近年ビジネスにおいてSFAやCRMといった顧客管理システムの導入が急速に広がり始めています。良い商品やサービスを提供するだけではなく、顧客一人ひとりへの丁寧なアプローチが必要な時代です。それをサポートするのがSFAやCRMなどの顧客管理システムです。
ところが顧客管理システムの導入を検討した時に、必ずといっていいほど浮かぶのが「SFAとCRMの違いって何?」という疑問。今回は、混同しがちになるSFAとCRM、それぞれの機能が持つ特性や目的、効率的な定着方法を解説いたします。
目次
伸長するSFA、CRM市場
現在、顧客管理システムであるSFAやCRMを導入する企業が増えています。その証拠にIT専門調査会社IDC Japan 株式会社が調査した「最新の国内CRMアプリケーション市場予測」によると、2018年の国内CRMアプリケーション市場規模は1,572億1,400万円でしたが、2023年には2,079億8,000万円に上ると予想されています。では、これらのシステムはいつ、何を目的として、どのようにこの世界に生まれたのでしょうか。
営業の生産性を高めるために生まれたSFA
SFAはSales Force Automation(セールスフォースオートメーション)の略で「営業支援システム」と訳します。顧客の購買傾向や商談や進捗状況を「見える化」するために生まれたシステムです。その歴史は古く、1990年代にはアメリカで提唱されていました。
では、なぜ日本で聞くようになったのは最近なのでしょうか。営業活動において、顧客の情報収拾や過去の商談内容を分析することは、営業力のボトムアップにつながります。当時、その考えがわかっていなかったわけではないのですが、利便性の悪さがSFAの浸透を妨げた原因です。
時代はまだ紙がメインでパソコンを扱える営業は多くありませんでした。また、ネット環境は全く整っておらず、会社に帰り入力しなければ報告ができないなど、外回りをメインのフィールドとする営業にとって不便が多かったのです。
2000年代に入り、一家に一台パソコンが、一人一台携帯を持つのが当たり前になると、SFAは徐々に浸透し始めるようになりました。
SFAは何ができるか?どんなことが得意なシステムなのか
営業活動をサポートし、生産性を高めるSFAは。顧客となり得る企業の属性、営業活動における顧客の反応、アップセル、クロスセルへつなげる戦略履歴など、さまざまな営業活動をデータとして蓄積することができます。
●SFAが得意な機能
・企業情報、担当者情報、過去の履歴、案件の進捗など顧客情報の管理
・売上や訪問回数など営業の活動レポート
・各営業、チーム全体のToDo管理
・営業全体の動きが見えるカレンダー機能
・企業情報に基づく見積書作成、請求書発行
・日報管理
営業が受注、売上につなげるまでの行動の最適化ができるため、営業個々人の能力による差を小さくすることが可能です。特に、属人的な営業活動が昔から根付いている日本において、これらの解消は今も大きな経営課題となっています。
把握しにくい各個人の行動や訪問先で知り得た情報を一限管理することができれば、トップ営業の退職などによる売上の低下を防ぐだけでなく、営業力の底上げが可能です。また、管理職にとっても各営業の動きが見える化されるため、適切なアドバイスや適材適所の人材配置などにも役立ちます。
顧客満足度を高めるために生まれたCRM
CRMが生まれたのもSFAと同じ1990年代です。CRMはCustomer Relationship Management(カスタマーリレーションシップ)の略で「顧客関係管理」と訳します。営業支援であるSFAよりもその守備範囲は広く、CRMは経営戦略のツールとして認知されています。CRMもITの進化に合わせてその形を進化させます。1990年代後半は大量生産や大量販売を目的とする中での最善の一手を模索するベストプラクティス型が主流でした。2006年頃にITテクノロジーが発展すると、企業の担当者が顧客情報をリアルタイムに共有し、顧客満足度をさらに上げることに成功します。
