令和3年7月の税務署の人事異動が終わり、例年であれば税務調査が多く行われる時期を迎えました。新型コロナウイルス感染症の影響によって国税当局の執務体制などにも変化が起きるなか、今年はどのように税務調査が行われるのでしょうか。
今回は、昨年のコロナ禍の税務調査の傾向を踏まえて、今後の調査に関する予測をご紹介します。また、税務調査に対応するために、経営者や企業が「今やっておくべきこと」もご紹介。「自分たちは大丈夫だろう」とお考えの方にとっても、会計・税務上で非常に大切な対策となりますので、ぜひポイントを押さえておいてください。
目次
コロナ禍の税務調査の実態
2020 年4月に1 回目の緊急事態宣言が発令された際、コロナ感染拡大防止の観点から、税務調査の多くが延期または中止となりました。同年9月23日に日本経済新聞社をはじめ各メディアで、翌月の10月から調査が再開されるという報道が出てからも、緊急事態宣言の再発令などで調査は控えられてきました。
これらの状況から、今後も緊急事態宣言が発令されれば、その期間中は新規の調査を控える傾向にあると考えられます。ただし、ワクチン接種が進むなどして、感染者数が減少傾向にあれば、税務調査が増加する可能性もあります。
実施された税務調査も、感染症対策を徹底〈現場レポート〉
1回目の緊急事態宣言で、新規の税務調査は基本的に中止されました。しかし、緊急事態措置の実施期間外に始まった調査では、調査人数を最小限に抑えたり、通常よりも広い部屋で調査を実施したりするなど、感染症対策に細心の注意を払っている様子が見て取れました。
今だからやっておくべきこと
「コロナで税務調査は減っているし、うちには来ないだろう」と楽観視している経営者の方もいらっしゃるかもしれません。しかし、長期未接触法人(10 年などの長期間、税務調査を受けていない法人)等は調査対象になりやすい傾向がありますし、その他様々な要因で調査対象に該当する可能性があります。「税務調査は、いずれ来る」と考えたほうがよいでしょう。
調査対象となりやすい法人例
● 長期未接触法人(10年以上など、長期間、税務調査を受けていない法人)
● 周期該当法人(過去に不正があったなどの理由で、一定周期で調査される法人)
● 特定業種法人(国税当局が重点的に調査を行うとした業種の法人)
● 好況業種法人
● 財務分析により、分析比較の異常が見られる法人
そこで、調査数が少ない今の時期だからこそ、やっておくべきことがあります。それは、“書類の整理” です。以下のような項目をチェックして、帳票や領収書・請求書などの証憑書類を整理しておきましょう。
書類整理の際のチェック項目例
● 売上、仕入の資料は最新のものになっているか
● 帳簿と領収書がきちんと紐づいているか
● 交際費の領収書に、人数や取引先名は記載してあるか
● コロナ対応などに追われて、ファイリング漏れや、経理へ提出が漏れてしまっている書類はないか
また、仕訳を行う際には、取引先や具体的な取引内容を摘要欄に記載することが必要です。特に、税務調査で重要視される“接待交際費” について、たとえば商品券や贈答品を購入した場合は「誰に(会社名や相手氏名)、何を渡したか」を総勘定元帳に必ず記載しましょう。
さらに証憑書類は、調査の際は最低3 年間分をすぐに取り出せるよう整理して保管しておくことが大切です。そうすることで、税務調査だけでなく、日常的な処理業務もスムーズに進められます。
逆に、書類に不備がある場合は、税務調査でさまざまな問題が発生します。たとえば、使途を明記していないと、「使途不明金」とされて税務署は経費として認めてくれません。そして、もし100 万円分の商品券を購入して使途を明記していても、領収書が80 万円分しかなければ「証拠がないので、残りの20 万円分は経費として認められない」ということになります。
経費で認められないばかりでなく、法人税法はさらに重いペナルティーを課しています。相当な理由がなく、相手方の氏名及びその事由を帳簿書類に記載していないものについては、通常通りの法人税だけでなく、さらにその支出額の40%相当額の法人税の追徴課税が行われます。さらに、使途不明金であるにもかかわらず、ほかの科目と偽って計上する等不正事実がある場合、悪質とみなされ重加算税の対象になることもあります。
書類を適切に整理するためには、現状を見直すことに加えて、社内のルールや仕組みづくりも非常に重要です。税務調査では基本的に過去3年分の書類を確認しますが、3 年前の書類に不備があった場合、当時のことを詳細に思い出すのはむずかしいと思います。記載漏れの期間が長くならないうちに、領収書をしっかり管理し、日頃から記帳のくせをつけておくことが肝要です。
未来の税務調査に備えて課題やリスクを洗い出しましょう
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