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「多能工化」とは?メリット・デメリットや取り組み方を徹底解説

記事作成日2019/12/12 最終更新日2023/03/29

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業務の効率化や経費の削減は、すべての企業が抱える課題といっても過言ではありません。これらの課題をクリアするために、さまざまな業界において「多能工化(たのうこうか)」が取り入れられているのをご存じでしょうか。多能工化をまだ取り入れていない企業は、導入することで悩みを解決できるかもしれません。
本記事では、多能工化の概要やメリット・デメリット、取り入れ方や注意点を紹介していきます。

多能工化とは

「多能工化」とは、組織の人材を「多能工」として育成することを指します。別名「マルチスキル化」ともいわれており、すでに関心を抱いている経営者の人も多いのではないでしょうか。多能工の意味とは、1人で複数の業務や工程をこなすスキルを持った作業員のことで、どちらかというと製造業の現場などでは使われることの多い言葉となっています。

事業を運営していく中で、これまでは1つの作業や工程だけを遂行する「単能工」が一般的でしたが、時代が変わってきていることもあり、現代では徐々に多能工化していく動きが活発になってきています。

多能工化が生まれた背景

多能工という考え方は、かつてトヨタ自動車工業(現トヨタ自動車)の副社長だった大野耐一氏によって生み出されたとされています。もともとトヨタ紡織で働いていた大野氏は、紡績の現場では作業員が1人で複数の機械を操作していたのに対して、自動車製造現場では作業員1人が1台の機械しか操作していないことに気づき、これを業務上の課題だと考えたようです。

そこで、自動車の製造作業においても1人の作業員が複数台の機械を使えるようになること、つまり「多能工化」を提案しました。

今では自動車製造業のトップを走るトヨタ自動車ですが、その活躍ぶりには多能工化の導入が少なからず影響をもたらしていることは確かでしょう。多能工化の仕組みが知れ渡るとともに次第に他の業界でもその仕組みが取り入れられるようになりました。そして今では多能工化が人材育成の手法の一つとして当たり前のように語られるようになっています。

なお、人材育成については、以下記事もご参照ください。

多能工化が必要とされる業界

多能工化は主に製造業の現場などで導入を求められてきましたが、時代が変わっていくに連れ、市場ニーズの多様化が進み「多品種少量生産」が求められるようになりました。その結果、製造業以外の業界でも多能工化が必要とされるようになって来ています。

特に、サービス業や流通業などでは多能工化が至上命題といっても過言ではないほど重要になってきており、会社の生き残りのためには柔軟な対応力が求められるようになりました。

例えば、旅館業の「星野リゾート」やスーパーマーケットを展開する「ヤオコー」など、数々の有名企業が多能工化を取り入れて生産性を向上させており、以前にも増して多能工化に対する関心度が高まっています。

多能工化のメリット

年々重要度が高まってきている多能工化ですが、その仕組みにはさまざまなメリットがあります。具体的にどのようなメリットがあるのかここで詳しく解説しておきましょう。

1.業務負荷が均等化する

まず、多能工化で得られるメリットとして一番に挙げられるのは、「社員の担当する業務の負荷が均等になる」ということでしょう。従業員の能力というのは決して一定ではなく、人によってできることと、できないことがあるので、業務によっては特定の従業員にだけ負担がかかってしまうことがあります。

そうなると、残業の量に偏りが生じる、あるいは無駄な人件費が発生するなど、さまざまな問題に直面する可能性が出てくるでしょう。また大事な従業員が離職をするということにもつながりかねません。多能工化を導入することで、それらの問題を防ぎ、効率的に人材を活用できるようになります。

また、もし欠勤などのイレギュラーな事態が生じたとしても、あらゆる業務に精通している従業員がいればそのときいる人材でフォローして業務を進めることができるでしょう。納期の遅れなども生じにくくなるので、クライアントに迷惑をかける心配もありません。業務の属人化を低減するという意味においても多能工化は有効だと言えるかもしれません。

2.組織の柔軟性が向上する

一つのことに特化した企業にもたくさんの良さがあるのは事実ですが、時代が移り変わるにつれて市場の需要が複雑に拡大したことで色々な業務に取り組むような高い柔軟性を備えた企業が増えてきました。

