[小冊子03:海外赴任と外国人雇用]
【はじめに】
前回に続き、繰延税金資産の回収可能性についてお話しをします。今回はシンガポール(国際財務報告基準)の判断についてです。
【シンガポール(国際財務報告基準)の繰延税金資産の回収可能性の判断】
シンガポールの会計基準や国際財務報告基準では、将来減算一時差異を利用できる課税所得が生ずる可能性が高ければ、繰延税金資産を認識する旨が記載されています(シンガポール会計基準12 第24項)
具体的には、前回までの事例で取り上げた賞与引当金、退職給付引当金、役員退職慰労引当金にかかる税効果会計適用により将来の減額できる税金費用(これを将来減算一時差異と呼びます)について、課税所得が将来発生すると見込めるのであれば、繰延税金資産として計上しなさいという内容となっています。
日本のように過去の儲かり具合をベースにした分類1から分類5という区分はせず、将来も儲かるかどうかを検討し、賞与引当金、退職給付引当金、役員退職慰労引当金にかかる税金費用ごとに回収可能性を判断することとなります。
また、日本と異なり、退職給付引当金、役員退職慰労引当金ついては、検討における具体的な判断基準が会計基準等において明記されていません。このため、従業員や役員がいつ退職するのかを一人一人検討するのが原則的な会計処理の仕方となります。
【シンガポール及び国際財務報告基準に従った繰延税金資産の回収可能性の判断の例】
繰延税金資産の回収可能性の連載「その1」で扱った仕訳例に基づいて、シンガポール及び国際財務報告基準に従った回収可能性の判断の例をご説明します。
引当金の計上を初めて行った場合を事例として、引当金計上の仕訳と税効果会計適用の仕訳を記載しました。
なお、これは筆者によるシミュレーションに過ぎず、実際は将来の課税所得についての判断や様々な事項を考慮して決定されます。この点ご留意ください。
※以下、実効税率を30%と仮定します。
(単位:円)
《引当金計上の仕訳》
①(借)賞与引当金繰入額(P/L) 100,000,000 (貸)賞与引当金(B/S) 100,000,000
②(借)退職給付費用(P/L) 200,000,000 (貸)退職給付引当金(B/S) 200,000,000
③(借)役員退職慰労引当金繰入額 50,000,000 (貸)役員退職慰労引当金(B/S) 50,000,000
《今後の業績が良好、かつ、スケジューリングも可能な場合》
まず、将来ずっと会社の儲かり具合がとても良いうえに、すべての従業員の退職予定時期や役員の退職予定時期が合理的に見込める場合の結果です。
①(借)繰延税金資産(B/S) 30,000,000 (貸)法人税等調整額(P/L) 30,000,000
②(借)繰延税金資産(B/S) 60,000,000 (貸)法人税等調整額(P/L) 30,000,000
③(借)繰延税金資産(B/S) 15,000,000. (貸)法人税等調整額(P/L) 30,000,000
この場合、利益の減少額は245,000,000円となります。
《もし将来ずっと会社が儲からず税務上の欠損金が発生すると見込まれるとすると》
次に将来の先行きがまったくダメな場合の例です。
①(借)繰延税金資産(B/S) 0. (貸)法人税等調整額(P/L) 0
→賞与を翌期に支給するとしても、翌期の課税所得が不十分なため回収可能性はない
②(借)繰延税金資産(B/S) 0. (貸)法人税等調整額(P/L) 0
→翌期以降の課税所得が不十分なために回収か納税がないと判断された場合
③(借)繰延税金資産(B/S) 0. (貸)法人税等調整額(P/L) 0
→翌期以降の課税所得が不十分なために回収可能性がないと判断された場合
この場合、利益の減少額は350,000,000円となります。
《来年と再来年の儲かり具合は予想でき、取締役会で利益計画が意思決定されているものの、その後は業界の規制が強化されるなど、経営環境が大きく変わると予想される場合》
最後に、しばらくの儲かり具合は予想できるが、中長期的には不透明な要因が明らかに存在する場合です。
①(借)繰延税金資産(B/S)30,000,000 (貸)法人税等調整額(P/L)30,000,000
→翌期の課税所得が十分で、かつ、支給が確実であることから、回収可能性があると判断。
②(借)繰延税金資産(B/S) 1,800,000 (貸)法人税等調整額(P/L) 1,800,000
→翌年と翌々年に定年を迎える従業員が全従業員の2%、また、来期退職すると意思表示している従業員が1%いる場合で、翌期と翌々期の課税所得が十分なために回収可能性があると判断
③(借)繰延税金資産(B/S) 0. (貸)法人税等調整額(P/L) 0
→役員につき定年制が定められているものの、過去そのとおりに役員が退職しておらず、いつ退職するかがわからない状況であり、翌期と翌々期の課税所得が十分であっても、回収可能性がないと判断
この場合、利益の減少額は318,200,000円となります。
【次回】
次回も引き続き繰延税金資産の回収可能性についてお話をします。
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