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新しい事業承継M&Aの形!ファンドを活用した事業承継とは

記事作成日2022/04/13 最終更新日2023/03/30

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2025年問題や、大廃業時代という単語を聞いたことがあるでしょうか?

2025年までに経営者が70歳(平均引退年齢)を超える中小企業の数は約245万社となり、そのうち約半数の約127万社が後継者未定といわれています。これは日本企業全体の約1/3にあたる数であり、これらの企業が何の対策も講じなかった場合、日本経済を支える企業の1/3が消滅=廃業する可能性があります。これが前述した「2025年問題」「大廃業時代」と呼ばれるものです。

この危機を脱する手法として、M&Aを選択する企業が急激に増加していることは今では周知の事実ですが、そんな中でも投資ファンド(投資会社)を事業承継に活用する手法が注目されつつあることをご存じでしょうか。

投資ファンドには成長段階のベンチャー企業へ投資するベンチャーキャピタル、未上場株式に対して投資を行うPEファンド(プライベート・エクイティ・ファンド)、事業再生を得意とする事業再生ファンドなどがあり、近年存在感を増しているのが、事業承継問題の解決をメインに取り扱う事業承継ファンドです。今回はそんな事業承継ファンドを活用した事業承継の手法について解説します。

ファンドとは?

「ファンド」というと日本ではネガティブな印象を持たれることがほとんどです。官民一体となって運営される官民ファンドや、大学が主導する大学ファンドなど、比較的ネガティブなイメージが薄いファンドもありますが、一般的にファンドといわれると、「ハゲタカ」「会社の乗っ取り」などの印象が強いのではないでしょうか。

このネガティブなイメージは一昔前に話題になった村上ファンドやスティールパートナーズなどの敵対的買収が発端といえるでしょう。

当時、村上ファンドは阪神電鉄の株式を買い集め、スティールパートナーズはブルドックソースに対して敵対的なTOBを仕掛けました(TOBとは株式公開買い付けのことで、対象会社の株式を公募によって買い集めることです)。この行動が「会社の乗っ取り」と取りざたされ、大々的に報道されてしまったことで、ファンドの悪印象は決定的なものになってしまいました。

しかし、そもそもファンドという仕組みそのものが悪なのでしょうか。ファンドとは直訳すると「基金」を意味し、投資家などから資金を集め、主に株式投資等を行って利益を生み出すことを目的とする組合のことを指します。(※株式投資がすべてではありませんが、本ブログでは事業承継をテーマにしていますので、株式にフォーカスしています。)

投資で利益を生み出すというと、「なんだか怪しい」「詐欺まがいのことをしているのでは?」という印象を受ける方もいると思います。しかし、実は身近なものへと置き換えてみると、投資はごく当たり前にやっていることでもあるのです。

例えば、年金は全国民から国民年金保険料という形で資金を集め、運用して利益を生み出し、年金受給者への支払いに充てています。(※年金制度の崩壊が囁かれているのは、運用の失敗ではなく、単純に支払者と受給者のバランスが崩れていることが原因といわれています。実際に2020年の運用実績は約38兆円の利益を出しています)。年金システムはまさにファンドの仕組みに酷似しているといえます。

なぜファンドなのか?

では、なぜそのファンドが事業承継型M&Aに注目しているのでしょうか。ファンドは資金を出してくれた投資家に対して、利益を還元する必要がある性質上、投資対象の株式の価値を最大化する必要があります。それは投資対象の会社を成長させることとほぼ同義です。そしてファンドには会社を成長させるノウハウが溜まっています。

企業価値を上げる有効な手段の一つとして株式市場への上場が挙げられます。将来有望な、あるいは改善を促すことで更なる成長が可能な非上場株式に対して投資を行い、上場を目指して成長させる手法は、ファンドの投資手法の王道になりつつあります。こうした非上場株式に投資を行うファンドをPEファンド(プライベート・エクイティ・ファンド)といい、その中でも特に事業承継に悩む企業を投資対象としているのが事業承継ファンドです。

後継者不在により黒字廃業してしまう可能性のある企業は、逆に言うと最大の問題点が後継者不在であり、そこさえ解決してしまえば、優良企業であることも多いです。またDXなどの効率化が進んでいないケースも多い為、成長余地もあり非常に優良な投資対象といえます。 日本全体で127万社も有望な投資対象があるのですから、ファンドが注目するのも当然といえるでしょう。

