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中小企業向け「健康経営」導入ガイド~専門家が解説する4つのメリットと成功事例~

記事作成日2026/03/26

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「健康経営」という言葉が聞かれ始めて久しいですが、「具体的に何から始めればよいのかわからない」「制度対応が煩雑そうで、自社にはハードルが高いのではないか」と感じている経営者の方も少なくないと思います。

健康経営は、決して一部の大企業だけが取り組むものではありません。社員の健康を「コスト」ではなく「投資」と捉え働きやすい環境を整えることは、生産性の向上や人材の定着といった経営課題に直結する極めて実務的な経営戦略のひとつです。

本記事では、健康経営の基本的な考え方をあらためて整理するとともに、実際に導入した企業の事例をご紹介します。スポーツジムのほか、施策としては珍しいリングを社内に導入して社員が体を動かせる機会を増やしたユニークな企業です。

健康経営の導入に向け、準備から実行・改善に至るまでの伴走支援を行った専門家、そして実際に取り組みを推進してきた経営者の声も交えながら、企業にとって現実的で、無理なく進められる健康経営のあり方について考えていきます。

健康経営とは?「コスト」ではなく「業績を高める投資」である理由

健康経営というと、健康診断を勧めたり、積極的に有給休暇を取ってもらったりと、社員の健康促進のために会社ができる最低限のことだと思っていませんか? それも間違いではありませんが、実際はもっと従業員の健康管理を経営的な視点から捉え、戦略的に実践する経営手法なのです。

単なる福利厚生の充実や健康診断の実施にとどまらず、従業員の健康への投資が生産性の向上や組織の安定、ひいては企業の持続的成長につながるという考え方に基づいています。「健康経営は、会社の業績を良くするための経営ツールのひとつ」と捉えるとわかりやすいかもしれません。

健康経営において、企業が注視すべき3つの重要な指標があります。

• アブセンティーイズム:欠勤や病気休職などで業務に就けない状態
• プレゼンティーイズム:出勤はしているが、健康問題によって業務の能率や生産性が落ちている状態(目に見えない労働損失)
• ワークエンゲージメント:仕事に誇りとやりがいを感じ、熱心に取り組み、仕事から活力を得て、いきいきとしている状態

特に損失額が大きいとされる「プレゼンティーイズム」をいかに防ぐかが、健康経営の要となります。

プレゼンティーイズムは「目に見えない労働損失」と呼ばれており、その損失額は実際の医療費や、病気休養によってかかる費用よりも大きいとされるからです。プレゼンティーイズムをどのように回復させていくか、あるいはいかにプレゼンティーイズムの状態にさせないかが、健康経営を目指すうえで非常に重要です。

従業員が心身ともに健康であれば、集中力や判断力が高まり、業務の質は確実に向上します。欠勤や休職のリスクが減るだけでなく、日々のパフォーマンスが安定することで、組織全体の生産性が底上げされていくのです。

健康経営とは、こうした流れを偶然に任せるのではなく、意図的に仕組みとして整えていく取り組みです。

健康経営には企業を成長させる4つのメリットがある

健康経営に取り組むことで、企業にはさまざまな効果が期待できます。ここでは、実務の現場で実感している代表的なポイントを、もう少し具体的に整理します。

1.離職率の低下:働きやすい環境づくりにより、社員の定着率が向上する
2.生産性の向上:
健康が維持できることにより、業務効率と集中力が上がる
3.組織の活性化:
健康施策が社内の交流を促し、組織の一体感が高まる
4.採用への好影響:
人を大切にする企業姿勢が、イメージの向上につながる

1.離職率の低下
会社が従業員の健康を大切にしているという姿勢は、制度や施策を通じて確実に伝わります。その結果、安心して働ける職場環境が生まれ「この会社で長く働きたい」という意識の醸成につながるでしょう。

特に中小企業においては、ひとりの離職が現場に与える影響は決して小さくありません。業務の引き継ぎ、教育のやり直し、現場の負担増加など、目に見えないコストも含めると、その影響は非常に大きなものです。

健康経営は、こうした人材流出のリスクを未然に防ぐ、いわば予防的な経営施策としての意味合いも持っています。

少子高齢化による労働人口の減少が進む中で、人材の確保は多くの企業にとって大きな課題です。新たに採用することが難しくなっている今、「今いる社員に長く元気に働いてもらう」という視点は、これまで以上に重要になっています。

