新型コロナウイルス感染症の流行以降、ビジネスシーンではテレワークの導入が急速に進みました。テレワークに効果を見出し、コロナ禍以降もテレワークを継続する企業がある一方で、テレワークを導入したものの、うまく機能せずに取りやめてしまった企業もあります。
今回は、テレワークを導入する際の課題や問題点を解説します。
目次
テレワークの現状
テレワークとは、情報通信技術(ICT)を活用し、時間や場所を問わない働き方のことです。 新型コロナウイルス感染症が流行する前から社会、企業、就業者それぞれにメリットがあるとして政府はテレワークの普及を推進しています。
テレワークがもたらすメリット
【社会】
出産や育児、介護、高齢化による労働力人口の減少を防ぐことができます。 また、場所にとらわれない働き方が可能になることで、都市部の人口集中を緩和、地域活性化につながります。 通勤や業務における車の移動が減ることでCO_2排出量の削減効果も期待できます。
【企業】
移動時間に仕事ができることで営業先へ直行直帰が可能になったり、移動をせずにオンラインで営業が可能になったりと生産性の向上が見込めます。 自由度の高い働き方は求職者にも魅力的に映ります。 結果、優秀な人材を確保し、離職者を軽減することにも寄与します。
【就業者】
通勤時間が無くなる(減少する)ことによりワークライフバランスが取れる働き方が可能になります。 結果、プライベートの充実、育児・介護との両立ができます。
東京商工会議所の調査によると、2020(令和2)年5月25日の緊急事態宣言解除後も5割を超える企業がテレワークを継続しています。 また、従業員の規模が大きい企業ほど、実施率が高い傾向があります。 多くのメリットがあるだけでなく、国も普及を推進していることからコロナが収束した後もテレワークは定着することが予想されます。
テレワークの課題・問題点とは?
新型コロナウイルス感染症の流行によって、テレワークは普及し始めていますが、テレワークには課題や問題点はあるのでしょうか? 東京商工会議所の調査データを基に解説したいと思います。
緊急事態宣言が解除された直後、テレワークを実施している企業は67.3%と、約7割の企業が実施していました。 テレワークを導入した1番の目的は「三密の回避(82.9%)」で、2位が「感染症流行時における事業継続性の確保(75.7%)」となっています。 収束の目処がつかない新型コロナウイルス感染症はもちろん、今後どんな事態が発生するかは誰にもわかりません。
人間には『正常性バイアス』という本能が備わっていて、災害や病気に対し「自分(自社)だけは大丈夫」と考えてしまう傾向があります。 しかし、万が一社員が感染すれば感染者はもちろん、濃厚接触者も一定期間隔離状態となり、生産性が下がるだけでなく、取引先やお客様に迷惑をかけることになってしまいます。
感染症に限らず、不測の事態が起きても事業を継続できるBCPを整備することは、企業経営にとって大変重要です。ちなみにBCPについてはこちらの記事で解説しています。
3位は「通勤負担の軽減(50.4%)」、4位は「時間外業務の削減(43.2%)」、そして5位に「育児・介護を行う社員への対応(22.5%)」が続きます。 これらの目的は、テレワークが始まった1980年代、そして近年政府が強く推進してきた働き方改革のゴールと同じです。
テレワーク実施による効果
では、テレワークを実施した企業はどのような効果を実感しているのでしょうか?