ファンドの出資を受けるとどうなるのか

ファンドは出資を行った後、経営支援を行うことで、企業価値の向上を目指します。この際、株主という立場から一方的に指示を出すのではなく、経営陣を派遣し一緒になって企業の成長を図るケースが多くみられるようになってきています。

出資後、企業価値向上のために直接投資を行った企業を中心として企業グループの形成を目指す場合がほとんどです。複数の企業に投資を行うことで、単独での企業価値向上のみならず、企業同士の相乗効果を生み出すことで更なる成長を目指します。また、ファンドには必ず期限が設けられます(おおよそ5年から10年のケースが多いです)。期限が来るとファンドは保有株式をすべて譲渡、利益を出資者へ還元し解散します。

ファンドの出資を受けても経営に関与することはできる

ファンドへの譲渡の形として、100%株式譲渡を行う場合と、一部の株式を残して残りを譲渡する場合があります。これはファンドのポリシーによるところで、100%の株式を譲渡して引退したいのか、それとも引き続き経営に携わりたいのか、あるいは後継者育成の時間が欲しいのか、自身の目的に合ったファンドを探す必要があります。

①100%の株式を譲渡する場合

まず100%の株式譲渡を行う場合、数年の引継ぎ期間を経て引退することになります。早期の引退が目的であるならば、これが最も早い選択肢でしょう。そして、この選択肢はファンドではなく事業会社に譲渡した場合とメリットデメリットや注意点などは大きくは変わりません。

引退については数年の引継ぎの後に経営を退くことになります。自身を除く旧経営陣、社内の後継者候補、ファンドから出向してくる経営陣、社外から招聘されるプロ経営者たちが今後の会社を引っ張っていきます。残されることになる従業員や旧経営陣の為にもしっかりと引継ぎを行う必要があります。

②一部の株式を譲渡する場合

一方で、一定の割合の株式を旧来のオーナーに継続保有してもらうケースでは、引き続き株主兼経営者という立場でファンドとともに経営に携わり、企業価値の向上を目指します。この形式をファンドが求める理由としては、企業価値の向上を目指すうえで、従来からのオーナーにも責任感を持って協力してもらいたい、という狙いがあります。

どちらの場合でも少なくとも数年は経営に携わることになります。一部譲渡の場合は当然関わっていくことになりますが、100%の株式譲渡の場合でも本人の意向と、会社の状況によって引退を引き延ばし、長く経営に携わることもできるでしょう。

ファンドの期限が過ぎるとどうなるのか

ファンドの期限について前述しましたが、それが関わってくるのは一部株式の譲渡を選択し、引き続き株主の一人として残っている場合です。上場を一つの基準点として、上場できた場合とできなかった場合とでファンドの対応は異なります。

①期限内に上場を達成した場合

まず、ファンドの期限内に上場を達成した場合には、旧オーナーは半ば自動的に上場企業の大株主となります。それと同時に保有している株式は現金化可能な金融資産となりますから、いつでも現金化することができます。また、上場に向けた準備として後継者育成や、外部からのプロ経営者の招聘なども行いますので、経営者として引退することも可能です。

②期限内に上場を達成できなかった場合

期限内に上場できなかった場合、ファンドは別のファンドへの二次売却、一般的な事業会社への売却、もしくは経営陣への売却という選択肢を取ります。

・別のファンドへの二次売却
別のファンドへの譲渡となった場合には、再度上場を目指すか、譲渡先のファンドが出資している事業会社へ譲渡を行い、そのグループ企業として成長を目指すかの二つの方法が考えられます。

・一般の事業会社への売却
一般的な事業会社へ株式を譲渡する場合と、ファンドの投資先の事業会社へ株式を譲渡する場合のメリットデメリットや、注意点などは基本的には同じです。ファンドが出資を行っているかいないかに関わらず、事業会社がM&Aで買収を行う際には100%の株式取得を目指す場合がほとんどです。そのため、経営者としての引退はもちろんですが、株式の現金化も可能です。引き続き経営に携わりたい場合には、譲渡先の事業会社との交渉になるでしょう。

・経営陣への売却
最後に経営陣への売却です。この時の経営陣は、旧来の経営陣、育成してきた後継者(親族内外問わず)、社外から招致したプロ経営者、そしてファンドから出向してきた経営陣の4者になります。ファンドからの出向者は本体のファンドへ引き上げますので、旧経営陣、後継者、プロ経営者の3者が、単独あるいは共同で株式を引き受けます。引退を考えている場合には、後継者かプロ経営者に株式を買い取ってもらう必要があります。

