あなたの会社に、いつ税務調査が入るのかご存じですか?
確定申告が終わり、忘れた頃にやってくる税務調査。いつあるのか、時期による違いがあるかなど、準備するために知っておきたいところです。どのタイミングで税務署のチェックを受けるのか知らないと、通知が届いてから焦って準備をすることになるでしょう。
また準備といっても、書類の整理や調査に立ち会う応対者の選定など、やるべきことは少なくないため、その辺りを把握しておくことも大切です。
そこで今回は、法人に対する税務調査の時期と、時期による違いや調査頻度・税務調査の対策などについて紹介します。さらに、必要書類や事前準備の内容もまとめて解説しますので、ぜひご一読ください。
目次
税務調査には「任意調査」と「強制調査」の2種類がある
まず基礎知識として押さえておきたいのは、税務調査には2つの種類がある、ということです。1つ目は通常の調査である「任意調査」、2つ目は脱税金額が大きい疑いのある場合など、悪質な納税者に対する調査である「強制調査」です。
税務署が行なう「任意調査」
任意調査とは、管轄の税務署に属する調査官が事務所を訪問し、調査対象者に質問したり、税務関連の書類をチェックしたりする調査のことです。
通常、税務調査を行ないたい日の2週間ほど前に、会社とその会社の顧問税理士に電話で事前連絡があり、そこでいつ税務調査を行なうかの日程調整をします。
任意調査においては、調査に応じるかどうかは「任意」であるため、拒否することも可能です。しかし、税務署は税法に基づく調査権限を行使して調査を行なうので、正当な事由なく拒否した場合、何らかの罰則が科される可能性があります。そのリスクを踏まえると、調査を拒否するメリットはないでしょう。
法人であれば、任意調査は4~5年に1回のペースで実施されますが、不正の疑いがあることを前提に行なわれるものではないため、あまり気負う必要はありません。なお、一般的に「税務調査」といえば任意調査を指すので、今回の記事でもその前提で話を進めます。
国税局が行なう「強制調査」
強制調査とは、税務署の上部組織にあたる国税局査察部(マルサ)が担当する、事前連絡なしで実施される調査のことです。
裁判所の令状に基づく強制力を持つ調査であり、脱税の疑われる納税者が対象になります。この調査は、目安として脱税額が1億円を超えていて、悪質な隠蔽工作が行なわれた疑いがあり、なおかつある程度証拠を押さえたうえで行なわれるもので、拒否することはできません。
強制調査によって脱税行為が立証された場合、検察庁に告発されたのち、刑事事件として処理されることになります。強制調査の対象は年間200件弱ですが、近年は国際取引やタックスヘイブンを悪用する手口も増えています。
税務調査の時期に決まりはないが、おおむね7月~12月が多い
税務調査の時期や頻度に、明確な決まりはありません。会社の規模や業績、業種などで周期は異なり、毎年税務調査が入る会社がある一方で、何十年も調査官がやって来ない企業もあります。
ただし、税務調査が入りやすい時期としては、その法人の決算期に基づく以下の目安があります。
● 決算期が2~5月の法人:7~12月が多い
● 決算期が6~1月の法人:1~6月が多い
3月決算の法人が大多数であるため、調査は7~12月に集中します。また、7月から書類の審査が始まるので、実際に会社を訪問する実地調査は9~12月頃に行われる傾向にあります。「税務調査は秋が多い」といわれるのはこのためです。
調査が7月という中途半端な時期に始まる理由は、税務署の人事異動の内示が6月末にあるためです。
税務署では、3月半ばに締め切られる確定申告の事務処理が落ち着く6月末頃に人事異動が発表され、7月から新体制での業務が始まります。つまり、税務署の体制が整う7月に、税務調査の本格的な開始を合わせているのです。そして、翌年の1~3月は再び確定申告の時期です。この時期の税務署はとても忙しく、税務調査はほぼありません。
しかし、上記の傾向には例外もあります。例えば、税務署が決算書や申告書を審査して疑わしい動きが見られた場合などは、時期に関わらず調査(前述した強制調査)が入ることもあるので、注意が必要です。
このほか、創立したばかりの会社は2~3年で倒産してしまうケースが多いため、中小企業では3年目以降に税務調査が入るともいわれています。実際には過去3~5年の書類を求められるため、創立後しばらくしてから調査対象に選ばれるかもしれません。反対に2年目から大幅な黒字で経営する会社には、すぐに税務調査が入る可能性が高いでしょう。
税務調査の時期による調査内容の違いはない