最も多くの企業が感じている効果は「働き方改革が進んだ(46.2 %)」です。 働き方改革がもたらす恩恵は、単に業務時間が減ることではありません。 テレワークによって通勤時間や残業時間が減少することで、プライベートが充実する、業務への集中力が増加する、プライベートで得た気づきが新しいビジネスのアイデアに繋がるなど、さまざまな効果があります。
2位は「業務プロセスの見直しができた(39.7%)」。 長年、経営を続けていると業務は地層化するものです。 すでに活用されていないのに「昔からやっているから」という理由で続けている仕事はありませんか? また、フローが複雑になることで同じ作業を2回3回行っているというケースも少なくありません。 テレワークを実施するにあたり、業務を棚卸し、本当に必要な業務に集中するために、無駄な作業を省く必要があります。
3位は「コスト削減(22.7%)」。 テレワークの導入により、様々な面において、コストの削減が可能になります。
・出張費の削減
オンラインでの商談が可能になると、遠方への出張などにかかる費用を抑えられます。
・交通費の削減
在宅ワークが多くなると、社員へ交通費を支払う必要がなくなります。 その分、在宅ワークにかかる光熱費などの支払いが発生しますが、交通費と比較すると安価になることがほとんどです。
・オフィススペースの削減
テレワークによってオンラインでの会議が当たり前になると、会議室や来客者用の応接室が必要なくなり、オフィススペースの縮小が可能になります。
・消耗品費の削減
オンラインでの会議がメインになると、会議資料は自然とデータでのやりとりになります。 ペーパーレス化によるコスト削減も可能になります。
・採用にかかる経費の削減
直接採用にかかる費用が減るわけではありません。 テレワークを取り入れることで、これまで出産や介護などライフイベントが理由で退職をしていた社員を減らすことができます。 新たな採用活動を行う必要がなくなれば経費を削減できます。
4位は「特になし(17.0%)」。 「特に効果を感じないのであれば導入する必要はないのでは?」と思うかもしれません。 しかし、大きなデメリットがないのであれば、少しずつテレワークに舵を切ることは決して悪いことではありません。
今後、取引先や競合他社など、周りがテレワークを当たり前に導入している環境になった時、自社では「特にメリットがないから」という理由でテレワークを導入していないと、それがデメリットになります。 コロナが収束を見ない場合、採用においてもテレワークがないというのは不利になる可能性があります。
5位は「定型的業務の生産性が上った(14.3%)」。 データ入力や伝票整理、見積書や請求書の作成など作業内容が決まっている業務の生産性が上がります。
このように、テレワークには様々な効果があります。 しかし、これからテレワークを実施する企業は、これらのメリット全てを目指すのは得策ではありません。自社がテレワークを取り入れる第一の目的は何かを明確にすることが大切です。
テレワークを継続する上での課題
メリットの多いテレワークですが、長く続けていくためには解決しなければならない問題も少なくありません。 その一例を紹介します。
【社内コミュニケーション】
実際に面を合わせない働き方であるテレワークにおいて、最も重視したいのが「社内コミュニケーション」です。 個人面談を定期的に行う、新人教育のフローを作成する、朝礼・終礼で全体チャットを実施し、社員一人ひとりが発言をする、他の社員の動きを共有できるシステムを導入するなど、コミュニケーションは「密」にすることがテレワークを長続きさせるコツです。
管理職はコミュニケーションが減少することを意識し、積極的にコミュニケーションを図るようにすると良いでしょう。
【押印業務】
「書類への押印」のため、会社に出勤しなければならないというケースもよく聞きます。 社内文書の承認などであれば、電子サインを採用することで対応可能です。 また、請求書や契約書などの帳簿類は、電子帳簿保存法に則ったタイムスタンプを利用することで大幅に改善されます。
テレワークを推進している政府も、年間1万件以上の申請がある820種類の手続きのうち、785種類の押印廃止を検討中です。 このほかにも各省庁は、行政手続きのオンライン化を同時に進めていて、今後押印に対するハードルは徐々に低くなることが予想されます。
【労務管理・人事管理】
労働時間、長時間労働、作業環境、費用負担に関する「労務管理」や、社員のモチベーション、評価制度などを定めた「人事管理」を事前に徹底することもテレワークに必要です。
