[小冊子03:海外赴任と外国人雇用]
【はじめに】
今回は、のれんの償却などについてお話をします。
【のれんの償却-日本基準の処理】
本シリーズその8回で使った事例でご説明しましょう。
純資産10,000,000円の会社を将来の収益性を見込んで35,000,000円で買収して、子会社としたケースです。
必要な連結修正仕訳は下記のとおりとなりました。
(借)資本金 10,000,000円 (貸)子会社株式 10,000,000円
(借)のれん 25,000,000円 (貸)子会社株式 25,000,000円
このうち、のれん25,000,000円について、日本の会計基準(企業結合会計基準第32 項)では、20 年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却する旨が定められています。
“20年以内のその効果の及ぶ期間”とは、買収コストについて回収が終わる期間だと思ってください。監査法人または公認会計士の監査が入っている会社では監査人との協議で決まります。
たとえば、8年で償却するとした場合は、
(借)のれん償却 3,125,000円 (貸)のれん 3,125,000円
となります。
なお、のれんも減損会計の適用を受けることに留意が必要です。具体的には固定資産の減損に係る会計基準に従って処理をします。
【応用編:負ののれんとは?】
親会社が子会社を買収し、純資産10,000,000円の会社を9,000,000円で買収した場合、どのような会計処理をすればいいのでしょうか。
結論から申し上げると下記の連結修正仕訳をすることとなります。
(借)資本金 10,000,000円 (貸)子会社株式 10,000,000円
(借)子会社株式 1,000,000円 (貸)負ののれん 1,000,000円
(借)負ののれん 1,000,000円 (貸)負ののれん発生益 1,000,000円
なお、負ののれん発生益は連結損益計算書の特別損益の区分で表示されます。
マイナスののれんが発生した場合は、丸々利益となるのが不思議かもしれませんが、現状の日本の会計基準ではこのような取り扱いとなります(企業結合会計基準第33項(2))。
なお、昔は20年以内の取得の実態に基づいた適切な期間、規則的に償却する旨を定めていました。
【国際財務報告基準(IFRS)におけるのれんの処理】
IFRSにおいては、のれんの償却が求められていません。このため、上記の事例では、のれん25,000,000円が連結貸借対照表に計上されたままとなります。
この点、日本の会計基準と異なる取り扱いをしています。
たとえば、IFRSを適用している日本の上場企業が、上記の事例による買収(純資産10,000,000円の会社を将来の収益性を見込んで35,000,000円で買収)をした場合、費用負担はゼロとなります(これに対して日本の会計基準を適用している日本の上場企業であれば、8年の償却とした場合、年間 3,125,000円の費用が発生する)。
アメリカなど諸外国ではM&Aが盛んで多額ののれんが計上されているといわれています。彼らからすると、日本の会計基準のようにのれんの償却を求められる会計処理は好ましくないのではないでしょうか。
【IFRSでも減損会計が適用される】
しかし、世の中そう甘くはありません。IFRSでものれんに対して減損会計が適用されます。
たとえば、買収後、子会社の業績が悪く、毎期赤字だったとしましょう。その場合は、のれん25,000,000円が子会社の収益で回収できない可能性が高まりますますので、連結財務諸表では25,000,000円の費用の計上(減損損失の計上)を迫られることが考えられます。
なお、のれんの減損については減損の戻入れ規定が適用されません。
シンガポールの監査人の仕事ぶりを見ていると、減損会計の適用については注意しているようです。損失が発生する可能性が高い事項と考えているのでしょう。
なお、日本でも減損会計が適用されますが、毎期償却が進んでいきますので、減損損失計上額が少額になる傾向があります。
【のれんに関する本ブログの記事】
・(のれんの会計)買収時に計上されるのれんの減損。買収の責任をとらされることも。買収時の企業評価を安易に考えないようにしましょう。
・監査で揉める事項は?(不正な財務報告及び監査の過程における被監査会社との意見の相違に関する実態調査報告書より)
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