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短期滞在者免税とは?

記事作成日2017/06/02 最終更新日2017/06/13

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はじめに

今回は短期滞在者免税についてお話をします。

給与所得の課税原則→労働サービスを提供している国で課税される

例えば、日本の親会社の従業員がシンガポール子会社へ3年を目処に出向することになったとしましょう。この場合、日本の所得税法の扱い上、従業員は出国日の翌日から日本の非居住者となります。このため、この給与は国外源泉所得と扱われ課税されません。

これに対し、シンガポールの所得税法では、シンガポール子会社に勤務していることによって得られる給与所得とみなして課税されます。これらは、“その従業員が労働サービスを提供している国で課税する”という国際課税の原則に基づいて決められています。

出張者はどうか?

では、日本の親会社の従業員がシンガポールへ出張した場合はどうでしょうか?日本の会社の従業員は、日本に居住していることから、給与について所得税が課税されます。

これに対して、シンガポールにおいては、シンガポールの所得税法上、61日以上シンガポールで働いている(入国している)と、シンガポールでも所得税が課せられます。これは、出張者が労働サービスをシンガポールで提供しているという国際課税の原則に基づいて定められています。

しかし、出張に行った程度で他国でも所得税が課税されるとなると、国を超えた経済活動が妨げられてしまいます。このため、一定の条件を満たした場合、シンガポールでの課税を免除するというルールが租税条約で定められています。これを、短期滞在者免税と呼びます。

短期滞在者免税の要件

日本とシンガポールとの租税条約では、以下のように定められています。なお、括弧書きは、上記の出張者の例を記載しています。

  1. 報酬の受領者(出向者)が継続するいかなる12箇月の期間においても合計183日を越えない期間当該他方の締結国内(シンガポール)に滞在すること
  2. 報酬が当該他方の締結国の居住者でない雇用者又はこれに代わる者(日本の親会社)から支払われるものであること
  3. 報酬が雇用者の当該他方の締結国内に有する恒久的施設又は固定的施設(シンガポール子会社)によって負担されるものでないこと

1の“継続するいかなる12箇月の期間”という表現の意図は、シンガポールの滞在が所得税の課税期間の期末である12月末を跨いだとしても、183日の計算上、滞在日数を合算して計算することにあります。例えば、12月5日から3月31日まで出張に行っていたら、合計117日間という計算結果となります。

3の報酬の負担については、たとえ日本法人から従業員に給与を支払っているとしても、その後、日本法人からシンガポール法人へ給与を付け替えた(シンガポール法人の会計帳簿に給与を記載した)場合は、短期滞在者免税は適用できないこととなります。このため、現地法人等がある国へ出張に行った場合は注意が必要です。

Q&A

(Q1)

私は日本親会社の専務取締役をしています。私も上記の短期滞在者免税が適用できるのですか?

(A1)

上記の説明は、雇用契約によって雇われている従業員を対象としています。日本及びシンガポールの税法では、役員報酬について、役員が法人の所在地国以外で勤務したとしても、その法人がある国で課税されます。このため、短期滞在者免税の問題は生じません。

(Q2)

私は日本親会社の執行役員をしています。この場合、短期滞在者免税が適用できますか?

(A2)

できます。日本の会社法の執行役員は雇用契約により雇われている重要な使用人と扱われているため、委任契約により役員に就任している取締役と異なり、一般の従業員としての扱いとなります。

なお、通常、シンガポールの就労ビザの取得の観点から、日本の執行役員としての給与と、シンガポール法人に勤務することによる給与が別々に計算されると思われます。

日本、シンガポール両国の課税は、それぞれの給与ごとに検討する必要があります。詳細はTOMA税理士法人までお問い合わせください。