クレドを導入する企業は増加していますが、そもそもクレドとはどういったものか、どのように社員の意識を変えるのか、この記事では基本的な点を解説していきます。この記事がクレドについて皆様の理解が深まる一助になれば幸いです。
目次
クレドの意味と役割とは?ビジネス史に残る有名企業の事例を紹介
そもそもクレドとは何なのか?まずはそこから解説します。
クレド=Credoは「信条」や「約束」といった意味を持つラテン語です。企業においては、業務を遂行する中で、社員一人ひとりが判断を下す上での行動指針となる内容をまとめたものです。または近年増加している、内容をまとめたクレドカード型のツールを指すこともあります。
ジョンソン・エンド・ジョンソンの例
企業運営に初めてクレドが導入されたのは1943年。米国の大手医薬・医療品メーカーである「ジョンソン・エンド・ジョンソン」と言われています。
『我々の第一の責任は、我々の製品およびサービスを使用してくれる患者、医師、看護師、そして母親、父親をはじめとする、すべての顧客に対するものであると確信する。』
出典:ジョンソン・エンド・ジョンソンHPより抜粋
この一文から始まる「我が信条」は、1982年に発生した「タイレノール事件」で社員の支え、行動指針となり、大きな成果をもたらします。事件の概要は以下の通りです。
ある日、頭痛薬である「タイレノール」を服用したシカゴ周辺に暮らす人々が突然死する事件が起こりました。これにより、「ジョンソン・エンド・ジョンソン」は社会的信用を大きく損失し、一時は倒産寸前にまで追い込まれたのです。
事件発生直後から専用フリーダイヤルの設置、新聞広告、テレビ放映、マスコミへの真摯な対応など、ありとあらゆる手を打って対策を行いました。また、同じ事件が2度と起きないよう、開発部門は「3層密封構造」の特殊パッケージを開発。現在も異物混入を防ぐ業界のスタンダードとなっています。
さらに、消費者はもちろん、医師をはじめとする医療関係者に向けた説明を繰り返し行い、失った信頼を取り戻す努力を続けました。これらの行動によって「タイレノール」は事件発生からわずか2ヶ月で売り上げを事件前の80パーセントまで回復させることに成功しました。
各部門の社員の行動の支えとなったものこそがクレド「我が信条」だったのです。現在では、「ビジネス史上、最も優れた危機対応」とまで呼ばれています。
リッツ・カールトンの例
全世界にホテルを展開するリッツ・カールトンもまたクレドを大事にしている企業です。リッツ・カールトンではお客様に最高の体験を提供するために従業員にクレドカードを携行させており、常にお客様に対して提供するものは何か意識づけを行っています。
なお、このクレドカードには従業員との約束という企業理念も記載されており、そこには従業員に対するメッセージも記載されています。内容としては会社が従業員に提供するもの・取り組みが明文化されており、士気を高める一因にも繋がっているのではないでしょうか。
中小企業でこそ真価を発揮するクレド
と、ここまでのサクセスストーリーを聞くと「あくまで大企業が取り入れるもの」と思うかもしれません。しかし、少数精鋭で動く中小企業でこそ、クレドは真価を発揮するといっても過言ではないのです。
例えばあなたの会社で、以下のような状況は発生していませんでしょうか?
・会社にいることが少ないため、社員と顔を合わせて会話する機会がない
・少人数のため、一人のモンスター社員の勝手な行動で組織がバラバラになる
・経営層の思いを伝え、教育する時間が都度取れないため離職率が高い
・経営層がオフィス内にいるだけで雰囲気が悪くなっている
・部署部門によって仕事への姿勢、意識に差がある
・社員それぞれの対応や品質が異なり顧客満足度が低い
・膨大な量の業務を日々こなすことに精一杯で根本にある大事な想い・思想を忘れがちになっている
・先代や創業者の想いが社員に上手く引き継がれていない
これらの問題に共通して言えることは、どれだけ素晴らしい経営理念があったとしても、それが社員に伝わっていなければ経営理念は無いに等しいということです。
想いを言語化し、社員が常に意識することでクレドは効果を発揮します。例えばリッツ・カールトンのようにクレドを携帯しやすいものに記載し、目に触れる機会を増やすということは、浸透させる上で有効な施策だと言えます。
なぜ今、クレドが注目されているのか?
