東芝の監査で話題となった、監査法人が監査報告書に記載する監査意見の種類と内容、及び英語での表現をご説明します。
目次
監査意見とは?
監査法人もしくは公認会計士は、企業から決算書の監査を依頼された場合、監査結果に関する意見を表明することで役割を果たすこととなります。
企業は、自らの業績を良く見せたいため、売上を水増したり、損失の計上を先送りするなどして、虚偽の決算書を作成することがあります。このため、日本の金融商品取引法や会社法などで、適切な決算書の作成を担保するため、一定規模の会社について企業に監査を受ける義務を課しているのです。
諸外国でも監査制度がある
筆者が働いているシンガポールをはじめ、諸外国でも監査制度が導入されている国や地域がほどんどで、これから記載する監査意見の種類なども同じ内容となっていると理解していただいてかまいません。
その理由は、国際監査基準という基準があり、諸外国の監査制度も国際監査基準に影響を受けているためです。このため、法律や税務とことなり、監査の手法や監査意見については、国や地域によって大きな違いはありません。
なお、監査義務のある会社の規模は、各国で相違があります。日本は上場会社や資本金が5億以上の会社等にのみ監査義務が課せられており、シンガポールに比べると監査義務のある会社はとても少ない状況です。また、シンガポールでは法人税の申告などのときに監査報告書の添付も求められます。
私見ですが、日本は会計や監査については後進国のように思います。
監査意見の種類
監査意見の種類は以下の4つからなります。
無限定適正意見(Unqualified Opinion)
限定付適正意見(Qualified Opinion)
不適正意見(Adverse Opinion)
意見不表明(Disclaimer of Opinion)
無限定適正意見(Unqualified Opinion)とは
日本の監査の基準では、無限定適正意見を以下のように説明しています。
「経営者の作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示している。」
簡単に言うと、“決算書はおおむね正しい”という内容です。監査意見のほどんどが、この無限定適正意見となります。
英語では、Unqualified Opinionと呼びます。ここでの、Unqualifiedとは、下記の限定付適正意見(Qualified Opinion)の言葉の先頭にUnを追加した言葉で、適正意見に制限や条件がないという意味で用いられています。
限定付適正意見(Qualified Opinion)とは
日本の監査の基準では、限定付適正意見を以下のように説明しています。
「経営者が採用した会計方針の選択及びその適用方法、財務諸表の表示方法に関して不適切なものがあり、その影響が無限定適正意見を表明することができない程度に重要ではあるものの、財務諸表を全体として虚偽の表示に当たるとするほどではないと判断したときには、除外事項を付した限定付適正意見を表明しなければならない。」
「監査人は、重要な監査手続を実施できなかったことにより、無限定適正意見を表明することができない場合において、その影響が財務諸表全体に対する意見表明ができないほどではないと判断したときには、除外事項を付した限定付適正意見を表明しなければならない。」
簡単に言うと、“一部おかしなところ”や“一部監査ができなかった”箇所があるものの、決算書全体からみるとあまり問題ではないので、“決算書はおおむね正しい”という内容です。ただし、“一部おかしなところ”や“一部監査ができなかった”旨やその影響を監査報告書に記載します。
上記の無限定適正意見とともに、決算書が信頼できるものであると監査法人が確信したことを意味します。決算書の利用者は、安心して決算書を利用できることとなります。
不適正意見(Adverse Opinion)とは
日本の監査の基準では、不適正意見を以下のように説明しています。
「経営者が採用した会計方針の選択及びその適用方法、財務諸表の表示方法に関して不適切なものがあり、その影響が財務諸表全体として虚偽の表示に当たるとするほどに重要であると判断した場合には、財務諸表が不適正である旨の意見を表明しなければならない。」
簡単に言うと、“おかしなところ”があり、決算書全体からみても決算書が正しいとはいえないので、“決算書は間違いだ”という内容です。
監査報告書には、決算書が正しくない理由を記載します。
企業は、無限定適正意見や限定付適正意見を得ることを望んであり、監査人も間違っている箇所を事前に説明して修正を求めることで、無限定適正意見を表明するように努めています。このため、筆者は、監査法人や公認会計士が、不適正意見を表明しているケースを見たことがありません。
企業は監査人に事前におかしなところや会計処理に困る箇所を相談し、監査人に確認してもらうことで、適正な決算書を作成することに努めています。
また、日本の上場企業では、正しい決算書を作成できるような体制を整備・運用する内部統制(J-SOX)を構築することが義務化されています。
意見不表明(Disclaimer of opinion)とは
日本の監査の基準では、意見不表明を以下のように説明しています。
「監査人は、重要な監査手続を実施できなかったことにより、財務諸表全体に対する意見表明のための基礎を得ることができなかったときには、意見を表明してはならない。」
この場合には、その旨とその理由が監査報告書に記載されます。
東芝の監査において、監査法人が意見不表明を表明し話題となっています。これは、証券取引所が定める上場の条件に抵触するためです。
“重要な監査手続が実施できなかった”の例として、天災などで資料が紛失した、企業が監査人に非協力的で監査が実施できなかった、企業が民事再生法を申請し企業の存続が不確実となり、かつ、経営者が今後の対応策を示せない場合が考えられます。
意見不表明の事例はまったく無いわけではありません。実は筆者は、意見不表明の監査に携わったことがあります。
しかし、企業は意見不表明の監査報告書を得ることを望んでいないので、通常、監査人の交代が予想されますし、また、そのようなことにならないように企業も監査に協力します。
Q&A
(Q1)
監査報告書の原本はどこで確認できますか?
(A1)
企業の経理部などで、対象となる決算書に綴じられて保管されています。企業の方に原本をみせてもらうこととなります。
監査報告書の写しなどは、金融庁が管轄しているEDINETや企業より入手してみることができます。
なお、監査法人が依頼人である企業以外の第三者に監査報告書を渡したり、あるいは開示することは想定されていません。
(Q2)
東芝のニュースを見ると、監査法人に説明責任があるという論調をみます。監査法人は説明責任がありますか?
(A2)
監査人の説明責任は、監査報告書に監査の結果等を記載することで果たされています。
東芝は上場会社ですので、金融庁が管轄しているEDINETや東芝のウェブサイトで監査報告書の写しなどを見ることができます。
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