調査時期は法人の決算期に基づいて決まるため、調査時期による内容の違いは基本的にはありません。ただし、4~6月の税務調査は、「確定申告後は、すぐ人事異動がある」という税務署の都合上、1件1件の調査が短期間で終わるよう、重点を絞った調査になる傾向があります。法人の規模も、小規模なものが比較的多くなります。
この時期に税務調査を受ける場合は、7月以降に調査を持ち越させないように、調査官に協力する姿勢を見せるとスムーズに進みます。
税務調査の頻度は中小企業なら3年に1度が目安
税務調査が入る頻度に、特に決まりはありません。毎年調査が入る法人もあれば、10年単位で調査が入らない法人もあります。ただし一般的に、1度の税務調査で3年分の調査を行なうので、中小企業であれば3年に1度が頻度の目安になります。
また税務調査には、突き止めた申告漏れの額に関するノルマはありませんが、申告漏れの額が大きい可能性がある法人から調査を行なうため、小規模な企業はもっと調査頻度が低くなります。そのため、小規模法人は5、7、10年が頻度の目安といわれています。
税務調査の対象になりやすい法人の特徴
税務調査の対象になりやすい法人にはさまざまな要素がありますが、良い意味でも悪い意味でも、目立つ法人には優先的に税務調査が入るのが現状です。
そこで、調査対象になりやすい法人の特徴をまとめました。
● 長期間税務調査を受けていない法人
10年間など長期にわたって税務署が未接触である法人は、税務調査を受けやすい傾向にあります。
● 比較的大規模な法人
事業の規模が大きくなれば、法人税以外にも消費税や源泉所得税といった調査事項も多くなります。売上や仕入が多かったり、大幅な黒字で納税額が増えたりした場合には、注意が必要です。
● 過去の税務調査で不正があった法人
過去に不正をしていた企業、あるいは不正があった企業と取引をしていた企業も、税務調査が入りやすくなります。
● 売上と利益の相関関係が不自然な法人
売上が大きく伸びているのに、利益率が減少しているといった場合、税務調査の対象に選ばれる可能性が高まります。
● 同業他社と比較して利益率が低い法人
税務署は業種ごとにデータを蓄積しているため、他社と比較して不自然な数字がある場合、調査対象になりやすいでしょう。
● 消費税の還付を受けた法人
不動産や機械設備などの固定資産を購入し、多額の消費税を支払った場合、その消費税が還付されるケースもあります。このようなレアケースが発生した際にも、税務調査が行なわれやすいでしょう。
● 少額の赤字が何年も続いている法人
何年も赤字続きであるにもかかわらず、事業の資金繰りがスムーズに進んでいる場合、帳簿の操作などの不正を疑われ、税務調査の対象になりやすいでしょう。
● 目立つ動きがあった法人
テレビで紹介された飲食店、派手な宣伝をしている会社、FXやアフィリエイト、仮想通貨などの流行商材を会社規模で運営している企業など、これから売上や事業規模に大きな変化がありそうな法人も、税務調査の選定先の候補となります。
もし自社に当てはまる特徴があれば、事前に備えておきたいところです。
税務調査のために準備すべき必要書類
税務調査の必要書類については、調査官のほうから指示されることもあれば、指示されないケースもあります。法人の税申告をもとに調査が行なわれるため、帳簿以外にも関連する書類はすべて準備しましょう。
具体的には、以下の書類を3年分まとめて、すぐに出せるようにしておく必要があります。ただし、調査官から古い書類の閲覧を求められるケースもあるため、調査当日までに保管義務のあるすべての書類を整理しておきたいところです。
売上に関する帳簿書類
総勘定元帳や現預金出納帳のほか、取引がある金融機関すべての預金通帳や小切手帳も準備します。また、欠損金の繰越期間内であれば、欠損金が生じた事業年度の帳簿書類も必要です。
このほかに、売掛・買掛の台帳や固定資産台帳なども準備しましょう。
【おもな書類一覧】
● 総勘定元帳
● 現預金出納帳
● 小切手帳
● 出金伝票
● 請求書
● 見積書
● 受注書の控え
● 売掛帳
仕入や経費に関する書類
各種経費支払いの根拠となる領収書や旅費精算書は、現預金出納帳と付け合わせて確認されるため、必ず準備しましょう。交際費等支払いの根拠になる稟議書なども必要です。
このほかには、仕入・売上に関する納品書や請求書はもちろん、売上金の回収に使用した領収証の控えもそろえておきます。会社で発行する領収証は、使用済みの受払状況と、未使用分の在庫が確認されることもあるので、受払簿があれば準備しましょう。
【おもな書類一覧】
● 旅費精算書
● 支払い領収書
● 稟議書
