例年、作業に時間がかかる年末調整ですが、準備は進んでいますでしょうか?
今年に限っては社員それぞれで減税条件が異なる定額減税への複雑な対応が増えます。例年とは違う年調減税対応手順の確認と、従業員の情報(定額減税の対象状況) の事前確認・把握を改めて行うことが重要です。
本ブログでは基礎的なことから年調減税の対応のほか、ここ数年の改正内容もまとめて解説しています。
事務作業本番に向け準備をしっかりと行い、今年の年末調整をミスなく乗り切りましょう。
目次
そもそも年末調整とは一体何? 何のために実施するのか
年末調整とは、1月から12月の1年間を通して会社が社員に支払った給料・賞与から源泉徴収した所得税などについて、12月の最終支払日に再計算を行い、過不足を調整する作業のことをいいます。毎月の給与や賞与の源泉徴収税額は、あくまでその時点における暫定的な金額であり、実際に納税する金額とは異なるのです。一年という期間の中で、社員は仕事・プライベートの両面において変化することがしばしばあります。
・結婚・出産によって家族が増えた、また離婚によって家族が減った。
・出世による昇給、転職によって給与額が大きく変化した。
・大病を患い、保険料が変動した。
・マイホームを購入した…etc
以上のように、年末調整とは社員のさまざまな要因を鑑みた上で再計算し、不足分があれば徴収を、余剰があれば還付を行い、正しい納税額に調整する大切な作業なのです。年末調整が完了した後は、源泉徴収表と給与支払報告書を作成し、1月31日までに税務署や市区町村役場に提出しなければなりません。
年末調整の対象者は? 対象にならない社員もいる?
では、どんな社員が年末調整の対象となるのでしょうか。
基本、会社に対して「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している社員が年末調整の対象となります。年末調整の実施までに「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出しなかった社員は対象とはなりません。また、以下の条件を満たした場合においても、年末調整の対象にはなりません。
・給与・賞与等の収入が2,000万円を超える社員
・日本国内住所がなく、1年以上国内に居所がない社員
・複数の会社で働いており、別の給与支払者に対して「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している社員
・日雇い労働者など、同一の雇用主に雇用されていない社員
・災害に遭い、その年の給与に対する源泉所得税の徴収猶予または還付を受けた社員
・年度の途中で会社を退職した社員
また、以下に該当する場合は年末調整を行った後、確定申告をしなければなりません
・家族を含めた年間の医療費が10万円を超えた社員
・年間の医療費が合計所得金額の5%を超えた社員
・年度内に住宅ローンを組んだ社員(初年度のみ)
・ワンストップ特例制度を利用せず、ふるさと納税や寄付を行った社員
・自然災害や火災、盗難などの被害に遭った社員
「結婚した」「子どもが生まれた」くらいの情報であれば全社で共有しているかもしれません。しかし、社員一人ひとりがすべての条件に該当するかどうかを把握するのは不可能です。そのため、年末調整の時期が来たら、それぞれの条件の確認に必要な書類を各社員に準備してもらうよう、計画的な進行が大切です。
年末調整に必要な書類は?
