経営における労働生産性ですが、その具体的な定義や計算方法はどのようなものなのでしょうか。働き方改革にみられるように、近年の少子高齢化に伴い、一人あたりの労働生産性が益々重視されるようになりました。本記事では労働生産性の概要と種類、世界と比べて見える日本の労働生産性の特徴や労働生産性を向上させる方法などを紹介します。
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目次
労働生産性とは何か
初めに労働生産性の定義と計算方法について解説します。
労働生産性の一般的な定義・計算式
そもそも「生産性」とは、投入した資源に対してどれだけの成果が得られたのかを意味する言葉です。そして「労働生産性」とは、一般的に労働者一人あたり、または時間あたりに得られた成果や生産数量を表します。計算式は次の通りです。
労働生産性= 産出量(アウトプットの量)/労働投入量(インプットの量)
この計算式にみられるように、労働して得られた産出物、労働の成果を労働量で割ったものが労働生産性となります。成果物とは生産された物の数や、成果物の価格のことです。労働量とは労働者数、もしくは労働者数×労働時間をあらわします。労働生産性は労働者一人あたりの業務効率化、スキルアップで向上。または経営効率の改善で向上します。
種類に分ける場合の定義・計算式
労働生産性は2種類に分けて定義することができます。それは物的労働生産性と付加価値労働生産性です。それぞれの定義と計算方法について解説します。
物的労働生産性
物的労働生産性とは、一人の労働者がどれくらいの効率で物やサービスを生産しているのか、もしくは販売しているのかを表す指標です。労働による生産物を「生産量」と「販売金額」においたものであり、単純に労働量に対する売上額を算出したものになります。計算式は以下の通りです。
物的労働生産性=(生産数量または販売金額)/労働量
物的労働生産性は、商品やサービスを対象とした考え方であるため、品質管理や設備投資に関する判断に活用できます。
付加価値労働生産性
付加価値労働生産性とは、企業総生産額のうち原材料や外注費、機械の償却費用など生産に必要な原価を除いた、純粋な付加価値を表すものです。付加価値労働生産性は、一人の労働者がどれだけの付加価値が高い仕事をしているかを示し、利益を最大化させるために役立つ指標となります。計算式は以下のとおりです。
付加価値労働生産性=付加価値(額)/労働量
付加価値額は営業利益から人件費、減価償却費を差し引く計算で求められます。営業利益は粗利から販売管理費や一般管理費を引いた値です。
日本の労働生産性の現状
日本生産性本部がOECDや世界銀行などのデータに基づいて発表している「労働生産性の国際比較(2018年度版)」によると、日本の1時間あたりの労働生産性は47.5ドルで、OECDに加盟する36カ国のうち20位、主要先進7カ国の中では1970年以降連続して最下位という結果が出ています。
また同発表によると、2017年の日本人1人あたりの労働生産性は年間84027ドルで、OECDに加盟する36カ国のうち21位。2017年のGDPで見ると日本はアメリカ・中国に次いで3位であるにもかかわらず労働生産性は低いという現状があり、経済規模の縮小が懸念されています。
1990年の日本の労働生産性はアメリカの約75%にまで迫りましたが、2000年を過ぎたあたりで約70%へ後退し、2010年にさしかかると約60%まで低下しました。日本の生産性をけん引していた製造業の生産性が2000年頃から低下し始めたため、それにつられて全体の生産性も低下したとみられています。
日本の労働生産性が低いことの原因
日本の労働生産性が低いとされている原因が2点あります。一つずつ説明します。
日本独自の人事評価制度
まず挙げられるのが日本の独自の人事評価制度になります。
例えば、日本の多くの企業では時間給や日給など、時間あたりで報酬を出す仕組みを採用しています。昇給やボーナスにおいて業績が考慮されている場合でも、社員の勤続年数などが重視されることが多い特徴があります。
このように長く働くほど報酬が増える形式の人事評価システムにおいては、効率よく働こうという意識が芽生えにくく、結果として生産性がなかなか向上しないと考えられるのです。時間で報酬を換算するのであれば、生活費のためにわざと時間外勤務をする社員もいます。忙しく長く働くことが優秀であり、「働いている」ことをアピールできる日本の風習もあいまって、より生産性が低下しているのです。