2.生産性の向上
心身のコンディションが整うことで、生産性の向上も期待できます。体調不良やメンタル不調を抱えたまま働く状態では、本来の力を発揮することは難しいでしょう。健康経営は、従業員が安心して働ける状態を維持することで、日々のパフォーマンスを安定させ、結果として業務効率の向上につなげていきます。

3.組織の活性化
健康施策をきっかけに、社内コミュニケーションが活性化するケースも少なくありません。「一緒に取り組む」という体験が、組織の一体感を生むこともあります。

4.採用への好影響
近年は、給与や待遇だけでなく「どのような会社で働くか」「会社が社員をどう扱っているか」を重視する求職者が増えています。健康経営への取り組みは「人を大切にする企業」という印象を与え、企業イメージの向上に寄与するほか、採用活動において他社との差別化ポイントにもなるでしょう。

【コラム・中小企業の成功事例】社内にリングを設置? ユニークな健康経営の取り組み

ここでは、積極的に健康経営に取り組んでいる中小企業の事例を紹介します。不動産会社である株式会社二期様の取り組みです。


■導入の背景

健康経営に取り組もうとした出発点は、非常にシンプルなものでした。それは「社員を大切にしたい」「安心して働ける環境を整えたい」という、経営者としての強い想いでした。

同社代表の奥村茂和社長は、健康経営について次のように語っています。

「制度ではなく、会社づくりの哲学だと考えています。社員の健康を守ることは企業の責任であり、経営の根幹にあるものだと思っています」

本格的な取り組みのきっかけは、新型コロナウイルスの拡大でした。先行きが見えない状況の中で、社員のメンタルや体調への影響が顕在化し、「会社として社員を守れるのか」という問いを強く意識するようになったといいます。


■健康経営推進のプロセス

当初は健康経営優良法人の認定取得を目的としていたわけではなく、社員の働きやすさや安心感を高めるために、できることをひとつずつ積み重ねていくなかで取り組みが整理され、「健康経営」という形になっていったのです。

推進にあたっては、社員アンケートで課題の可視化を行いました。社員が抱える悩みや不安、働きやすい環境への要望を丁寧に把握し、それをもとに年間計画や目標が設計されていったという流れです。

社員の声のなかには「運動する機会が減っている」「ジムに通う時間が取れない」といった課題もありました。これを受けて、社内に運動できる環境を整えたいという発想が生まれ、ジムの設置が検討されました。

さらに、他社ではあまり例のない取り組みとしてリングを設置し、格闘技やキックボクシングをエクササイズとして取り入れるなど、同社ならではの健康施策が展開されています。




また、運動だけでなく、食事・睡眠・メンタルヘルスに関するセミナーなど、取り組みは段階的に広がっていきました。こうした積み重ねが、社員一人ひとりの健康意識を高めるきっかけとなっています。

こうした「経営者の想いを起点にした取り組み」は、現場に浸透しやすく、継続的な定着につながりやすい傾向があります。





■社内に生まれた変化

このような取り組みを通じて、社内にはさまざまな変化が生まれました。奥村社長は導入後の実感について、次のように語っています。

「健康経営の取り組みを進めてから、フィジカルだけでなくメンタル面の健康意識も高まりました。社員自身が、自分たちの職場を良くしていこうという意識を持つようになったと感じています」

健康チェックをきっかけに食生活を見直す社員が増えたり、睡眠の質を意識するようになったりと、日常生活にも変化が広がっています。また、健康に関する話題をきっかけに部署を超えた会話が増え、職場全体の雰囲気が柔らかくなったという声も聞かれているそうです。

健康経営は単なる福利厚生ではなく、組織文化を育てる取り組みでもあります。社員一人ひとりが安心して働ける環境を整えることが、結果として会社全体の力を底上げしていく――その手応えを、同社は着実に実感しています。

<ポイント>

■導入の背景・課題:
コロナ禍での社員のメンタル・体調への不安、運動不足の顕在化。

■実施した施策:
社内へのスポーツジムおよび格闘技用リングの設置。食事・睡眠・メンタルヘルスセミナーの実施。

■得られた成果:
社員の健康意識(フィジカル・メンタル)の向上。健康の話題を通じた部署間コミュニケーションの活性化と組織風土の改善。


※本コラムは、二期様に健康経営支援を行っている株式会社うぇるなす・板倉様の協力のもと、記載しています。

株式会社うぇるなす 共同代表 板倉直人氏
日本大学理工学部卒業後、一般企業を経てプロアスリートへ転身。キックボクシングの日本王者に。引退後、選手生活で得た知識、経験をもとに、楽しく継続できる運動や体調管理を指導。企業の健康経営推進の顧問として、健康経営優良法人の認定取得や従業員への調査、施策立案、実行までをサポート。