クレドが注目されるようになったのは、先駆けである「ジョンソン・エンド・ジョンソン」のクレド導入から約半世紀たった2000年代に入ってからです。この背景には、企業の不祥事が頻発したことがあると言われています。
米国のエンロン社による簿外債務の隠蔽(2001年)、ワールドコム社による粉飾決算(2002年)をはじめ、日本においても金融業界の不祥事や、食品偽造などが話題となっていました。
このような状況から日本では、金融商品取引法や公益通報者保護法といった法整備が進み、コンプライアンス遵守の考えが企業に根付きはじめたのです。
しかし、どれだけ経営層が敏感になっても、実際に営業活動を行う現場の意識が低ければ意味がありません。そのため、会社の持つ価値観を共有し、全社員の意識改革を促すクレドに注目が集まるようになりました。
クレドと経営理念は一体何が違うのか
「クレドと経営理念の違いは何か」と聞かれることがしばしばあります。クレドは前述もしましたが、社員が業務を行う上での「行動指針」です。経営理念とは、創業者が当時から大切にしている「想い」のこと。そのため、経営理念はクレドよりも少し抽象的な表現が多くなります。
ただ、経営理念をより具体的に言語化していけば、ほぼクレドと同義になります。企業によってはそれらを「ミッション」「ビジョン」「バリュー」と分けているケースもあります。
また、理念は経営者の思いをトップダウンで伝えるもの、クレドは社員を含めた全員の思いをボトムアップでまとめるものです。社員を巻き込むことで策定過程を通じて浸透が図れるという効果もあります。
- ミッションとは
ミッション(Mission)は「使命・任務」と訳します。会社が何を目指し、どんなことを達成させたいのか、最も優先されるべき事項は何か、自社の存在意義は何か?を言語化したものです。
- ビジョンとは
ビジョン(Vision)は会社が5~10年後の将来どんな理想像を描いているのか。ありたい姿、あるいはあるべき姿を目標として言語化したものです。
- バリューとは
バリュー(Value)は社員それぞれが大切にしている価値観のこと。ミッションを達成させるため、ビジョンに近づくために日々どのような行動をしたらよいのかを行動指針として表したものです。
クレドを作る目的とは?
クレドをこれから作ろうと思った経営層の方々に、決して見失って欲しくないことがあります。それは、クレドには、業務を遂行する上で社員に持っていてもらいたい価値観を記すものであるということです。
例えば、「お客様第一主義」。この一言だけが書かれたクレドがあったとします。この言葉を日々目にしているだけで、顧客からクレーム電話が入った時にも冷静に対処できるかもしれません。
利益の追及に走り、道を誤りそうになった時、ブレーキとなってくれるかもしれません。クレドは社員に「こうしなさい」と行動を促すものでありません。業務の中で決断を迫られた時、自分で考え、答えを導き出す際に大切にすべき価値観を示すものです。
クレドはマニュアルとは異なるもの
よく、クレド=マニュアルと勘違いをする経営者がいますが全く別物です。マニュアルとは「仕事のやり方」を共有するものと心得てください。
例えば、ファストフード店で、一人のお客がハンバーガーを30個オーダーしたとします。
「店内でお召し上がりですか?」と必ず聞くのがマニュアルです。
しかし、30個ものハンバーガーを店内で食べる可能性は限りなく低いだろうと予測し、「お持ち帰りでよろしいでしょうか?」と臨機応変に対応できる価値観を共有するのがクレドの役割です。以上のように、クレドとは社員一人ひとりに自律を促すツールで、ある意味、マニュアルやルールとは真逆の存在です。
マニュアルが「仕事のやり方」を共有するものであるのに対し、クレドは「仕事のあり方」を共有するものです。
・自分の頭で考えようとせず、黙々とマニュアルに沿った作業をこなす
・上司に叱責されるのを恐れ、上司のいる場だけはルールを守り真面目に働く
クレドの無い、こんな状況では良い社内風土は決して育ちません。繰り返しになりますが、クレドは社員全員を巻き込み会社の思いを下からボトムアップしてまとめ、表現したものになりますので、その点に留意しましょう。
「行動を変えるにはまず意識から」その意識にアプローチするのがクレド最大の目的です。
もちろん、社員一人ひとり育った環境や影響を受けた存在も異なるため、価値観は千差万別です。そのため、クレドを作る際には、各個人の持つ価値観にイノベーションを起こすインパクトが求められます。かといって今まで誰も聞いたことのない目新しいものである必要はありません。
「この考え方は素敵だな」
「この価値観は自分の人生の参考になるな」
「こんな考えで仕事をすれば顧客も喜ぶはず」etc
共感を呼ぶものであれば問題ないのです。ポジティブに捉えられる内容のクレドであれば、その分定着も早くなり、持続性もアップします。
クレドが会社にもたらすメリットとは?
クレドを作成することにより、企業運営にどんなメリットがあるのでしょうか。以下、6つのメリットをご紹介いたします。
(1)人材育成
会社を経営する中で、企業の業績に貢献する社員を一人でも多く育てることは、企業の生命線といっても過言ではありません。
では、そのような人材はどうすれば育つのでしょうか?