では、年末調整に必要な書類にはどんなものがあるのでしょうか。
年末調整には「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」「給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」「保険料控除申告書」「住宅借入金等特別控除申告書」、以上の4点が必要です。
中でも、『給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書』は、昨年から新たに提出が必要となった書類です。
では、それぞれの特徴について解説したいと思います。
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
社員のほぼ全員に対して配布・記入してもらう書類です。当年度の年末調整用と、翌年度の年末調整用の2枚を配布し、社員に記入してもらい回収します。1枚は当年の扶養控除に関する情報を確認するために使用し、翌年度分は翌年の給与計算のために記入をしてもらうのが目的です。「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」で以下の情報が明らかになります。
・現住所の確認
年末調整を行う翌年の1月1日現在に住んでいる住所の確認をします。例えば、令和5年の「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」であれば、令和5年1月1日に住んでいる住所を記入してもらいます。
・扶養親族の有無の確認
結婚や離婚、出産によって家族構成に変化があったかどうか、記入された控除対象扶養親族が本当に控除の対象となるのかを確認します。婚姻届を提出していない同居者、いわゆる内縁関係の人物を勘違いで記入しているというケースもあるため、注意が必要です。
また、16歳未満の子どもには子ども手当が支給されるため、税法上は扶養控除の対象にはならない点も押さえておきましょう(障がい者は16歳未満であっても扶養控除の対象になることがあります)。特に、親になったばかりの新米パパ・ママは16歳以上の子どもの欄に間違えて記入することがよくあります。
給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書
令和2年から給与所得控除と基礎控除が改正されました。改正により、あらたに創設された「給与所得者の基礎控除申告書」「所得金額調整控除申告書」が、従来の「配偶者控除等申告書」の様式と1つの書類にまとまっています。
「給与所得者の基礎控除申告書」は、全従業員が記入する必要がありますので、書類の記入に迷う可能性が高くなります。令和2年の改正から3度目の年末調整になりますので、書き方が分からない従業員には、そろそろ覚えてもらいたい箇所です。
令和2年の大改正の変更内容は以下の4点です。
(1)給与所得控除が10万円引き下げられ、収入金額と控除額の上限が変更。
給与の収入金額の上限は1,000万円超から850万円超になり、給与所得控除の上限は220万円から195万円に変更になりました。
(2)基礎控除が最大48万円に引き上げられるが、控除額は所得金額に応じて段階的に変化。
合計所得金額が2400万円以下の場合、基礎控除は48万円に引き上げられました。
2,400万円超の場合は、段階的に控除額が引き下げられ、2,500万円を超えると基礎控除は対象外となりました。
(3)収入が850万円を超えると所得税が増税。ただし、条件に応じて所得金額調整控除が適用。
給与収入が850万円を超えても、
「本人が特別障がい者である」
「23歳未満の扶養親族がいる」
「特別障がい者である同一生計配偶者または扶養親族がいる」
これらのいずれかに該当する場合は所得金額調整控除が適用されました。
(4)配偶者控除および扶養控除の合計所得金額が変更。
源泉控除対象配偶者、扶養親族、同一生計配偶者、勤労学生など合計所得金額の要件がそれぞれ変更されました。
これら4点を網羅した申請書が「給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」です。
人事労務担当者はしっかりと記入方法を熟知し、社員にレクチャーできるようにしておきましょう。
保険料控除申告書
「保険料控除申告書」では、社員が1年の間に支払った生命保険料、地震保険料などの額を確認することができます。生命保険料、地震保険料などの支払い額を確認する理由は、その年に支払った保険料の全額、あるいは一部金額が給与所得から控除できるからです。保険料控除には後述の4つがあります。
生命保険会社、損害保険会社、共済等が発行する控除証明書について、2020年より電子交付サービスが始まっていますので、従業員が自分の加入する保険会社から電子控除証明書を入手し、会社に電子で提出する可能性があります。
もし、会社が年末調整の申告システムを用意していない場合、事前に対応していないことをアナウンスしましょう。また、電子控除証明書を発行している民間保険会社等は、限られています。国税庁のサイトに一覧が発表されていますので確認しておきましょう。
