求税額や翌期へ繰り越す欠損金額は、 それぞれを区分して2つの還付請求書を作成する場合と同様の結果となります。
還付所得事業年度が2以上ある場合
還付所得事業年度が2以上ある場合、どの事業年度に繰り戻すかは法人の計算によります。一般的には、還付所得事業年度の税負担割合(法人税額÷所得金額)が高い事業年度に繰り戻すと還付税額が多くなります。
還付の対象は国税のみ
この制度において還付の対象となるのは、国税である法人税・地方法人税のみです。
・法人事業税
法人税の繰り戻し還付の算出基礎となった欠損金額をその後10年間の各事業年度に繰り越して控除します。この場合、法人税の繰越欠損金額と差異が生じます。
・法人住民税
その後10年間における法人住民税の法人税割の課税標準から還付を受けた税額を控除することが可能です。これを適用するには、翌年度の地方税の申告時に「控除対象還付法人税額又は控除対象個別帰属還付税額の控除明細書」の記載・添付を忘れずに行いましょう。
税務調査の対象になる
法人税法では還付請求書の提出があった場合において、必要事項を調査するよう定められています。(法人税法第80条)
事例によっては簡便な調査で終わることもあるようですので、調査を理由に還付を諦めるのではなく、しっかりと説明できるように準備しておきましょう。
全2回に渡って欠損金の繰り戻し還付制度をご紹介しました。特に、今回ご紹介した災害損失欠損金の繰戻しによる還付制度は、前回ご紹介した欠損金の繰戻し還付制度に比べて作成書類が多く、手続きが煩雑になることがわかります。
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今回は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて拡充された、特例制度の一部をご紹介しました。
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