さらに2000年前後から非正規雇用が拡大しはじめると、正社員登用制度を設けて契約社員を募る企業が増えました。若い労働者が、長年勤めてきた正社員と同じ業務内容でありかつ、成績も契約社員が優れていた場合であっても、長期に勤めた社員のほうが高給であるといったケースがあります。このような人事評価制度ではモチベーションは上がらず、若い重要な働き手の生産性が低下してしまう一因になるでしょう。
働き方に関する日本独自の慣習
続いて挙げられるのが働き方に関しての日本独自の慣習です。
日本の働き方を世界の国々と比較したときに浮かび上がることは、労働時間が長いことであり、主に残業時間の長さに特徴があります。これは仕事の量が多くて残業時間が長いのではなく、「みんなが残業しているから」という風土や習慣が主な理由になります。そのため残業ありきで1日を過ごすことが多く、定時までに業務を完了させる意識が低くなることも生産性が低くなる一因となるのです。
また、日本企業では社員同士がチームとなって働くことが多く、互いをフォローできるというメリットもありますが、自分の業務に集中できないというデメリットもあり、このことも労働時間の長さにつながっていると考えられます。
会社によっては師弟制度のような教育制度があり、ベテラン社員が新人社員に付き添い育てていくことがあります。これはほとんどの場合、ベテラン社員が自分の仕事をしながら新人社員に業務を教えるという内容ですが、もちろんベテラン社員の稼働に負荷がかかります。
そのため、業務時間内は新人社員の仕事をチェックしたりアドバイスをしたりする時間に割き、業務時間外で自分の仕事を始めることも珍しくはありません。このような会社の習慣も低い生産性に影響しているのではないでしょうか。
中小企業は大企業より生産性が低い傾向にある
中小企業庁の調査によると、中小企業のほうが大企業よりも労働生産性が低い傾向にあることが発表されています。特に製造業や、学術研究、専門・技術サービス業において中小企業と大企業とで労働生産性の格差が大きくなっています。
中小企業庁によれば、中小企業は、1人あたりの労働生産性よりも時間あたりの労働生産性をより意識的に向上させていくことが重要だとされているのです。
生産性を向上させる目的
企業が労働生産性を向上させる目的は何でしょうか。その目的を2点説明します。
人手不足への対応
少子高齢化が進む日本では労働人口が減少しているため、企業での人手不足が深刻になり対策が急務とされています。今後も引き続き人手不足が見込まれる中、限られた労働人数で事業を継続したり拡大したりするためには、労働者一人あたりの労働生産性を上げることが必要となるのです。
高齢者が多くなれば年金の支払いが多くなりますが、徴収される税金が少なくなるため国の財政にも大きな問題が生じてしまいます。
働き方改革の推進
2018年に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が成立し、翌年4月から順次施工されました。そのため企業においても社員の働き方を見直す「働き方改革」の推進が加速、働き方改革においては、社員の長時間労働を是正したり、子育て・介護中でも働けるよう時短勤務などの制度を整備したりすることが求められています。
そうした施策を実現するために、労働生産性の向上は欠かせません。たとえば2019年4月からは、年間5日間の社員の有休取得が義務化されました。
また、残業時間を原則月45時間かつ年間360時間以内に抑えなければならない制度が施工されたこともあり、労働者一人当たりの労働時間を短くしつつも、今まで以上の生産性が求められるようになったのです。
生産性を向上させる方法
労働生産性を向上させる方法を3点説明します。
人事評価制度を見直す
労働生産性を向上させるためには、人事評価制度を見直すことが効果的です。重要なポイントは、全従業員が公平・公正な評価を受けられる制度を構築することになります。年功序列や終身雇用全体の制度を見直し、労働時間にかかわらず社員の生み出した付加価値が正当に評価できるような制度を導入するとよいでしょう。
長時間労働を評価するのではなく、いかに生産性の高い働き方をしたのかが評価される人事制度であれば、社員の働き方に対する意識改革に期待が持てます。