〈電子控除証明書を入手する2つの方法〉
①各保険会社等のホームページの、いわゆる「お客様マイページ」にアクセスし、証券番号等を入力してダウンロード
②自分のマイナポータルにアクセスし、マイナポータルを通じて、各保険会社の電子控除証明書を一括で取得
電子で取得した控除証明書を年末調整システムに取り込むことができる場合、従業員は、紙の控除証明書を会社に提出する必要はありません。また、会社側は、取り込まれた控除証明書の内容チェックが不要となります。
・生命保険料控除
生命保険料控除には「一般生命保険料」、「介護医療保険料」、「個人年金保険料」の3種類があり、一般生命保険料と個人年金保険料は平成23年12月以前に契約した「旧契約」と平成24年1月以降に契約した「新契約」に分けられます。それぞれの支払った保険料により、最大12万円まで控除が可能です。
・地震保険料控除
地震保険料だけでなく、一定の長期損害保険契約などに係る損害保険料も対象となり、5万円を上限とした控除が可能です。
・社会保険料控除
社員本人が本人又は社員と生計を一にする家族の負担すべき社会保険料を支払った場合に対象となります。国民健康保険料、介護保険料、国民年金保険料などが対象となります。
・小規模企業共済等掛金
小規模企業共済等掛金や個人型確定拠出年金、心身障害者扶養共済における保険料の全額が控除されます。
住宅借入金等特別控除申告書
「住宅借入金等特別控除申告書」とは、いわゆる住宅ローン控除と呼ばれるものです。社員がマンションや戸建などの住宅を購入、あるいは増築・リフォームを行ったことによる住宅借入金がある場合、一定の基準に基づいた金額を所得税から控除することができます。
住宅ローン控除には、入居日や購入した住宅の面積、所得金額など複数の条件があり、それらを満たした場合に受けることが可能です。
また、住宅ローンを受けた初年度だけ、社員が各自で確定申告をしなければなりません。2年目以降は会社での年末調整が可能になるため、「住宅借入金等特別控除申告書」を対象の社員に提出してもらいます。
これらの書類は基本的に、社員各自に書いてもらいます。そのため、記入ミスが頻出すると、年末調整の作業自体が停滞してしまうので注意が必要です。年末調整書類は毎年記入してもらう書類なので、若手の新入社員には書き方のレクチャーを行うと良いかもしれません。最近では、国税庁のホームページから記入例をダウンロードすることができるので、記入例も併せて配布することをおすすめします。
CHECK! 例年と異なる年調減税への対応手順を確認
まずはフローを確認しましょう
令和6年(2024年)は例年の年末調整のフローと異なるため、年調減税(定額減税)が適用される従業員を把握し、正しい手順で年末調整を行わなければなりません。
月次減税時の状況によらず、社員本人やその家族の12月31日時点の状況を元に、あらためて「所得税の定額減税対象者であるか」「定額減税対象者の場合、減税額はいくらになるか」を判断し、年末調整で年間の所得税額を調整します。
年調年税額の計算手順は下図の通りです。
年調減税での注意が必要な4つのケース
前述したように、今年の年末調整対応の鍵となるのが、定額減税対象者の確認と把握です。 最終的な所得税額の精算をするうえで注意すべき、主な従業員※のケースが以下の4つです。(※役員の場合も同様)
Case1 扶養家族が増加した従業員
◉新たに子供が生まれ扶養親族に該当することとなった (2024年12月31日生まれまで対象)
◉配偶者や扶養親族が退職し、同一生計配偶者や扶養親族に該当することになった
◉配偶者の育児休業復帰が延長となり、同一生計配偶者に該当することとなった 等
年調減税額は月次減税額に比べ 1人あたり3万円増加 ⇒ 還付が発生しやすい
Case2 扶養家族が減少した従業員
◉離婚により同一生計配偶者や扶養親族に該当しなくなった
◉配偶者や扶養親族が就職し、同一生計配偶者や扶養親族に該当しなくなった
※家族の死亡の場合は、死亡時点で要件を満たしていれば今年の同一生計配偶者や扶養親族に該当
◉配偶者や扶養親族の労働時間増加や昇給で、同一生計配偶者や扶養親族に該当しなくなった 等
年調減税額は月次減税額に比べ1人あたり3万円減少 ⇒ 徴収が発生しやすい
Case3 6月2日以降に入社した従業員
◉6月2日以降に入社した甲欄適用の従業員は月次減税で対象外だったため、年末調整時に年調減税を受けることになる(前職の源泉徴収票がある場合は必ず提出してもらう)
年末調整のみで減税される ⇒ 還付が発生しやすい
Case4 合計所得見積額が 1,805万円超になった従業員
◉給与所得以外の所得があり、定額減税の対象外となった
※合計所得見積額1,805万円超が見込まれていた方も月次減税では対象でしたが、年末調整では改めて12月31日時点の 状況で判断され、定額減税の対象外となる。
年調減税で対象外と判断されたため月次減税の全額が減少 ⇒ 徴収が発生しやすい
POINT! 源泉徴収票への記載事項を忘れずに !
