前回取り上げた資産除去債務の仕訳例の解説をしていきます。
前回ブログ
>>資産除去債務 その1 定義と仕訳例 Provisions for clean-up costs Part.1
資産除去費用の割引計算が必要
前回の仕訳例、設備Aの取得と関連する資産除去債務の計上・・・①では、設備を除去する費用を1,000と見積もっているにもかかわらず、仕訳上は863という金額になっています。
これは、会計基準によって、有形肯定資産の除去に要する割引前キャッシュ・フローを見積り、割引後の金額、すなわち、割引価値で算定し、負債に計上することが求められているためです(資産除去債務に関する会計基準 第6号)。
割引計算をするとは、ファイナンス理論の考えによるもので、将来の1,000について、現在の価値はいくらかということを割り出す計算をいいます。
イメージですが、皆様が銀行に預金をしたら、時間がたつにつれて利息がついてきます。このため、5年後に利息込みで1,000となるには、現在いくら預けたらよいのかという思考が、割引計算の考え方と似ています。863→888→915→943→971→1,000というように、毎年3%の利息がつけば1,000となりますので、この逆をたどれば良いのです。
ちなみに、現在の日本は利子率が低いので、割引計算をしても割引前とあまり変わらない金額になる可能性が高いです。また、利子率がマイナスになると割引計算後の値のほうが大きくなってしまいますので、貸借対照表の負債が大きくなることになります。
仕訳は下記のとおりでした。
(借)有形固定資産(設備A) 10,863 | (貸)現金預金 10,000 |
(貸)資産除去債務(*1) 863 |
仕訳例の割引率は3%ですので、1,000→971→943→915→888→863となりますので、割引後の金額は863となり、資産除去債務勘定の金額は863となります。
また、863は将来有形固定資産を除去するときの費用ですので、減価償却を通じて徐々に費用としていくために、有形固定資産の帳簿価額に加えます。
時の経過による資産除去債務の増加
前回の仕訳例、時の経過による資産除去債務の増加・・・②などでは、毎年利息費用を増額させるとともに、資産除去債務の残高を増額させています。これは、時の経過とともに割引後の金額が大きくなっていく(割引計算の期間が短くなればなるほど割引前と割引後の金額のズレが小さくなる)ことを意味しています。
いいかえると、先ほどの銀行に預金する例では、預金期間が長ければ長いほど利息の金額が大きくなるし、短ければあまり利息がつかないのと同じイメージです。
②の仕訳は下記のとおりでした。
(借)費用(利息費用) 26 | (貸)資産除去債務(*2) 26 |
863→888→915→943→971→1,000の888から863を差し引いた金額が26となります(小数点切捨ての影響で1円ずれますが、考え方を理解していただければ思います)
設備Aと資産計上した除去費用の減価償却
設備Aと資産計上した除去費用の減価償却・・・③では、いわゆる減価償却費の計上がされています。今回の除去費用も含めて固定資産に関する付随費用は固定資産の取得原価に加えて、減価償却を通じて費用とすることが会計の原理原則となっています。これは、日本でも国際財務報告基準などの諸外国の会計基準でも同様です。
固定資産は収益を上げるために使用しており、時の経過や利用度合いによって、通常固定資産の価値が減少します。減価償却は、企業の業績測定の観点から、固定資産の利用にともなって生じる費用と将来の収益とを対応させるために、固定資産を利用する期間にわたって費用配分する手続きです。減価償却の対象となる固定資産については、必ず減価償却をすることとされています。
③の仕訳は下記のとおりでした。
(借)費用(減価償却費)(*3) 2,173 | (貸)減価償却累計額 2,173 |
設備Aの減価償却費10,000/5 年+除去費用資産計上額863/5 年=2,173という計算となります。
設備(資産)の除去及び資産除去債務の履行
設備(資産)の除去時に、いままで計上してきた資産除去債務を借方に記帳することで資産除去債務勘定を精算することとなります。
しかし、資産除去債務は、有形固定資産購入時に将来の除去費用を見積計算したに過ぎないものですので、見積り金額と実際にかかった除去費用にずれが生じるケースが多いかと思います。説例では、費用(履行差額)という名称をつかっていますが、実務上は減価償却費と同じ区分の販売費及び一般管理費に属する科目で処理していただければ大丈夫でしょう。
設備Aの除去及び資産除去債務の履行
⑫の仕訳を前回に続き記載させていただきます。
(借)減価償却累計額 10,863 | (貸)有形固定資産(設備A) 10,863 |
(借)資産除去債務 1,000 | (貸)現金預金 1,050 |
(借)費用(履行差額)50 |
勘定科目の使い方
前回及び今回の説例で使われている「費用(利息費用)」や「費用(履行差額)」は、一律には定めていません。これは、各企業のおかれている状況によって勘定科目名が異なってくる可能性があることから、あえて具体的な名称を明示していないためです。このため具体的な勘定科目名については、会計基準に定めた事項の範囲内で各企業の判断において科目を設定することとなります。
私見ですが、なぜこのような勘定科目の例示になったかというと、資産除去債務に関する会計基準は、おそらく米国会計基準をまねしたことによるためと思っています。日本以外の国の中には、決算書の表示科目や勘定科目について細かい定めをしない国も多いことから、米国会計基準では細かい科目の設定がなかったのではないでしょうか。
資産除去債務シリーズブログ
>>資産除去債務 その1 定義と仕訳例 Provisions for clean-up costs Part.1
>>資産除去債務 その2 仕訳例の解説 Provisions for clean-up costs Part.2
>>資産除去債務 その3 賃借建物に係る原状回復費用の処理 Provision for clean-up cost Part 3
>>資産除去債務 その4 割引率の決定方法 Provision for clean-up cost Part 4
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