2016年に入り、人工知能(AI)やビジネスインテリジェンス(BI)がビジネスシーンに活用されるようになるとCRMはさらに進化します。これまで、例えば「納期に遅れたら顧客満足が下がる」といった形式的なものが多かったCRMが「〇〇なアプローチをすることで、顧客心理に影響を与え、行動を促す」といった部分にまで踏み込めるようになるのです。
これにより、1社1社の特徴に合わせた営業戦略の構築が可能になりました。
CRMは何ができるか?どんなことが得意なシステムなのか
営業に特化したというより、マーケティング全体を見据えて開発されたCRMは、顧客データの管理などSFAに似た機能もあれば、営業を広い意味で捉えた機能も備わっています。例えば、自社商品・サービスをプロモーションするメールの一斉配信機能、自社のファンを作るためのメールマガジンの配信と、管理機能、顧客が自社の何に興味を示しているかがわかるHPのアクセス解析などです。さらに、セミナーやイベントの管理やアンケート機能を使った顧客満足度の調査を行うことも可能です。
●CRMが得意とする機能
・セミナーやイベント参加者といった、見込み客へのメール機能
・アップセル、クロスセルにつながる既存顧客へのメール機能
・セミナー参加のフォーム作成
・見込み客、既存顧客へのアンケート
・収集したデータの分析
顧客の基本情報などSFAと同様の機能もありますが、CRMは購買履歴、アンケート回答などのデータを使い、効果的なマーケティングに活用することができます。また、顧客の属性や特徴をまとめることで、one to oneのフォローが可能となり、顧客満足度を高め、良好な関係を保つことに役立ちます。経営を長く続けていくためには売ったら終わりの商売ではなく、顧客のリピート購入を促し、お得意様とすることが必須です。
店舗訪問、電話、メール、Webサイト、SNSなど顧客との接点は一昔前と比べ、多様化しています。さまざまなシーンに合わせ人材を配置することも可能ですが、もちろん経費はかさみます。それらを臨機応変に対応し、支援してくれるのがCRMなのです。
CRMの最適化されたデータ分析と人間によるホスピタリティが融合することで、一社一社に合わせたベストプラクティスを生み出すことができるのです。
SFAとCRMの違いを徹底比較
SFAもCRMも顧客獲得を目指すという目的があり、営業活動をスムーズにする、顧客管理機能を有するという点では同じです。違いは、誰向けに作られたものかということ。SFAは顧客獲得へ動く「営業」のために作られたシステムであり、CRMは「顧客」のために作られたシステムです。
そもそもSFAが提唱されたアメリカでは、営業活動はマーケティング活動の一部として考えられています。市場を把握し、顧客情報、ニーズを分析し、見込み客へのアプローチ方法を考える。それに合わせて営業が組織的に動き、受注を目指すという流れです。そのためSFAもCRMも同じ流れの中に存在しています。
また、近年では日本でも珍しいことではなくなりましたが、欧米ではセールスパーソンは能力をつけたら新たな会社へステップアップするという働き方が一般的です。そのため、経営者にとって属人化した営業活動は貴重な情報や経験値がごっそりと無くなってしまう死活問題となっています。それを防ぐために生まれたのがSFAなのです。
1990年代の日本では一般的だった終身雇用制度もSFA、CRMの定着を阻む一因だったと言えます。また、日本ではマーケティング部と営業部が別れていたり、社内で営業部の権力がとりわけ大きかったりという企業が多く、営業部長の意見が絶対。その部長は、長年の経験と勘で仕事をするというタイプが少なくありませんでした。営業は属人化が基本、他の営業との情報共有は皆無というのが普通だったのです。
現在では、そのような属人化した営業に限界を感じ、マーケティングの重要性に気づき始めた企業がSFA、CRMの導入に踏み切っているのです。
営業活動の流れにみるSFAとCRM
営業活動は顧客のニーズ把握、他社の状況把握をする「ドアオープン」に始まり、同業他社の商品サービスを比較した場合のユニークセールスポイントを研究する「提案内容検討」、顧客への「提案」、価格決定からのクロージング「受注」、「納品」、「継続購入」という一連の流れがあります。