● 納品書
● 請求書
● 発注書
● 買掛帳
雇用・労務に関する書類
給与台帳や、源泉徴収・年末調整等の関連資料は必ず準備しましょう。併せて、給与支払い明細等もそろえておくとスムーズです。
また、社員名簿や勤怠の根拠となるタイムカード、雇用契約に関する書類、外注・請負等の契約区分を示した書類などもそろえておきましょう。外注や請負に関して源泉徴収を行なっている場合は、源泉徴収に関する書類も必要です。
退職金の受給に関する申告書などもあれば、準備しましょう。
【おもな書類一覧】
● 源泉徴収簿
● 扶養控除申告書
● 出勤簿もしくはタイムカード
● 雇入関係書類
● 退職給与受給申告書
組織に関する資料
会社の概要を税務調査官へ伝えるために、会社のパンフレットや全部事項証明書(登記簿の写し)のほか、会社の概況を示す書類を準備しましょう。
【おもな書類一覧】
● 会社案内
● 全部事項証明書
● 組織図
● 社員名簿
契約に関する書類
法人名義の賃貸契約書やリース契約書、団信保険等の生命保険証書、不動産売買契約書などをそろえておきましょう。掛金などの支払いがあれば、現預金出納帳とリンクさせて説明できるよう準備しておくことをおすすめします。
【おもな書類一覧】
● 賃貸契約書
● リース契約書
● 生命保険証書
● 不動産売買契約書
その他の書類
ここまでに紹介した書類のほか、以下のような書類を求められるケースもあります。
● 法人税の納付書控え
● 源泉所得税の納付書控え
● 資産関係の契約書
● 預金残高のわかる通帳
● 手形帳
税務調査の前に済ませておきたい事前準備
帳簿や書類の整理以外にも、税務調査当日までにやっておいたほうが良い準備がいくつかあります。
調査応対者の選定
調査当日に立ち会うのは誰なのか、社内できちんと決めておきましょう。社長はもちろん、経理担当者も当日の動きをシミュレーションしておくべきです。
例えば、経営上の質問は社長が答えて、経理の質問には経理部長が回答するといった役割分担を事前に決めておくと、スムーズに話が進みます。また、書類の提示を求められたときに、売上に関する書類はAさん、雇用関係の書類はBさんが担当するといった方法もあります。
体制の整備
税務調査の準備を機に、日常業務における経理の体制を整備してください。現状の経理体制に不安があれば、税務調査当日には調査官から指摘が入る可能性が高いでしょう。日々の業務が忙しくて体制の整備を行なえない場合、税理士に相談してみることをおすすめします。
備品の整備・処分
現場確認調査があるのも、税務調査の特徴です。金庫やロッカー、事務の机、社長もしくは経理担当者のパソコンの中身などは、見られても困らない程度に整備しておきましょう。
ただし、「ここだけ見てください」といった形で調査を依頼することはできませんので、注意が必要です。
帳簿や伝票の書き込みチェック
書類をまとめておくだけではなく、鉛筆によるメモが入っていないかまで確認しましょう。特に数字のメモがあると、不正を疑われる可能性があります。
また、帳簿にふせんが貼ってあったり、メモ用紙が挟まっていたりすることもあるので、紛失等にも注意してください。
税理士への相談
税務調査で一番避けたいのが、申告内容に対して調査官から指摘が入ることです。専門的な見解が必要な申告内容だと、社内の人間では事前に気付くことが難しいでしょう。
顧問税理士がいれば問題ありませんが、会社で税理士を雇っていない場合は会計事務所に問い合わせたほうが良いケースもあります。
税務調査に関するお問い合わせ(無料)はこちらからお申込みできます。
税務調査の時期や準備に関するよくあるQ&A
税務調査の時期や準備に関して、以下のような疑問が出てくることがあるでしょう。
● 税務調査の事前準備期間はどれくらいある?
● 高頻度で税務調査が来るケースもある?
● 税務調査の必要書類(領収証や請求書など)を紛失した場合どうする?
● 不定期の税務調査に万全の状態で臨むには?
これらの疑問に対する回答をQ&A形式でまとめたので、ぜひ参考にしてください。
税務調査の事前準備期間はどれくらいある?
税務調査の準備期間は、短ければ約2週間、長ければ約2ヵ月間です。 税務調査の連絡が入ると、調査日を決めるところから始まります。
調査期間は2~4日間が目安であり、社長や立ち会いの税理士の都合によって日程調整が可能です。会社の事情を優先しても問題なく、それを理由に調査が不利になることもありません。税務署から日時を指定される場合がありますが、その日に無理をして合わせる必要はありません。
高頻度で税務調査が来るケースもある?