事業の運営を継続して行うというのは非常にハードルが高く、潰れていく企業もたくさんありますが、柔軟性が高い企業はどのような逆境の中でも生き残れる強さがあるのは間違いありません。

多能工化を行って各従業員が複数の仕事をこなせるようになると、会社全体としても時代の変化に合わせて柔軟に変化していくことが可能になります。

時代がどのように動くかを読み当てるのは簡単ではなく、いつ不測の事態が起こってもおかしくはないでしょう。普段から複数の業務に取り組んで従業員をたくましく育てておけば、責任者の不在などの突発的な事態においても、その場にいる人員で臨機応変な対応ができるようになります。

3.チームワークが強化される

多能工化は、組織内のチームワークを強化することにもつながります。従業員が幅広い業務を扱えるようになれば、普段からお互いをフォローする体制が構築されるので、自然な形でチームワークが生まれるでしょう。実践の中でお互いの業務を深く理解することができ、従業員同士の相互理解も深まるので、不満やストレスが生まれるリスクも軽減することができます。

企業の一体感というのは業績を上げるにはなくてはならない要素であり、業務を長く運営していくという意味でもチームワークの強化はどの企業にもいえる課題ではないでしょうか。社内に一体感がないということで悩んでいる場合、多能工化は有効的な改善手段の一つといえるでしょう。

場合によっては不祥事などが原因で従業員や役員が突然いなくなることもあります。そのような事態に陥ると会社は大きなピンチに追い込まれるでしょう。代わりのきかない人材がいなくなってしまえば、その危機も相当なものになってしまいます。

多能工化をして従業員がいろいろな業務を理解できていれば、誰が欠けてもフォローできるうえ、強堅なチームワークも発揮されるので、どれだけ悪い状況もすぐに立て直すことができます。

多能工化のデメリット

ここまで多能工化で得られるメリットをいくつか解説してきましたが、一方でいくつかのデメリットがあるのも事実です。多能工化を進めることでどのようなデメリットが生まれてしまうのかしっかり確認しておきましょう。

1.育成に時間がかかる

多能工化を進めながら従業員を育成していくには、どうしても時間をかけなければなりません。すぐに効果を見出せないのは多能工化のデメリットであるといえるでしょう。複数の業務をマスターしなければならないので、複雑な現場であるほど育成に時間がかかってしまいます。特殊な事業を運営している企業は不利になってしまうかもしれません。

OJTなどの施策を取り入れたりしてできるだけエデュケーションを充実させ、長い目で見て従業員教育に取り組むことが大事になってくるでしょう。

2.評価制度整備の必要がある

多能工化では従業員に多くの業務をこなしてもらわなければならないため、場合によっては従業員のやる気が失われかねません。一人ひとりのモチベーションを維持させるためにいっそう気を配る必要があることを想定しておきましょう。

人事評価制度をきちんと整備して、従業員の貢献力を正当に評価するなどすればモチベーションの低下を防止することができます。評価制度を見直すにはある程度手間がかかってしまうかもしれませんが、多能工化をスムーズに進めるためには避けることはできません。

多能工化に向けての取り組み方

多能工化のメリットとデメリット

多能工化を進めるための取り組み方はさまざまありますが、やり方によっては効率的に導入できない可能性があります。どのように取り組めば多能工化が促進されるのか、一通り確認しておきましょう。

1.業務を洗い出す

まず、自社における重要な業務や優先順位の高い業務などを明確にして、何を多能工化するべきなのかをしっかり決めましょう。多能工化する業務が定まったら、その業務における作業工程を洗い出すことが大事です。さらに、その業務においてどの従業員を多能工として育成するかということも明確に定めておくといいでしょう。

すべての従業員がすべての業務に取り組める状況になるのがベストではありますが、時間もかかってしまううえ、教育する側の負担も大きくなってしまうので、適性度の高さなどを考慮して誰を教育していくか採択していくことをおすすめします。