大きくいうと市場の中から見込み客を発見し、商品サービスを購入してもらい、さらに、その顧客をお得意様へと育成する流れです。
この中で、SFAは「顧客獲得」のフェーズをサポートするシステムです。見込み客の情報やプレゼン、商談の進捗管理やスケジュール管理などを行うことで、営業力の強化・売上の最大化を目指します。
CRMは初回購入から継続購入へつなげ、最終的に優良顧客としての関係性を築くためのシステムです。LTV(Life Time Value)=顧客生涯価値の最大化には顧客満足度が高いことが必要です。そのために顧客が何に満足して、どんな課題を持っているのか、顧客の趣味趣向をしっかりと収集しておくことがカギになります。CRMはそれをサポートするシステムなのです。
また、見込み客をセグメントしてのメルマガ配信、開封率から何に興味を持っているのかの分析などを行うこともできます。
まとめると、SFAは営業のスムーズな活動のために作られ、CRMは顧客との関係性を築くために作られたものであり、一連の営業活動の中でサポートするフェーズが異なるという点がSFAとCRMの違いです。
SFAと CRMのどちらを導入すればいいのか
結局どちらを導入した方がいいのか、両方導入しなければいけないのかという疑問が湧いてきますが、これは一概に何が正しいとは言えません。なぜなら、企業によって抱えている課題が違うからです。かんたんに言うと営業活動を可視化したいならSFA、顧客情報を可視化したいならCRMを導入すべきです。洗い出された自社の経営課題によってまず導入すべきものは変わると思ってください。
もう少し詳しく説明すると、属人化した営業活動が常態化していて、さらに営業職の離職率が高い、あるいは一人の営業が何社も掛け持ちで顧客管理をしている。このような企業ではSFAの導入が急務といえます。また、営業個人個人の成績に大きな開きがある。仕事のできる営業がどんな情報を持っているのか、反対にできない営業が普段何をしているのか不透明という場合にもSFAを導入すべきです。
営業のチームワークは良くても新規案件がなかなか取れない、優良顧客が少ないという企業ではCRMの導入がおすすめ。既存顧客はたくさんいるのに、アップセル、クロスセルがほとんどない。商品は売れるけど、クレームが多く対応もイマイチ。こういう企業にもCRMは経営課題解決の一助となってくれるはずです。
SFAやCRM導入をうまく機能させるために
せっかくコストをかけて導入したシステムですから、うまく機能させたいのはどの経営層も願いは同じだと思います。そのために必要なことは現場がどれだけ真剣にシステムを利用しようと思えるかです。これはSFAもCRMも関係なく、どちらを導入するにしても大切なポイントです。
日々、忙しく外回りをしている営業が、いきなり顧客情報、営業活動をつぶさに入力しなさいと言われたら反発があるのは火を見るよりも明らかです。一番やってはいけないのは業務の地層化です。現状ただでさえ業務に追われる営業に、システム入力の業務を付加してもきっとうまく機能しません。そのため、システム導入と業務改善は同時進行で行いましょう。
このように、経営層はシステムが定着するよう顧客管理システムを導入したことで得られるメリットがどれだけ大きいものなのかを従業員にしっかり説くのはもちろん、業務量のバランスを取らなければなりません。
営業が顧客管理に取り組む意義を理解し、受動的ではなく能動的にシステムを運用しようと思わなければ、データが更新されず、正しい戦略は立てられない。営業力は上がらない。コストはかかると負のスパイラルに向かっていまいます。
TOMAコンサルタンツグループでも、素晴らしいシステムを導入している企業なのに、全く運用されていないというシーンを度々見てきました。もしもしっかり運用できるか不安、どうすれば定着できるかわからない、自社にあったシステムの選び方をレクチャーしてほしいという場合はご一報ください。貴社の経営課題を一緒に解決するお手伝いをさせていただきます。