年末調整を終えた後、源泉徴収票の摘要欄に「源泉徴収時所得税減税控除済額〇〇円、控除外額〇〇円」と記述する必要があります。
控除しきれなかった金額がない場合でも「源泉徴収時所得税減税控除済額〇〇円、控除外額0円」と記載します。
CHECK! ここ最近の改正内容をまとめて紹介
令和4年度の改正内容
(1)給与支払報告書の提出枚数の変更
これまで関係市区町村へ提出する「給与支払報告書」は2枚ずつ提出していましたが、令和5年1月1日以降提出分から提出する枚数は1枚となります
(2)成年年齢の引き下げ
民法の改正により令和4年4月1日から成年年齢が20歳から18歳に引き下げられました。「令和4年分 給与所得の源泉徴収票」は平成17年1月3日以降生まれの従業員の方は「未成年者」欄に「〇」を付けます。
令和5年度の改正内容
令和5年からは下記2点の改正が行われました。特に(1)ハに該当する場合は、大きな影響を受けることとなりますので、内容を確認しきちんと従業員に案内するようにしましょう。
(1)非居住者である扶養親族の扶養控除適用要件の見直し
今までは、「親族関係書類」と「送金関係書類(金額不問)」の提出があれば、非居住者を扶養にできたところ、令和5年の年末調整からは、30歳以上70歳未満の扶養親族について、必要書類が追加になり、扶養の要件が厳格になります。
扶養控除の対象となる扶養親族の範囲から、年齢 30 歳以上 70 歳未満の非居住者であって 次に掲げる者のいずれにも該当しないものが除外されました。
イ 留学により国内に住所及び居所を有しなくなった者
ロ 障害者
ハ 扶養控除の適用を受けようとする居住者からその年において生活費又は教育費
に充てる ための支払を 38 万円以上受けている者
海外に扶養親族がいる場合、多くの方に影響するのが、上記「ハ」の要件です。
これまでは、海外にいる扶養親族に年間1回でも送金した実績があれば、扶養の適用を受けられましたが、令和5年からは、年間38万円以上の送金実績を証明する書類の提出が必要になります。
(2)令和5年「扶養控除等(異動)申告書」の様式変更
「控除対象扶養親族」区分のうち「非居住者である親族」欄が変更となります。 「退職手当等を有する配偶者・扶養親族」欄が追加となります。上記(1)に該当する方には、特に分かりやすく説明するといいでしょう。
必要書類がそろったら年末調整を行い納税へ
必要書類がそろい、控除額などの数字が確定したら過不足額を算出します。
まずは1年間の総支給金額から給与所得控除額を計算します。
次に、扶養控除の対象となる人数に応じた控除額を算出し、前述した各申告書による控除額を引きます。
最後に、この金額に税率をかけ、正確な所得税額が判明したら、過不足の調整を行います。
源泉所得税の納付は、翌月10日(令和5年1月は、1月10日)です。年末調整により納付する所得税に、不足がある場合は「不足税額」欄に記載、超過していた場合は「超過税額」欄に差額を記入します。年末調整が終わったら税務署、市区町村に提出するための書類を作成します。必要な書類は源泉徴収票と法定調書合計表です。
源泉徴収票
源泉徴収票は社員に渡します。
また、以下に該当する場合は、1月31日までに税務署へ源泉徴収票を提出する必要があります。
・給与額が2000万円を超え確定申告をする社員
・扶養控除等(異動)申告書得を提出せず、給与額が50万円を超える社員
・年末調整をし、給与・賞与などの合計が500万円(役員は150万円)を超える社員
・退職した社員で年間の給与額が250万円を超えた社員
給与支払報告書
給与支払報告書は作成後、社員が1月1日に住んでいる市区町村に提出します。
年末調整が対象外の社員がいる場合でも、給与支払報告書は提出しなければなりません。給与支払報告書の提出期限も源泉徴収票と同じく1月31日です。
電子化により対応や説明が複雑に。早めの対策が肝要です
これまで、年末が近づくと保険会社や住宅ローンを組んでいる金融機関からハガキなどの書面で交付されていた控除証明書を、昨年から電子データで取得できるようになりました。社員はそのデータをそのまま会社に提出することが可能です。うっかり書面を捨ててしまったというような心配もなくなります。
また、令和3年1月1日以後の提出について、法定調書が100枚以上の事業者は電子提出が義務化されました。今後、電子化の流れは加速することが予想されます。電子化により社員の利便性が高まる一方で、会社は、様々なパターンへの対応や社員への説明が求められます。
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いかがでしたでしょうか?
年末調整に必要な書類や報告の流れの概要がお分かりいただけたかと思います。今年は特に定額減税の内容の把握が不可欠となります。
しかし、ここで説明したのは流れのほんの一部です。実務を行う際には専門的な知識や経験が必要となる場面が多くあります。
経営者が学び、実務を行うことは不可能ではありませんが、本来集中すべき業務の時間を割くことになります。社会保険労務士など新たに人事労務を任せる人材を雇うという選択肢もありますが、人事労務の業務をアウトソーシングするという選択肢も是非検討してみてください。
・人事労務にかかる時間を短縮、本来やるべき業務に集中できる
・人事労務担当者の退職や新たな人材の採用を心配する必要がない
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