改正された電子帳簿保存法により、2024年1月1日から電子取引のデータを保存することが完全義務化されました。取引年月日、取引金額、取引先の範囲指定などの検索要件を満たした上でシステムに登録しなければならず、作業工数が増えているという企業は多いようです。
今回は電子帳簿保存法への対応に割ける人的リソースが圧倒的に不足している状況を打開するために、RPAとAI-OCRを導入した事例をご紹介します。現在も電子帳簿保存法の処理を手作業で行なっている企業はぜひご一読ください。
目次
電子帳簿保存法の改正により月2000枚の書類を手作業で処理
今回のお客様は従業員約350人の中小企業で、計測機器の開発や製造、販売を行っているお客様です。電子帳簿保存法改正への対応策を検討した結果、RPAを使用した自動化が最善策という結論に至り、TOMAへご相談をいただきました。
お客様の会社では請求書、見積書、注文書、納品書、支払い通知書、そして製品の輸出入にかかる書類などの帳票があり、概算で月に約2000枚の処理が必要でした。手作業でシステムに入力し、規定のフォルダに格納するという一連の作業を試しに行なってみると、1件につき5分~10分かかることがわかりました。
これは月に換算すると、約300時間とフルタイムの社員およそ2人分の労働時間が必要でした。
RPAを導入するか否かのチェックポイント
今回のお客様はRPAの導入を選択しましたが、RPAのコンサルティングを行なっていると導入するタイミングや、費用、効果について質問されることが多いです。今回の事例を元に、導入するか否かを判断するポイントを解説します。
【人件費】
まず気になるのは費用面です。今回の事例では、フルタイムの社員2人分の業務が発生します。
年収400万円の正社員を一人雇うとすると給与、社会保険料、福利厚生費などで年間500万円強の費用が発生します。2人雇えば倍です。もちろん、採用までにかかる費用や教育費も考えなければなりません。
フルタイムのパートを2人採用する場合、年収200万円だとしても5〜600万円かかるのではないでしょうか。
【ヒューマンエラー】
人間の作業はどれだけ注意を払ってもミスが発生します。ミスをゼロにしようとすれば2重チェック、3重チェックをしなければならず、作業効率はどんどん悪くなります。
ミスの発生しやすい単純作業が多くある場合はRPAの導入がおすすめです。
【生産性のない業務】
電子帳簿保存は法律で定められた、一定規模以上の企業が必ず行わなければならない作業ですが、帳票の入力・格納作業は全く生産性がありません。
【福利厚生・労務トラブル】
人間を雇う場合、パワハラやセクハラをはじめとする労務トラブルの発生リスクがあります。また、有給休暇が年10日以上付与されている場合、年5日は取得させる義務があったり、突然の病気で欠勤したりと働ける時間にも限りがあります。
【離職の可能性】
やっとの思いで採用し、仕事を覚えさせてもすぐに辞めてしまう可能性があります。近年は仕事に「やりがい」を求める傾向があります(※)。そのため、生産性のない仕事を延々と続けさせても長続きしない可能性があります。
(※)参考:アイデム社、人と仕事研究所「2023年4月 イーアイデム会員対象アンケート結果~求職者の8割以上が仕事を通じてやりがいを求める~」
人材採用の懸念点をクリアするRPA
上記のポイントを全てクリアできてしまうのがRPAです。まず費用面は後ほど詳しく解説しますが、今回の導入にかかる年間費用は300万円弱です。もちろん、RPAには教育費や採用費、賞与なども必要ありません。
次に、エラーが圧倒的に少ないのがRPAのポイントです。自動化の途中でエラーが発生した際にはアラートが出るので、人間はエラーが発生した書類だけをチェックすれば問題ありません。
そして、生産性のない単純作業を延々と繰り返せるのがRPAの強みです。労務トラブルもなく、24時間働いても文句を言いませんし、退職リスクもありません。今回の事例では帳票の自動入力は社員が帰宅した深夜に行われるため、夕方までに格納した書類が翌朝には全て入力されている状態に設定しました。
月に何枚の入力作業があるとRPAの導入がおすすめ?
今回は月に2000枚の帳票がありましたが、「そんなに枚数はない」という企業も少なくないと思います。今回のように帳票の自動入力であれば、RPAに特化した専門家の見解として
月に200枚以上の入力があるならRPAを導入するべきです
意外と少ないと感じるかもしれませんが、理由はいくつかあります。まず、200枚を超えてくると、社員数名が関わる作業になるからです。当然ミスの確率が上がりますし、作業を「やった、やってない」という確認作業も発生します。そして、新人が入社したら教育時間も取られます。生産性のない作業がストレスになるのは避けるべきです。
RPAの導入で、年間3600時間の工数削減に成功
今回の事例では、RPAとAI-OCR(PDFや画像に書かれている文字を認識し、テキストデータに変換する技術)を用いて自動化を行いました。担当者は請求書などをはじめとする書類を発行・授受したら規定のファイルサーバーに格納しておきます。
RPAが所定の時間になると起動し、格納された書類データをAI-OCRを用いて読み込みます。読み込み結果を電子帳簿保存対応のシステムに入力、PDFを保存して完了です。人間の作業はPDFを指定のフォルダに格納するだけ。年間3600時間の工数を削減することができました。
融通の効かなさがAI-OCR唯一の弱点
今回の導入で読み込む書類は請求書、見積書、注文書、納品書、支払い通知書、輸出入の書類の全部で6種類。それぞれ3〜6パターンがあり、合計30種類の読み込みパターンを作りました。
なぜ30パターンも作らなければならないかというと、取引先によって請求書の様式が異なるからです。
・合計金額が書いてある場所
・企業名が書いてある場所
・商品名が書いてある場所
これらは請求書によって違うので、1枚1枚全てのパターンを作成しないとAI-OCRは機能しないのです。人間は書類をパッと見て商品名などを認識できますが、AI-OCRは書類の読み込む場所を全て指定しないといけません。これはAI-OCR唯一の弱点と言ってもいいかもしれないです。
取引先が増えたり、帳票の形が変わったりすると、再度登録が必要です。TOMAのRPAコンサルティングサービスでは、導入後にお客様自身で登録・変更ができるように指導しますのでご安心ください。
RPAとAI-OCRを使用した電子帳簿保存対応システムへの自動登録の導入にかかる費用は約23万円/月
今回の導入にかかる費用の内訳は以下になります
・RPA 約8万円/月
・AI-OCR 約5万円/月
・クラウドシステム 約10万円/月
保守費用も含めて月に23万円程度です。年間で約276万円と、パートをフルタイムで2名雇うよりも圧倒的に安価です。
事例のお客様の会社ではクラウドシステムを導入していなかったので、クラウドの費用がかかりましたが、すでに運用しているクラウドシステムがある場合、そのシステムとRPAが連携できればシステム費用はかかりません。また、月に処理する書類の枚数が少なければその分費用は安くなります。
まとめ
今回の導入までにかかった期間はシステムの選定に2ヶ月、ヒアリングに1ヶ月、シナリオ作成に2ヶ月、運用に1ヶ月と約半年で導入することができました。近年ではインボイス制度も始まり、経理の負担は年々増えています。いまだに電帳法を全て手作業で行なっている企業や、まだ完全に対応できていない企業は一度RPAの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
今回紹介したRPA導入支援に関するサービスの詳細はこちらになります。
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