税務調査の頻度・周期について断言はできませんが、税務調査が高頻度で来るケースもあります。
例えば、過去に重加算税を課されたことがあると、すぐに次の調査が来ます。重加算税とは、いわゆる仮装・隠ぺいによって税額を過少申告したときに課される税金です。もし、重加算税を課された経験があると税務署サイドから「この会社は信用できない」と悪い印象を持たれてしまうため、調査に来る可能性が高いでしょう。
また、前年に比べて売上の急増または急減がある場合や所得が極端に少ないなど、税務署が見て異常だと思われるような申告をしている会社も要注意です。叩けばホコリが出そうということで、調査が来やすくなります。
さらに、過去の統計で不正がよく見つかる業種(パチンコ店・廃棄物処理業・水商売・風俗業・土木建設業など)は、税務調査が来やすいとされています。したがって、上記の業種の場合は一層注意が必要です。
しかし、いずれにせよ税務調査に来られても、適正に申告していれば何の問題もありません。税務署に疑われるような不正行為を行わないようにすることが大切です。
税務調査の必要書類(領収証や請求書など)を紛失した場合どうする?
税務調査の必要書類を紛失してしまった場合には、以下の2パターンのいずれかで対処します。
一部を紛失した場合の対応
● 再発行を依頼する
請求書に関しては、相手企業に再発行を依頼します。当然ながら相手企業に迷惑がかかってしまうため、きちんとお詫びの連絡を入れておきましょう。
領収証などについては、発行時のコピーなどをもらえる可能性がありますが、コンビニやスーパーのレシートではそれはできません。
● 領収書や支払いの証明書の発行を依頼する
相手企業に入出金の根拠となる書類が残っている場合、その書類のコピーや支払い(領収)証明書を発行してもらうのも一つの方法です。ただし、相手企業からすれば自社の会計書類を外部に漏らすことになるので、断られる可能性もあります。
相手企業に受諾してもらうためにも、きちんと事情を伝えることが大切です。
● 入出金伝票のコピーを添付して、支払証明書を作成する
経理で出納処理をした際の入出金伝票のコピーを添付するほか、出納日・内訳・金額などを記載した支出証明書を作成することで、調査をクリアできる可能性もあります。
大半を紛失した場合の対応
入出金の根拠となる書類がない場合には「使途不明金」として処理せざるを得なくなるため、できる限り税務関連の書類を探し出すことが重要です。領収書などがない部分の支出に関しては、経費計上を諦めて修正申告するのも選択肢です。
修正申告をすれば、過少申告加算税や重加算税などのペナルティを回避できます。税務調査が行なわれるからという理由で、焦って「雑損失」や「雑収入」などに振替すると、脱税や所得隠しを疑われかねないので避けましょう。
税務調査の遡及年数が7年だと言われている根拠とは?
税務調査の対象となる「帳簿書類」ですが、事業年度の確定申告書の提出期限翌日より7年間の保管が義務付けられています。
帳簿書類の対象は広く、会計に関する書類はすべて、棚卸表や注文書、契約書など売上に関する書類のほか、貸借対照表や損益計算書なども7年間保管しなければなりません。
帳簿の保管期限は7年間ですので、それ以上の帳簿を遡及することはありません。また、過去7年にさかのぼっての税務調査は、大企業の場合や悪質な脱税の手口が見つかった場合がほとんどです。タイトルにもある「7年の根拠」は、帳簿の保管期限に関係すると考えるとよいでしょう。
不定期の税務調査に万全の状態で臨むには?
税務調査の事前準備をきっちりやろうとすると、かなりの時間がかかります。最短約2週間という短期間のうちに、どれだけ万全の準備できるのかは、会社の規模や人員によって異なるでしょう。最低でも3年分の帳簿や書類をまとめ、当日のシミュレーションをしておくと、焦らなくて済みます。
さらに、準備の段階で税理士と打ち合わせをしておけば、万全な状態で税務調査の日を迎えられるでしょう。
税務調査は、しっかりとした準備を行なうことが重要です。TOMAコンサルタンツグループでは、国税局OBが数名在籍している強みを活かし、具体的な事例や最新の税務調査事情と対応の秘策に関するセミナーを実施しています。
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まとめ
税務調査は「任意調査」と「強制調査」の2種類があり、一般的な法人に対して行なわれるのは前者です。任意なので拒否することも可能ですが、罰則のリスクを考慮すれば、きちんと受けておくべきでしょう。
ほとんどの法人は3月決算であるため、税務調査は7~12月にかけて実施されますが、例外的に1~6月が調査時期となるケースもあるため注意が必要です。
また、事業規模が大きい、過去に不正があった、同業他社より利益率が低いといった法人は、税務調査の対象に選ばれやすい傾向にあります。もし当てはまる特徴があるなら、必要書類や調査応対者などをしっかり準備したうえで、万全の状態で税務調査に臨みたいところです。
税務調査に疑問や不安を抱えている場合には、TOMAコンサルタンツグループが提供する「税務調査立会サービス」や「税務リスク無料診断サービス」をご利用ください。経験・ノウハウが豊富な税理士が的確にサポートするため、税務調査に関する問題もスムーズに解決できるでしょう。