労働時間の削減に努める
労働生産性向上のために欠かせないものが労働時間の短縮です。労働生産性の低い企業は従業員一人あたりの労働時間が長くなりがちであり、会社の財政に負担をかける一因となってしまいます。
労働時間が増えると人件費も増えてしまい、その結果労働生産性が下がる要因になってしまいます。会社の制度による労働時間の短縮は社員の反発を招く可能性がありますが、次第に労働時間を短縮しようと工夫する中で業務の無駄を見つけ、改善策をとるきっかけにもつながります。労働時間の削減に対する具体的な方法ですが、たとえば週または月に1度は定時退社日を設けたり、柔軟なシフト勤務を整備したりすることが効果的です。
また、会社で決めた定時退社日は管理者が積極的に帰宅を促すことで、「帰りづらい雰囲気」を少しでも払しょくできるようになります。さらに、コアな業務の時間帯が夕方以降になりそうな日であれば、出勤時間を後ろにずらし時間外労働を減らすなどの工夫も必要です。柔軟な働き方を会社全体で推奨すれば、よりシフト勤務を活用しやすくなるでしょう。
ITツールを導入する
労働生産性の向上にはITツールの導入が効果的です。ニューヨーク連邦準備銀行によると、アメリカなどで1995年以降に生産性が向上した要因として、IT業界の発達が挙げられます。
IT導入をきっかけとして業務の方法や組織のあり方を見直し、より効率的に業務を遂行する方法を考えることが大切です。ITツールの中でも売上管理や会計、勤怠管理や人事給与などをシステム化した基幹系システムの導入が効果的です。
これらのシステムは業種業態に関わらず必要となる業務を、データの入力や自動帳票出力、各システムの連携によって労働時間の短縮を図る効果があります。社内で同じシステムを扱うことで業務の統一化を図り、仕事の属人化を防ぐメリットがあるなど働き方改革に関連するメリットも期待が持てるでしょう。
ITツールの中にはパソコン上で行う作業をロボットに実行させるRPAと呼ばれるツールもあり、これらは決まったルールで入力を進める単純作業を自動化してくれるものになります。
これらを利用すれば、たとえばエクセルから売上管理ツールなどのシステムに入力する業務をロボットに代行させ、その間に人間のアイディアが必要なこみいった業務を実施することが可能です。そうすれば稼働時間を削減し、生産性を向上できるでしょう。
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AI機能を用いたツールを利用しても稼働削減の効果が見込めます。たとえばAIによるチャットボットと呼ばれる自動問い合わせ応答システムを利用すれば、サイトを閲覧したユーザーが問い合わせる疑問に、AIがオペレーターを代行して答えてくれます。このチャットボットを導入することでコールセンターの稼働が削減でき、コール内容の解析といった生産的な業務に時間を費やせられるのです。
生産性向上に役立つ補助金・助成金
各企業が生産性を向上させることは、日本の社会全体にとってもメリットとなります。そのため政府や地方公共団体は、企業の生産性向上を支援するための補助金・助成金を数多く用意しているのです。
たとえば厚生労働省が中小企業向けに提供している「業務改善助成金」や、一般社団法人サービスデザイン推進協議会がITツール導入コストの一部を補助してくれる「IT導入補助金」などがあります。ITツールを導入するとかえって高くつく、社内における稟議を通しにくいと思う場合は、これらの補助金を確認することをおすすめします。
IT導入補助金の対象となるには、導入補助対象のITツールだけでなく、ツールを提供するシステムインテグレーターの会社も補助対象企業にエントリーする必要があります。導入しようとするITツールが補助対象であるかを確認する場合は、ITツール自体が補助対象に入っているかだけでなく、提供する会社が補助対象であるかもあわせて確認するとよいでしょう。
自社に合った方法で労働生産性を上げよう
人手が不足している中で社員の働き方改革を進めなければならない状況では、労働生産性の向上は急務です。人事評価制度の見直しや労働時間の短縮も効果的ですが、有効な手段の1つにITツールの導入があります。自社に適したITツールを導入するためには、経験豊富な専門家に相談するのが近道です。
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