TOMAの「健康経営優良法人」認定取得までのステップ

健康経営を進めるうえで、ぜひ目指していただきたいのが「健康経営優良法人認定」です。これは日本健康会議が認定している顕彰制度のひとつで、特に優良な健康経営を実践している法人を「見える化」することで、社会的な評価を受けられるような環境整備を目的とするものです。

認定要件は5つに分かれています。

1.経営理念の方針
2.組織体制
3.制度・施策実行
4.評価改善
5.法令遵守・リスクマネジメント

認定要件のすべてではなく、一定の数をクリアすれば認定される仕組みです。

健康経営優良法人の認定は、最終的なゴールではありません。しかし、取り組みを体系的に整理し、継続していくうえでの大きな指針になるものです。

認定を取得することで、対外的な信頼性が高まるだけでなく、金融機関からの評価や各種制度面での優遇など、実務的なメリットが生まれるケースもあります。また、採用活動の場面でも、社員を大切にする会社であることを示すひとつの指標として機能します。

私たちTOMAコンサルタンツグループも、自ら健康経営を実践し、2025年・2026年と2年連続で健康経営優良法人認定を取得しました。

認定のために必要な要件を満たすための具体例として、TOMAでは以下のような取り組みを実施しています

• 【組織の活性化・コミュニケーション促進】しゅみプロ
社員の趣味の共有を通じて、部門横断的なコミュニケーションを図る取り組み(しゅみプロブログはこちら!

• 【食生活の改善支援】設置型の健康社食
オフィス内に設置した冷蔵庫でサラダやスムージー、惣菜などを販売する外部サービス

• 【運動機会の増進】健康促進アプリ
健康にいい行動を案内してくれるアプリを活用し、運動機会の増進につなげる

しかし、定期健診受診率100%や、受診勧奨の取り組みなど、すでに実施している会社も多いと思います。健康経営は「ゼロから始める」のではなく「今できていることを整理してみる」と、認定要件に対して意外と多くの項目がクリアできていることに気づくものです。健康経営優良法人認定へのハードルは、決して高いものではありません。

何よりも、認定を目指す過程そのものが、会社の現状を見直すきっかけになります。自社の課題を整理し、どのような施策が必要かを考え、社内で共有していく。そのプロセス自体に、大きな意味があります。

また、認定取得はゴールではなく、その後の「継続」も大切です。私たちTOMA自身も、取得後も日々の施策を無理なく続け、少しずつ社内に定着させてきた結果として、今回の2年連続認定に繋がりました。

健康経営優良法人に認定された企業だからこそできるサポート

認定取得には、「経営理念の方針」「組織体制」「制度・施策実行」「評価改善」「法令遵守」という5つの要件をクリアする必要があります。実際に取り組んでみて痛感したのは、「制度を作って終わりではない」ということです。私たちも現場の社員にどう浸透させるか、業務が忙しい中でどう時間を捻出するか、といった多くの課題に直面しました。

しかし、実際に取り組んで経験してみたからこそ、クライアントの皆様がつまずきやすいポイントや、現場への落とし込み方のコツを、実体験としてお伝えできると考えています。単なる申請代行ではなく、「生きた健康経営」のパートナーとして、実務面(TOMA)と現場施策面(うぇるなす)の両輪でサポートできるのが私たちの強みです。

健康経営は、特別な設備や大きな投資がなければ始められないものではありません。制度対応のために取り組むのではなく「人を大切にする経営」を実現するための手段として、健康経営を捉えることが重要です。株式会社二期様のようなユニークな設備投資もひとつの形ですが、まずは自社の課題を知り、社員の声に耳を傾けることから始まります。

健康経営導入に向けたファーストステップ

中小企業が無理なく健康経営を始めるためには、以下の手順が有効です。

1.現状の把握:まずは自社の課題を知り、社員の声に耳を傾ける(アンケート等の実施)。
2.既存施策の整理:定期健診の受診勧奨など「すでにできていること」をリストアップする。
3.専門家の活用:自社に合った無理のない計画を立てるため、外部の知見を取り入れる。

中小企業だからこそ、経営者の想いが現場に伝わりやすく、取り組みが組織文化として根づきやすい側面もあります。無理のない形で、継続できる形で、自社に合った健康経営を進めていきましょう。

TOMAでは、株式会社うぇるなす様と連携し、健康経営の導入から優良法人認定の取得までをトータルでサポートしています。「何から始めればいいかわからない」という段階でも構いません。まずはお気軽にご相談ください。