【はじめに】
前回に続き、マイナス金利が退職給付引当金へ与える影響についてお話しをします。
【割引率は必ず毎期期末ごとに変更するとは限らない】
割引率は計算の基礎となる数値ですが、日本の会計基準においては、割引率等の計算基礎に重要な変動が生じていない場合には、これを見直さないことができる旨を定めています(企業会計基準第26 号退職給付に関する会計基準 注解8)。
また、具体的には、前期末に用いた割引率により算定した場合の退職給付債務と比較して、期末の割引率により計算した退職給付債務が10%以上変動すると推定されるときには、退職給付債務を再計算する旨がさだめられています(同適用指針第30項)。
このため、マイナス金利になったからといって直ちに影響を受けるともいえないのです。
【国際財務報告基準(IFRS)ではどうか?】
IFRSでも退職給付引当金の基本的な計算方法は同じです(細かい箇所については結構異なるが、割引計算をする点、退職給付債務と年金資産をセットにして計算する点などは同じ)。
なお、先ほど日本基準の説明で記載しました“割引率等の計算基礎に重要な変動が生じていない場合には、これを見直さないことができる旨”の規定は国際財務報告基準ではありませんのでご注意ください(国際財務報告基準では、数理計算上の差異の償却についていわゆる回廊アプローチを導入しているため、割引率を変更したからといって必ず退職給付引当金の金額に影響が出るとは限りませんが)
しかし、退職給付引当金は確定給付制度(会社が従業員の退職時にあらかじめ決まった金額を支払う制度)を採用し、会社が債務を負う場合に計上します。このため、確定拠出制度(会社が従業員に対して、退職金の元となる運用資産の掛金を支払う制度)を採用している場合には、会社は債務を負わないので退職給付引当金を計上する必要がありません。
日本の企業は、日本の独特の雇用環境(終身雇用)や昭和の高度成長期の名残(成長中は資金不足のため退職金の充実で従業員のモチベーションを高めた)から、退職給付制度を採用し、かつ、高額な退職金を用意していましたが、諸外国が同じような文化かというと微妙です。
このため、ヨーロッパ諸国を中心にマイナス金利政策の適用事例がありますが、日本のように決算書に及ぼす影響を危惧している国はあまりないかもしれません。この点は筆者の宿題とさせていただきたいと思います。
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