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事業承継をめぐる営業権(のれん)の問題

記事作成日2020/01/31 最終更新日2022/03/14

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事業承継を行う際には、承継する個人事業や法人の営業権の取り扱いが問題になります。営業権には商品やノウハウ、顧客などの無形資産が含まれますが、事業承継によりその事業主の商品やノウハウ、顧客まで承継することになるため、その価値も含めて事業承継の価格を設定することが必要です。

事業承継に伴う営業権(のれん)の問題や、営業権の基準についてご紹介します。

営業権(のれん)とは

 営業権は、会計法上「のれん」と呼ばれることもあり、ほぼ同じ意味で用いられます。営業権とは、営業上の超過収益力を意味し、具体的には顧客に対する信用度や品質といった、その企業特有のブランド力のことを表す言葉です。会計法上では「無形固定資産」として扱われ、形がないとはいえ資産として扱われています。

事業を第三者に承継する際、取得原価と事業の時価純資産価格が一致しないこともあります。例えば1億の純資産を有する事業を5,000万円で取得するなど、取得原価が時価純資産よりも小さい場合には、その差額は「負ののれん」となります。一方、取得原価の方が時価純資産総額よりも大きい場合は、その差額が「のれん代」になります。

営業権の基準となるもの

営業権は営業上の超過収益力を意味するため、会社や事業主によって営業権の算定価格はさまざまです。しかし、事業承継を行う際にはできるだけ適正な価格で承継を行いたいものです。そのためには、営業権の基準を理解しておく必要があります。

財産評価基本通達によれば、営業権の評価の計算式は「平均利益金額×0.5-標準企業者報酬額-総資産価額 × 0.05 =超過利益金額」と定められています。

のれんの税務上の取り扱い

のれんと負ののれんについては、平成18年の税制改正により、資産調整勘定として取り扱うこととなりました。また、法整備前は償却期間が不明確であったことも伴って、償却ではなく全額費用計上されていたケースもありました。しかし、現在のれんについては取得後20年以内に均等償却し(耐用年数は5年間)、のれんは販売費や一般管理費として処理しなければなりません。

また、負ののれんについては取得事業年度に特別利益として利益処理を行わなければなりません。

事業承継をめぐる営業権の問題

会社内の親族や従業員間で事業承継が行われるケースでは、事業承継によって会社のブランドが変わるわけではないため、営業権はあまり問題になりません。事業承継で営業権が問題となるのは、会社が他の法人に事業承継をする場合や、個人事業主が事業承継を行う場合です。

この形での事業承継では、商品のみならず顧客も承継されることになります。そのため、営業権の設定や対価の支払いがないままに事業承継を行うことで、対価をめぐる問題が生じることがあります。

過去、税理士事務所の事業承継をめぐって相続人が営業権の対価を要求した事案がありました。裁判所は一定の無形的財産価値があると判断し、営業権の対価として被告に対する請求を認めています。このケースでは原告は相続人でしたが、第三者に事業承継を行う場合には、このように相続人との兼ね合いで軋轢が生じるケースもあります。

相続人が事業を承継していれば見込めたであろう収入が、第三者に事業承継されることによって見込めなくなるため、相続人に対しては営業権に相当する資産を相続財産として残すなどの対策が有効なこともあります。

まとめ

事業承継に伴う営業権については、適正なのれん代を設定することが重要です。相続人と事業承継人の間で営業権にまつわる軋轢が生じる可能性や、営業権の算定基準、税務上どのように取り扱うかといった問題も考えられます。

事業承継をスムーズに行い、承継後に問題が生じないようにするためには、税務上や会計処理をはじめ、多方面からのリスク管理が必要です。

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