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㈱東芝の決算で話題となった継続企業の前提とは What is an Entity’s Ability to Continue as a Going Concern?

記事作成日2017/04/28 最終更新日2017/05/09

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はじめに

今回は、監査法人が㈱東芝の第3四半期レビュー報告書で話題となった、継続企業の前提の注記について説明をします。

継続企業の前提の注記とは?・・・企業の存続に関して重要な不確実性が残っていることを示す注記

経営者は会計基準に従って決算書を作成する必要があります。決算書の作成ルールである会計基準は企業が継続することを前提として作られています。しかし、企業は様々なリスクにさらされていますので、将来にわたって経営を継続できるかどうかわかりません。

このため、経営者が作成した決算書は、会計基準が継続する企業を前提として作成されたものであっても、その企業が将来にわたって事業活動を継続することを保証されているわけではありません。

そこで、経営者は、決算書の作成に当たり、自らの企業が継続していくことを前提でよいかどうかを評価することが開示のルールで求められています。

もし、決算日において、その企業に重要な不確実性がある場合には、経営者は、継続企業の前提に関する事項を財務諸表に注記することが必要となります。この注記を、継続企業の前提の注記と呼びます。

一般的には、継続企業の前提の注記がついた決算書を公表した企業は、倒産予備軍として認識される傾向があります。

実務では?

監査法人や公認会計士による監査を受けている企業では、監査人より継続企業の前提の注記をつけるべきかどうかの指導が行われます。このため、㈱東芝のような上場企業では継続企業の前提の注記をつけた決算書が発表されることがあります。

しかし、日本の多くの企業では、監査法人や公認会計士による監査義務がない為、経営者にとって不利となる継続企業の前提の注記がついている決算書を見ることはないでしょう。なお、米国会計基準や国際財務報告基準でも同様の制度があります。

Q&A

(Q1)

私は信用金庫に勤務しており、融資先の決算書を見て企業の格付けをしています。非上場会社の決算書では継続企業の前提の注記がつくことがまずないのですが、継続企業の前提が危ぶまれる状況を見抜く方法はありますか?

(A1)

継続企業の前提を検討するにあたり、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる事業または状況の例が、会計監査の実務指針で公表されています。その例を挙げますので、これを参考に見抜いてください。融資先が下記の項目に一つないし複数該当したら、警戒をしたほうがよいかもしれません。

<財務指標関係>

・ 売上高の著しい減少
・ 継続的な営業損失の発生又は営業キャッシュ・フローのマイナス
・ 重要な営業損失、経常損失又は当期純損失の計上
・ 重要なマイナスの営業キャッシュ・フローの計上
・ 債務超過

<財務活動関係>

・ 営業債務の返済の困難性
・ 借入金の返済条項の不履行又は履行の困難性
・ 社債等の償還の困難性
・ 新たな資金調達の困難性
・ 債務免除の要請
・ 売却を予定している重要な資産の処分の困難性
・ 配当優先株式に対する配当の遅延又は中止

<営業活動関係>

・ 主要な仕入先からの与信又は取引継続の拒絶
・ 重要な市場又は得意先の喪失
・ 事業活動に不可欠な重要な権利の失効
・ 事業活動に不可欠な人材の流出
・ 事業活動に不可欠な重要な資産の毀損、喪失又は処分
・ 法令に基づく重要な事業の制約

<その他>

・ 巨額な損害賠償金の負担の可能性
・ ブランド・イメージの著しい悪化

(Q2)

継続企業の前提の注記がついた決算書を公表した企業は必ず倒産しますか?

(A2)

倒産するとは限りません。何年も継続企業の前提の注記がついたまま存続する会社もあります。

なお、財務状態等が改善した企業は、継続企業の前提の注記が外れることもあります。また、継続企業の前提の注記がついたことが無い企業でも、突然倒産することもありえます。

(Q3)

私は、有価証券報告書を見ながら、株式投資をしているものです。有価証券報告書の決算書の数値が記載されている前のページに【事業等のリスク】などに、企業の継続性に関してリスクがある記載がありました。これは、いわゆる継続企業の前提の注記と異なるものでしょうか?

(A3)

はい、異なります。【事業等のリスク】や【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】など、継続企業の前提に関する注記を開示するまでの状況には至らないが、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる事象又は状況が存在する場合に記載がされます。

継続企業の前提の注記は、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる事象又は状況が存在し、かつ、その事象や状況を解消又は改善する対応をとったとしても、なお、重要な不確実性が認められる場合に注記されます。

例をあげると、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる事象又は状況(借入金の返済条項の不履行)があったとしても、銀行から返済の期限を延ばしますなどの文書を入手できれば、継続企業の前提の注記をつける必要性は乏しくなります。