ファンドを活用する上での注意点

ここまでファンドの目的や、実際にどう動くのかについてご紹介してきましたが、ファンドに対する負のイメージはぬぐい切れていないと思います。その為、まずはファンドが具体的にどのような考え・判断基準を持っているかをご紹介します。

彼らは無差別に株を買い漁っているわけではなく、彼らなりの判断基準を持って、投資をすべき会社に必要な投資を行っています。まず、第一に業種を限定している場合がほとんどです。ファンドはその性質上、投資先の企業価値を確実に向上させることを求められます。その為、過去に実績のある、あるいはファンド運営チームのメンバーが知見のある領域(業種)に投資先を限定します。

また、直接投資を行う場合にはさらに一定の財務的な条件も設けています。

具体的に言うと「売上○○億円に対して、EBITDAが、○○万以上」といった具合です(EBITDAとは、実際の現金支出に着目した財務的指標の一つで、日本語では「利払い前、税引き前、償却前の利益」という意味です。簡易的には営業利益+減価償却費で算出されます。企業が1事業年度で生み出す現金の額に近しい数値です)。ファンドは自身の得意領域(業界)において、どれだけの収益力があり、どれだけの成長性があるかに着目します。その判断基準の一つとして上記のような指標を設けているのです。

追加買収を行う場合は、事業会社同士のM&Aに近しいのでこの限りではありませんが、業種、規模などから自社に適したファンドを見つけることが重要です。ただ、業種や規模だけで判断してしまうと、実力のないファンドを選んでしまうことになりかねません。その場合の判断基準の一つとして過去の投資実績が挙げられます。

多くのファンドは自社の投資実績をホームページ上で公開しています。そこで過去にどんな企業へ投資をして、投資先の企業がどういう成長をしたかを確認しましょう。ホームページ上で公開していないファンドに関しても、M&Aの支援を行っている機関には公開しています。

M&Aの専門家へ依頼しましょう

M&Aは複雑な手続きと専門知識、ハードな交渉を伴うので、本格的に検討を始める際はM&A支援機関に依頼すると良いでしょう。専門知識だけでなく、前述のようなファンドの非公開な投資実績などの業界情報も持っています。しかし、現在M&Aの支援を行っている機関は膨大になっていますので、専門家の選定は慎重に行う必要があります。

その際、信頼できるM&A支援機関を見極める一つの目安となるのが、中小企業庁が主となり構築した「M&A支援機関登録制度」です。
参照:中小企業庁:M&A支援機関登録制度

2021年から始まった新しい制度で、中小企業が安心してM&Aに取り組める基盤を構築するために設けられました。「M&A支援機関登録制度」の登録には「中小M&Aガイドライン」の遵守宣言を行うことなどが登録要件となっています。

また、政府が事業承継推進にあたってM&A専門家のへの報酬を補填するために設けられた「事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用型)」を申請する際には、予め登録されたM&A支援機関の提供する支援に係るもののみが補助対象となります。TOMAはこのM&A支援機関登録制度に登録していますので、安心してご相談ください。

まとめ

ファンドを活用した事業承継に関しては手段の違いはありますが、ファンドの目的である「投資によって利益を出すこと」は投資先の会社を成長させることでのみ、達成させることができます。

また、一般的な事業会社への譲渡と異なり、ファンドへ譲渡する場合はオーナーや現経営陣の意向を汲んで一緒に会社を成長させていくことが特徴です。そう考えれば、ファンドの印象も少し変わるのではないでしょうか。TOMAはファンドも含め、事業承継の受け皿となりうる、数多くの企業様と連携をしながら、これまで多くの事業承継に関するお悩みを解決して参りました。それはM&Aという手段に限りません。

TOMAは“100年続く企業を育てるお手伝いをすること”をビジョンとし、お客様の利益を第一に考えています。その為、場合によってはファンドの活用や、M&Aを選択肢としてお勧めしないこともあります。

今後の会社の在り方について、ちょっと相談したいといったような、些細なきっかけでも構いませんのでお気軽にご相談ください。TOMAのM&Aコンサルティングサービスはこちらよりご覧いただけます。

監修 TOMAコンサルタンツグループ コーポレートアドバイザリー部

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