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事業承継税制の改正によって税金負担はどう変わるか

記事作成日2020/02/07 最終更新日2021/08/31

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中小企業や小規模事業の経営者が会社を後継者に譲る際、様々な税金がかかってきます。しかし平成30年度の税制改正により、このような「事業承継税制」も大幅に改正されました。

今回は、その改正で以前と比べてどう変わったのか、税金負担はどう変わるのかを詳しく見ていきましょう。

事業承継税制とは、会社の引き継ぎにかかる税負担を軽減する施策

そもそも事業承継税制とは、中小企業が後継者に会社を引き継ぐ際にかかる、贈与税や相続税などの税負担を軽減するものです。

会社を後継者に引き継ぐ際には、その会社の株式を経営者から後継者に譲渡します。事業承継税制は、その際にかかる贈与税・相続税などを猶予・免除するものであり、高額な税金をまだお金のない承継時に払わなくて済むようにする制度です。

しかし、その事業承継税制を利用するためには、「5年間で平均8割以上の雇用を維持できなければ猶予打ち切り」、「対象は、1人の先代経営者から1人の後継者へ贈与・相続される場合のみ」などの条件をクリアする必要があり、利用すること自体がかなり厳しい制度となっていました。

平成30年度(2018年度)税制改正(中小企業・小規模事業者向け)の背景と変更点

では、今回の税制改正とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。改正するに至った背景や、改正後は改正前と比べてどう変わるかをご紹介していきます。

◇平成30年度(2018年度)の税制改正の背景は、税負担によるGDP損失見込み

中小企業庁によると、税制改正の背景には下記のような問題がありました。

『今後10年の間に、70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり、うち約半数の127万(日本企業全体の1/3)が後継者未定。』

『現状を放置すると、中小企業廃業の急増により、2025年頃までの10年間累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性。特に地方において、事業承継問題は深刻。』

(中小企業庁「平成30年度 中小企業・小規模事業者関係 税制改正について」より引用 http://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/2017/171225zeiritu.pdf

つまり、中小企業・小規模事業者の事業承継を後押ししないと、日本経済に大打撃が起きる見込みとなっているのです。そこで政府は中小企業・小規模事業者の事業承継を後押しすべく、今回の税制改正に踏み切ったのです。

◇税制改正により、猶予割合が100%に!雇用条件も撤廃され利用しやすく

税制改正前は、事業承継時の贈与税・相続税に対して税猶予される割合は約53%でした。しかし、改正後は100%になるため、事業継承にかかる贈与税・相続税に対する金銭的負担はゼロとなります。

これまでは、持ち株が多く高いほど納税額が高くなり、継承前の稼ぎがない時点で高額納税しなければならず、継承自体が難しいというケースも多数ありました。しかし、改正後は承継時の金銭的負担がゼロとなるため、事業承継へのハードルがかなり下がります。

また、改正前は税制適用後、5年間で平均8割以上の雇用を維持できなければ猶予打ち切りとなっており、人手の少ない中小企業・小規模事業者にはかなり厳しい条件となっていました。

しかし、改正後は5年間で平均8割以上の雇用を未達成の場合でも、条件によっては猶予継続可能となりました。(経営悪化等が理由の場合、認定支援機関の指導助言が必要)。このことにより、事業承継後も納税猶予される可能性が上がり、猶予中に税金分のお金を稼ぎやすくなりました。

他にも、「複数の株主から、最大3人までの代表後継者への承継も対象とする」「売却額や廃業時の評価額をもとに納税額を計算し、承継時の株価をもとにした納税額との差額を減免する」など、税制措置の対象者を多くし、より多様な事業承継に対応可能な改正となっています。

まとめ

事業承継時、後継者は多額の税金を支払うだけのお金を持っていないことも多くあります。その現状を踏まえ、今回の税改正では事業承継時の税負担が実質ゼロになり、税制利用のための条件も緩和されるなど、事業承継しやすい環境が整いつつあります。税理士などの専門家に相談しながら、事業承継税制を最大限利用して、無理なく事業を承継しましょう。

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