毎年のように人事労務関連の様々な分野で法律の改正が行われ、該当する業界・事業主の人事労務担当者のみなさまはその対応に追われているかと思います。2024年でいえば、「健康保険法・厚生年金保険法」の改正や「フリーランス保護法」の新設など、大きなトピックがいくつもありました。
そんな2024年の法改正対応が落ち着いたのも束の間、2025年も新しい法改正の施行が予定されています。そこで今回は、2025年に施行される「人事労務関連の法改正」のポイントについて分かりやすく解説していきます。
目次
2025年施行予定の人事労務関連法改正まとめ
2025年に施行される法改正は大きく2つあります。1つ目は、「育児・介護休業法改正」で、4月1日に施行される第一弾の改正と10月1日に施行される第二弾の改正とに分かれています。2つ目は、「雇用保険法改正」で、4月1日から施行されます。どちらも重要な法改正となりますので、細かいポイントについてしっかり把握していきましょう。
【2025年4月~施行】育児・介護休業法改正のポイント
下記の図が「育児・介護休業法改正」の全体像となっています。今回の法改正の目的は、仕事と育児・介護を両立している労働者が、柔軟に働ける環境を整え、仕事と生活のバランスをサポートしていくことです。改正によって、テレワークや時短勤務などがしやすい環境が整備され、育児・介護がしやすい社会の実現が期待されています。
ではまず、2025年4月1日から施行される法改正について、8つのポイントを解説していきます。
①子の看護休暇の見直し
子の看護休暇とは、ケガや病気になった子どもの世話などを行う際に使用できる休暇制度のことです。対象となる労働者は、1年で5日(対象となる子が2人以上の場合は10日)の子の看護休暇を取得することができます。今回の改正で、各要件が拡大され、より幅広い労働者が子の看護休暇を取得しやすくなります。
<改正のポイント>
〇学級閉鎖や子ども行事に参加する場合も、子の看護休暇を取得できる!
〇子の看護休暇の対象となる子どもの範囲が、小学校3年生修了まで拡大!
〇勤続6カ月未満の労働者も、子の看護休暇の取得対象者へ!
②所定外労働の制限(残業免除)の対象拡大
所定外労働の制限(残業免除)とは、子どものいる労働者は、子どもが一定の年齢になるまで、請求をすれば残業を免除することができるというものです。今回の改正で、請求可能となる労働者の対象が「3歳未満の子を養育する労働者」⇒「小学校就学前の子を養育する労働者」に拡大されます。
<改正のポイント>
〇残業免除の対象が、「3歳未満」⇒「小学校就学前」の子どもを持つ労働者に拡大!
③短時間勤務制度(3歳未満)の代替措置にテレワーク追加
3歳未満の子どもを育てる労働者に対し、短時間勤務の措置を行うことが義務とされています。ただし、ある要件を満たす労働者に対しては、短時間勤務の措置の対象外とすることができます。その際、時差出勤やフレックスタイム制などの別の代替措置を行う必要がありますが、今回の改正で「テレワーク」が追加されました。
<改正のポイント>
〇短時間勤務制度(3歳未満)の代替措置として「テレワーク」が追加!
④育児・介護のためのテレワーク導入
今回の改正では、柔軟な働き方の拡充として「テレワーク」の推進がキーワードとなっています。育児の面では、3歳未満の子どもを育てる労働者に対して「テレワーク」の選択ができるように措置を講じることが努力義務化され、介護の面でも、要介護状態の家族を介護する労働者に対して「テレワーク」の選択ができるように措置を講じることが努力義務化されます。「努力義務」なので法的拘束力はありません。
<改正のポイント>
〇3歳未満の子どもを育てる労働者に、テレワークを努力義務化!
〇要介護状態の家族を介護する労働者に、テレワークを努力義務化!
⑤育児休業取得状況の公表義務適用拡大
現在、常時雇用する労働者の数が「1,000人」を超える事業主に対して、年1回以上「育児休業の取得状況」を公表することが義務化されています。今回の改正で、公表義務となる対象が「300人」を超える事業主まで拡大されます。
<改正のポイント>
〇育児休業の取得状況の公表義務が「300人を超える事業主」に拡大!