2.業務を可視化する

業務の洗い出しが済んで多能工に育成する人材が選定できたら、次は対象業務において実際に行われている作業工程・内容を文章や図で表し、マニュアルを作成しましょう。

その際、誰が見ても分かるような明快で詳細なマニュアルにすることが大切です。本来別の業務を担当している従業員を多能工にするとなると、不慣れなこともたくさん出てくるはずなので従業員の立場に立った教育を心掛けなければなりません。

どの従業員でもしっかり理解して業務に活用できるように、表現などは工夫を施したほうがいいでしょう。もしマニュアルに対する従業員の理解が進まないなど、この時点で問題点が見つかれば、教育方法を検討し直したりして改善に取り組むようにしましょう。

3.育成計画を立案・実施する

マニュアルを作成したあとは、従業員育成計画を立案しましょう。効果的なのは現場での実務を通して訓練を行うことです。立案する際は「いつ」「誰が」「誰に」「何を」「どのように」という点をそれぞれはっきり決めることを意識しなければなりません。

計画が完成したら、それに従って従業員教育に取り組みましょう。従業員にとって複数の業務に対する知識を養うのはいろいろな苦労が伴います。

もし従来の業務と並行して教育していくとなれば、それだけかかる負担も大きくなってしまうので体調などはしっかり配慮しなければなりません。あまり無理を強いるとモチベーションが低下してしまうので気をつけましょう。

また、教育がうまくいかないことがあれば別の対策を考えたほうがいいかもしれません。別の人材を配置するなどの対応をとるのであれば、従業員と話し合いをするなどして慎重に進めていきましょう。

4.評価を行い定着させる

従業員教育の実施がスタートしたら、こまめに評価を行うようにしましょう。中間評価を行った結果、従業員の育成が計画どおりに進んでいない部分がある場合は、計画を見直すなど改善に取り組まなければなりません。

多能工化の業務対象が間違っていないか、教育側の人材配置は正しくできているかなど、さまざまな要因を想定しながら改善していくことが大切です。

育成が進んだ後は、マルチスキルの定着化を図りましょう。ただし、多能工として育成した従業員だからといってなんでも押し付けてしまうのは危険です。従業員の不満が溜まって退職するようなことがあっては教育にかけた時間がすべて無駄になってしまうので、常にバランスをきちんととることを心掛けなければなりません。

多能工化を成功させるためのポイント

多能工化は非常に大きな効果が得られる手段ですが、間違ったやり方をしてしまうと本来の効果を得ることができなくなってしまいます。ここで成功させるために大切にしたいポイントを説明するのでしっかり確認しておきましょう。

1.適正な評価・報酬を与える

多能工化は従業員の能力を向上させることができる反面、正しく取り組まないとモチベーションの低下のリスクを招いてしまいます。そのため、従業員を正当に評価し、報酬を適正なものにすることが多能工化の成功には欠かせません。

スムーズに多能工化を進めるためには、従業員がステップアップするごとに昇給などの評価を与えることを意識しておいたほうがいいでしょう。

従業員のモチベーションを高められるように、成果はしっかり讃えて誠意を見せるのはもちろんのこと、報酬制度などに工夫を施すなど努力することが大切です。評価制度はこまめに見直し、実態に即した評価ができるように心掛けましょう。

2.社員が会社に定着するよう心がける

時間と手間をかけて育成した多能工の従業員が、長期間自社で働いてくれるようさまざまな工夫をすることも非常に大きなポイントとなります。

従業員を定着させるために工夫できることとしては、「上司とのコミュニケーションを密にとること」「社内環境の整備」「目標管理制度の導入」など、いろいろなもの挙げられます。複数の業務に精通している従業員は将来のリーダー候補としても欠かせない人材となるので、大切に扱うようにしなければなりません。

多能工化を実現するために必要な情報

多能工化では従業員に多くの業務をこなしてもらわなければならないため、各業務の効率化が必要になります。業務の効率化を実現するために既存の業務を改善・見直しを検討する事も重要です。「業務改善」について詳しく知りたい方は以下資料をご活用ください。

多能工化のメリットを生かすには専門家への相談も効果的

多能工化は、さまざまな業界で効果を発揮する方法ですが、社員育成や評価制度の整備にはある程度の工夫が必要になります。多能工化を検討しているなら、まずは専門家に相談してみるといいかもしれません。

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