決められたマニュアルをこなすだけでは経営者と同じような考えを持ち、自分で考え行動する社員は育ちません。業務に関する知識はある程度の経験を積めば、ほとんどの人が身につけることができます。
しかし、知識を応用し、自ら判断・行動ができるようになるためには、クレドは最適なツールです。クレドの策定によって共有すべき価値観を明確にし、日々読み返してクレドを意識せずとも実践できるようになれば、正しい判断や行動が迅速に行われるようになり業績アップにつながります。
(2)定性的な人事評価
人事評価をする際には、営業成績など達成数値から判断する「定量的評価」と、数値で測れない、勤務態度や姿勢を評価する「定性的評価」の2軸が用いられることが多いです。
社員がクレドで示した価値観を業務でどれだけ実践しているかを定性的評価に取り入れると効果的です。また、「定性的評価」のポイントとして、上長一人で評価を決めるのは得策ではないことを覚えておいてください。
上長一人に判断を任せると、その人物の前だけ「いい子」になる社員が必ずいるからです。
上長はもちろん、他の役職者や同僚、他部門の社員、さらには顧客にも協力してもらい、さまざまな人物からの評価を総合的に判断すると、よりよい評価につながります。
クレドがあれば、企業が社員に求める姿が明確になり、社員としても「どう行動することが評価につながるのか」がわかるので成果につながる行動がとりやすくなります。
(3)人材採用
厚生労働省が2020年10月に発表したデータ(新規学卒就職者の離職状況(平成29年3月卒業者の状況))によると、2017年3月に高校・大学を卒業した新卒者の3年以内の離職率は高卒者が39.5%、大卒者が32.8%となっています。
かんたんに言うと、新卒社員の3人に一人は3年以内に会社を辞めているわけです。
理由は人によって千差万別ですが、入社してからのギャップが要因であることも少なくありません。募集要項にクレドを掲示しておけば、求職者が会社を選ぶ時点で自分に合っているかどうかを判断する基準になります。企業と求職者のミスマッチを減らすことが出来るのです。
また、入社前からクレドを理解していれば、入社後のクレドの浸透もスムーズになります。
(4)社内風土の醸成
社内の人間が同じベクトル、価値観を持って仕事に臨めば、個人がバラバラに動くよりも大きな力となります。クレドという共通認識があることで、まとまりやすくなります。
理想の組織文化を作り上げるためにもクレドは効果的であり、一人一人の力が特に大切な中小企業こそベクトルを揃えることが必要です。
(5)サービスレベルの向上
先述したファストフードの例のように、従業員一人ひとりが考えて動けるようになれば自然と顧客満足度は上がります。
ホームセンターでドリルを買いに来たお客様は最新のドリルに興味があるのではありません。ドリルを買う目的は「穴を開けたいから」です。その目的を理解できる社員は、「どのメーカーのドリルをお求めですか?」とは聞きません。
「どこにどんな穴を開けたいのですか?」と聞くはずです。
マニュアルに頼らない自主性を育てる力がクレドには秘められています。
(6)働きがいの向上
「現代は心の時代」と言われて久しいように、金額的報酬よりも精神的報酬を求める社員が増えています。つまり、給与や賞与が上がることよりも、仕事を通じて自己実現や自己の成長を求めている社員が増えているということです。
そのような社員にとって「自分の仕事は世の中にどう役に立っているのか」が明確になっていることが働きがいの向上に直結します。クレドによって自社の使命を言語化することで日々の意識・行動・モチベーションが大きく変化するのです。
クレドはどうやって作ればいい?効率的に浸透させるために必要なことは?
クレドの作り方に絶対の正解はありません。100社あれば100通りの作り方があるでしょう。しかし、絶対に外せないポイントがあります。その一つが「情熱」です。
経営者がクレドを作成することによって「社員・顧客を幸せにしたい」「自社の活動によって世の中をどう変えたい」「会社の将来はどうあってほしい」などを考え抜き、会社の柱となるものを作るんだという高い意識が必須です。
当然、経営者は自社のことを省みるきっかけになりますから、経営者自身の成長にもつながります。「最近、クレドを導入するのが流行りだから」とか「たとえ失敗してもいいからとりあえず作ってみよう」といった軽いノリで導入しても絶対にうまくはいきません。
また、うまく浸透させるためには「現場の社員と一緒に作る」ことも大切です。なぜなら、経営者および経営層がどれだけ社員のためを思って作ってもトップダウンでクレドを作ると現場にとっては「価値観の押し付け」と感じるからです。
「クレド」を知らない社員は、始めのうちは積極的には参加してくれないかもしれません。しかし、経営者が情熱を持ってクレドの必要性や自社・社員についての想いを語っていけば共感してくれる社員も増えてきます。経営者も社員もお互いが共感できるよう、話し合いを重ねてクレドを作ることが成功の秘訣。現場の社員も自分が関わって作られたものという意識があれば、浸透も早くなります。
以上のクレドの内容は動画でも解説しております。ぜひ一度ご覧ください。
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