⑥介護休暇を取得できる労働者の要件緩和
介護休暇とは、要介護状態にある家族の世話を行う際に使用できる休暇制度のことです。対象となる労働者は、1年で5日(対象家族が2人以上の場合は10日)の介護休暇を取得することができます。今回の改正で、対象者の範囲が拡大され、より幅広い労働者が介護休暇を取得しやすくなります。
<改正のポイント>
〇勤続6カ月未満の労働者も、介護休暇の取得対象者へ!
⑦介護離職防止のための雇用環境整備
今回の改正で、介護休業や介護両立支援制度等の申出が円滑に行われるようにするため、事業主は以下の(1)~(4)いずれかの措置を講じることが義務化されます。いずれか1つ以上の措置を講じれば問題ありませんが、複数の措置を講じるほうが望ましいとされています。
(1) 介護休業・介護両立支援制度等に関する研修の実施
(2) 介護休業・介護両立支援制度等に関する相談体制の整備(相談窓口設置)
(3) 自社の労働者の介護休業取得・介護両立支援制度等の利用の事例の収集・提供
(4) 自社の労働者へ介護休業・介護両立支援制度等の利用促進に関する方針の周知
<改正のポイント>
〇介護休業や介護両立支援制度等の申出が円滑に行われるための措置を義務化!
⑧介護離職防止のための個別の周知・意向確認等
今回の改正で、「介護に直面した」との申し出があった労働者に対して事業主は、介護休業等に関する両立支援制度について、個別に周知・意向確認をすることが義務化されます。また、介護に直面する前の早い段階(40歳等)での情報提供も合わせて義務化されます。これにより、仕事と介護との両立がしやすい環境や周囲への介護の理解が進むことが期待されています。
<改正のポイント>
〇介護に直面した労働者に、両立支援制度の周知・意向確認を義務化!
〇介護に直面する前の早い段階(40歳等)での情報提供を義務化!
【2025年10月~施行】育児・介護休業法改正のポイント
続いて、2025年10月1日~施行される育児・介護休業法の法改正について解説していきます。ポイントは、「柔軟な働き方を実現するための措置」と「仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮」の2つとなっています。
①柔軟な働き方を実現するための措置等
今回の改正で、事業主は3歳~小学校就学前の子どもを持つ労働者に対して、下記の図の5つの項目から2つ以上の措置を選択して実施し、労働者はその中から自分に合った制度を自由に選択して利用することができるようになります。
また、これらの措置に関して、事業主は対象の労働者に対して「個別の周知・意向確認」を行う必要もあります。事業主側が制度を整えるだけでなく、労働者側がしっかりと制度を認知して活用できるような仕組みとなっています。
<改正のポイント>
〇3歳~小学校就学前の子どもを持つ労働者が対象!
〇事業主は柔軟な働き方を実現するために2つ以上の制度を選択して実施!
〇事業主は利用可能な制度を労働者に周知・意向確認する必要がある!
②仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮
今回の改正で、労働者が妊娠・出産などを申し出た場合、事業主は仕事と育児の両立に関して個別に意向を聞いて、その意向に配慮することが義務付けられることになります。また、子どもが3歳になるまでの適切な時期にも、同様に仕事と育児の両立に関して個別の意向確認が必要となります。
事業主は対象者の意向に配慮する必要がありますが、具体的な「配慮」の例は下記のようなものになります。
・勤務時間帯、勤務地にかかる配置
・業務量の調整
・両立支援制度等の利用期間等の見直し
・労働条件の見直し望ましい
など…
<改正のポイント>
〇妊娠・出産のタイミングと子どもが3歳前になるタイミングで実施!
〇対象の労働者に対して、仕事と育児の両立に関しての周知と意向確認が必要!
〇事業主は対象の労働者の意向に配慮しなければならない!
