日本企業の9割以上を占め、日本経済を支える中小企業。現在、多くの中小企業が抱える問題のひとつに、事業承継があります。事業承継の失敗は、廃業・倒産の道を辿ることになり、技術や雇用の喪失に繋がるため、社会問題として取り組まなければならない重要項目です。今回は、中小企業が抱える事業承継問題と、事業承継の方法をご紹介します。
中小企業に差し迫った事業承継問題
事業承継には、「誰に引き継ぐのか」「どうやって引き継ぐのか」という大枠の課題と、それに付随して取り組むべき細かい課題が多くありますが、最も大きな問題といえば、入口である「誰に引き継ぐのか」という「後継者の選択」でしょう。
現在、中小企業は「後継者不在問題」に直面しています。
2017年版中小企業白書によると、中小企業の約30%が、後継者の決まっていない状況です。これは、経営者に子がいない、子や親族に事業を継ぐ意思がない、候補者はいても、経営者としての育成ができていない等が大きな理由です。
また、社員の中に相応しい人材がいても、その社員にも継ぐ意志がない、継ぐ意志はあっても、譲り受けるための資力不足を解決できないといった理由もあります。この結果、事業承継は進まず、廃業を余儀なくされる企業が発生しています。(中小企業庁調査室「2017年版中小企業白書 概要」)
これに加え、中小企業の多くは、経営者の高齢化という問題も抱えています。どんなに能力の高い経営者でも、老いから逃れることはできないため、事業を継続させるには、誰かに引き継がなければなりません。
仮に社内の誰よりも元気に働いていても、突然の病に倒れる可能性は年齢とともに高まりますし、認知症等による判断力低下の恐れもあります。
事業承継における後継者問題は、経営者の高齢化にともなう、まさに差し迫った問題であると言えるでしょう。
団塊世代経営者の高齢化
経営者の高齢化の中でも、忘れてはいけないのが、団塊世代(1947~1949年頃の第一次ベビーブーム世代)です。団塊世代は、日本の人口割合の頂にいる世代であり、経営者の割合で見ても、全体の11.3%を占めています。
(帝国データバンク 「全国社長分析2017」)
この団塊世代が65歳を迎え、定年退職することで日本経済の活力低下が懸念された「2012年問題」は、事業承継の側面でも同様に問題視されました。しかし、具体的解決には至らないまま「2017年問題」にスライドされ、団塊世代の経営者は、とうとう70歳を超え、事業承継問題はますます加速しているのです。
事業承継方法の選択
差し迫った事業承継問題に、もはや猶予はありません。
後継者を見つけ出すか、他の方法を探すといった行動を起こさなければ、事業の継続は不可能です。ここで、現代の事業承継方法の主軸とされる、3つの承継方法と、その承継に必要な課題をみていきます。
親族内承継
約20年前までは、親族内継承が一般的で、約9割を占めていました。ですが、少子化や高度成長期のような伸びを期待することが難しい現代では、親族内継承の割合は減少傾向にあります。
(中小機構 「中小企業経営者のための事業承継対策」)
親族内承継は社内外の関係者から心情的に受け入れられやすく、技術の継承や経営者としての教育も段階的に進められ、資産も相続等で移転できるなどのメリットがあります。
ただし、相続人が複数いる場合は配慮が必要です。
特に資産のほとんどが自社株の場合、後継者に株式を集約し経営権を譲るためには、それ相応の準備・対策を講じなければ、相続問題が発生し、事業承継が困難になります。このような問題で事業承継が立ち止まらないために、中小企業経営承継円滑化法による金融支援や、遺留分に関する民法特例などの支援策がとられています。
親族外承継
親族に限らず、有能な社員や役員、関係者を後継者に考える親族外承継の方法もあり、現在では3割程度を占めています。(中小企業庁調査室「2017年版中小企業白書 概要」)
業務に精通していて経営者として教育しやすい、社員の理解が得られやすいなどのメリットがあります。
ただ一般的に、社員は後継者となることを想定して入社していないため、事業承継のためには、早めのアナウンスが必要です。また、親族以外に事業を承継するため、親族の理解を得るためにも方策が必要です。
そして、一番の課題は自社株を買い取るための資金力です。これらの問題にも中小企業経営承継円滑化法の支援があります。金融支援措置については、日本政策金融公庫による融資を受けられる場合がありますし、遺留分に関する民法の特例は、平成28年4月から、親族外にも適用できることになりました。事業承継税制でも支援があります。
また、後継者の能力や事業の将来性を担保として金融機関の融資を受け、MBO(後継者となる経営陣が株式を取得して、経営権を取得する)を実施する方法も考えられます。
親族外承継(M&A)
親族内外に後継者が見当たらない場合の、第三の事業承継方法として注目されているのがM&Aです。
直訳が「合併と買収」であることからマイナスイメージを持つ方もいますが、日本では株式譲渡の方法による「買収」がほとんどのため、リストラ等の心配も少なく、中小企業庁でも、「M&Aは社外に後継者を求める事業引継ぎのひとつであり、日本では中小企業の友好的M&Aが増えてきている。」と「事業引継ぎハンドブック」で紹介しています。
身近なところに見当たらない後継者を広く探すことができる、経営者が株式の売却利益を得られる等メリットがありますが、マッチングに時間がかかる、M&A検討中に従業員や取引先に漏れることで、思い通りに計画が進まない場合があるなどのデメリットもあります。
ただし、これらのデメリットは、M&A以外の選択肢でも課題となりますから、どの選択をしても、事業承継には余裕を持った対策が必要であると言えそうです。
以上、中小企業に多い事業承継問題について紹介しました。
事業承継を成功させる秘訣
事業承継は経営者として最後のテーマであり、力を入れるべき課題ですが、どの承継方法をとるにしても、時間と労力を費やす大仕事です。ただでさえ忙しい経営者が、1人で現状を洗い出し、計画し、法律や支援について習得し進めることは困難ですから、できる限り早い段階で専門家へ相談することをおすすめします。
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事業承継に関する情報を収集する方法
事業承継に必要な知識は多岐にわたり、絶対的な正解がなく企業ごとに最も良い事業承継の形があります。そのため、外部から情報を集めることの重要です。
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