[小冊子03:海外赴任と外国人雇用]
【はじめに】
今回は、日本で「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」が公表されたので、今後話題になりそうな繰延税金資産の回収可能性について簡単に説明します。
複数回にわたります。今回は第1回目です。
【税効果会計とは】
過去の本ブログで税効果会計を取り上げており、その中では税効果会計とは、
“損益計算書の法人税等の金額について、法人税法等の各種税法のルールで計算されているものを、会計基準に従って計算された金額に修正するための会計処理”
と説明しました。
いろいろな解説があるかと思われますが、ポイントは会計基準による税金費用の金額と、税法による税金費用の金額にズレが生じており、ズレを解消させるために税効果会計という会計基準が適用されます。
詳細は、下記のリンクをご覧ください。
【繰延税金資産の回収可能性とは?】
税効果会計を適用した場合の仕訳を示しながらご説明しましょう。
例えば、賞与引当金を1億円計上、退職給付引当金を2億円計上、役員退職慰労引当金を5千万円計上するとします。
(以下、単位:円)
《引当金計上の仕訳》
(借)賞与引当金繰入額(P/L) 100,000,000 (貸)賞与引当金(B/S) 100,000,000
(借)退職給付費用(P/L) 200,000,000 (貸)退職給付引当金(B/S) 200,000,000
(借)役員退職慰労引当金繰入額 50,000,000 (貸)役員退職慰労引当金(B/S) 50,000,000
《税効果会計適用の仕訳。実効税率を30%と仮定する》
(借)繰延税金資産(B/S) 30,000.000 (貸)法人税等調整額(P/L) 30,000.000
(借)繰延税金資産(B/S) 60,000.000 (貸)法人税等調整額(P/L) 60,000.000
(借)繰延税金資産(B/S) 15,000,000 (貸)法人税等調整額(P/L) 15,000,000
引当金の計上を初めて行った場合、その年の損益計算書の利益を350,000,000円減少させてしまいます。
しかし、税効果会計を適用すると、105,000,000円損益計算書の利益を増加させますので、トータルでは245,000,000円の利益減少で済むこととなります。
経営者から見た場合、350,000,000円減少より245,000,000円の利益減少で済むのであれば、当然税効果会計を適用して、利益の減少幅を少なくしたいと思います。
しかし、これには条件があり、その会社が将来も引き続き儲かる見込み(法人税の課税所得が発生すると見込まれること)が求められるのです。
繰延税金資産の回収可能性とは、税効果会計の適用に当たって、その会社が将来も引き続き儲かる見込みを予測しながら、上記の引当金計上の仕訳一本一本について、繰延税金資産を計上していいかどうかを判断する作業をいいます。
【繰延税金資産の回収可能性の検討は難しい作業】
日本のように実効税率(利益に課される税率)が高い国で、かつ、賞与引当金等の人件費関連の税効果会計の適用が多い国では、繰延税金資産の回収可能性の判断により、決算書の当期純利益の金額が大きく変わってしまうことがあります。
このため、上場会社や監査法人の監査を受けている会社では、企業と監査法人との間で繰延税金資産の回収可能性の判断について、争いとなるケースが多いのです。
特に、業績が悪くなっている企業や金融機関のように一定の自己資本比率が求められている場合は、繰延税金資産の回収可能性の判断によって、当期純利益の金額や自己資本比率に大きな影響が出ます。
私の経験でも、日本において繰延税金資産の回収可能性の判断について、争いとなるケースが多数ありました。しかし、シンガポールでは税率が17%と低く、かつ、人件費に係る引当金が多くないせいか、争いになっているケースを日本ほど見かけません。
【次回】
次回は、繰延税金資産の回収可能性の判断について、日本とシンガポール(国際財務報告基準IFRS)で、どのように違うかを説明します。
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