しっかりと準備をしないと、現場の混乱を招き、テレワークはうまく機能しません。 厚生労働省は「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」を公表しているので参考にするのも良いでしょう。全くテレワーク経験のない企業は、導入前に専門家に相談するのも一つの手です。
【環境整備】
テレワークを実施する際には「PCやスマホ、ネットワークの整備」も欠かせません。 社員にモバイルツールを用意すること、セキュリティ面に優れたネットワーク環境を用意するには一定の費用がかかります。 費用の捻出が難しい場合、税制優遇が受けられる「経営力向上計画」や、都内の中堅・中小企業のテレワーク促進を支援する「テレワーク定着促進助成金」などの手段があります。
「準備が9割」という格言もあるように、見切り発車でテレワークを実施すると高い確率で失敗します。 せっかくテレワークを取り入れるのであれば、長く継続できるよう準備を怠らないようにしましょう。
テレワークをやめた理由は
緊急事態宣言が解除された後、テレワークをやめてしまった企業は少なくありません。 東京商工会議所の調査に回答した1048件の内、75.2%がテレワークを実施したと回答しています。 しかし、22.1%の企業がテレワークをやめてしまっています。
【テレワークをやめた理由例】
・取引先がテレワークを実施していないため、出勤しなければならない。
・オンライン営業では細かなすり合わせができない。
・セキュリティ面で不安がある。
・一部の部署のみテレワークを実施したところ、他部署から不公平だと不満の声が上がった。
・想定以上に業務をさぼる社員がいて生産性が下がった。
一見、メリットが多いテレワーク、導入できるなら是非自社にも取り入れたいと思うかもしれません。 しかし、導入してもうまくいかないケースもあるようです。
「失敗することを避けるため、テレワークの導入は見送る」 という決断をするのではなく、 「他社の失敗事例を参考に、事前準備を徹底しテレワークを導入する」 というマインドで臨むのが良いでしょう。
業種別のテレワーク導入状況
テレワークを導入している企業の割合で最も多い業種はサービス業(55.6%)であり、反対に少ない企業は建設業(41.0%)となっています。 建設業では、積算・見積において、現場や営業と密に連絡を取る必要があるため、経理職であっても出勤しなければならないケースがあるようです。
他業種と比較すると建設業はテレワークに向いていないと感じるかもしれませんが、10社中4社はテレワークを導入しているという事実に注目してください。 「密なコミュニケーションが取れない」、「セキュリティ面が不安」という声もありますが政府からの要請でバタバタとテレワークを導入した企業の場合、システムの選定が十分でなかった可能性もゼロではありません。
また、世界的にテレワークを導入しようという流れがあり、市場に需要が存在すれば、システムは必ず進化します。
今後は取引先から「商談はオンラインで」という声が上がる時代がくるでしょう。 その時、「うちはテレワークを導入していないので…」となれば、せっかくのビジネスチャンスを逃してしまうかもしれません。
先手先手を打ち、時代の変化に対応していくことが大切です。 テレワーク、モバイルワーク、サテライトオフィス、あらゆる勤務体系を検討し、自社にとって最も生産性の高い業務システムを構築していくことがこれからのビジネスシーンで勝ち残る鍵になります。
参考サイト
「テレワークの実施状況に関するアンケート」 調査結果
https://www.tokyo-cci.or.jp/file.jsp?id=1023299
政府の「脱ハンコ」加速 年末調整や確定申告も廃止検討
https://www.asahi.com/articles/ASNB465HJNB4ULFA00C.html
テレワークの問題解決はTOMAにお任せください
以上からテレワークの現状と課題がお分かりいただけたと思います。 TOMAでは、テレワークを日常的に取り入れているだけでなく、導入のお手伝いもさせていただいております。そのためどのようにテレワークを活用するべきか、どういったメリット・デメリットがあるのか、について実際の経験からお伝えすることが可能です。
また、テレワークの導入の助けとなる「経営力向上計画」の申請サポートや、助成金などの相談も承ります。テレワークについて対応を悩まれている方はぜひ一度ご相談ください。