【2025年4月~施行】雇用保険法改正のポイント
次に、2025年4月1日~施行される「雇用保険法改正」について解説していきたいと思います。そもそも雇用保険とは、労働者が失業した際に、失業中の生活を保障し、安心して再就職できるようにするための給付を行う制度です。
ここでいう給付とは、いわゆる「失業手当(失業保険)」と呼ばれるものになります(制度上の正式名称は「基本手当」と言います)。今回、雇用保険法に関してはいくつか改正されるポイントがありますが、今回は2つのポイントに絞って解説していきます。
①自己都合離職者の失業給付制限の見直し
現在は、自己都合で離職した場合、失業手当をもらうまでに「待機期間の7日間」+「原則2ヶ月間の給付制限期間(5年以内に2回を超える場合は3ヶ月間)」が設けられています。今回の改正によって「給付制限期間が1ヶ月に短縮」されます。
給付制限期間は失業手当目当てで安易に自己都合離職する人を抑制する制度でしたが、働く意思を持って再就職活動を行う自己都合離職者が増加している、という背景を受け、改正されることになりました。ただし、短期間で入退社の繰り返す行為を抑制するため、5年以内に3回以上の自己都合離職の場合は3ヶ月間となっています。
また、離職期間中や離職日前1年以内に、自ら教育訓練を行った場合は、「給付制限期間なし」となり、7日間の待機期間後すぐに失業手当が受給できるようになります。
<改正のポイント>
〇自己都合離職者が失業手当を受け取るまでの給付制限期間が「1ヶ月」に短縮!
〇自己都合離職者が自ら教育訓練を行った場合は「給付制限期間なし」で受給可能!
②高年齢雇用継続給付の縮小
高年齢雇用継続給付とは、雇用保険の被保険者期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の雇用保険の被保険者に対して、賃金額が60歳到達時の75%未満となった方を対象に、最高で賃金額の最大15%に相当する額を支給するという制度です。今回の改正で、この支給率が最大「10%」へ縮小されます。
事業主側の対応として複雑になるのは、対象となる方がすべて2025年度から新たに60歳になる方(1965年4月2日以降に生まれた方)になるまで、「給付率が最大15%と最大10%の方が混在する」ことになる点です。対象者が混在する場合、「縮小分の5%の差をどうすべきか」各事業主が検討し、施行までに決定しておく必要があるでしょう。
<改正のポイント>
〇高年齢雇用継続給付の給付率が最大「15%」⇒最大「10%」に縮小
事業主が対応すべき2025年法改正リスト
ここまでご紹介した、事業主が対応すべき2025年法改正についてまとめました。こちらを参考に、どんな対応が必要なのか整理されることをお勧めいたします。
【2024年4月1日~施行】
<育児・介護休業法改正>
□子の看護休暇の拡大(行事参加でもOK/小学校3年生まで拡大/勤続6カ月未満も対象)
□残業免除の拡大(対象が「3歳未満」⇒「小学校就学前」の子どもに拡大)
□短時間勤務制度(3歳未満)の代替措置として「テレワーク」が追加
□育児・介護のためのテレワーク導入が努力義務化
□300人を超える事業主は育児休業取得状況の公表が義務化
□勤続6カ月未満の労働者が介護休暇の取得対象者へ拡大
□介護休業や介護両立支援制度等の申出が円滑に行われるための措置を義務化
□介護に直面した従業員に両立支援制度の周知・意向確認を義務化
□介護に直面する前の従業員(40歳等)に両立支援制度の早期情報提供を義務化
<雇用保険法改正>
□自己都合離職者の失業給付制限期間が「1ヶ月」に短縮
□教育訓練を行った自己都合離職者は「給付制限期間なし」で失業給付を受給可能
□高年齢雇用継続給付の給付率が最大「15%」⇒最大「10%」に縮小(対象者が混在する可能性)
【2024年10月1日~施行】
<育児・介護休業法改正>
□3歳~小学校就学前の子どもを持つ従業員に、柔軟な働き方を実現する制度として事業主は2つ以上選択し、対象者への周知・意向確認を義務化
□妊娠・出産や子どもが3歳になる前のタイミングで、仕事と育児の両立に関しての周知・個別の意向確認・配慮を義務化
さらに詳しい情報や実務対応方法が知りたい方へ
いかがでしたでしょうか?
今回の記事で、2025年の人事労務に関する法改正について全体像の把握や、個々の制度の理解を深めることができたら幸いです。TOMAではこのような情報提供を行っているメルマガを発行していますのでこの機会に是非ご登録ください。
ただ、企業によって抱えている課題や対応方法は異なることがほとんどです。この記事だけでは、企業ごとの具体的な実務対応方法までお伝えすることはできないかと思います。
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