近年の営業は個人の人柄や勘を頼りにしたものではなく、マーケティング部門をはじめとするチームが集めた「顧客情報」を一元管理し、各部門が一体となり予算達成を目指す形に変化しています。それをサポートするのがMA・SFA・CRMといった営業管理ツールです。ところが、同じような機能が備わっているため、3つのシステムは混同されがちです。今回は、それぞれのツールの特徴や違いを解説します。
目次
そもそも営業管理ツールはなぜ開発されたのか?誕生の背景は?
SFAやCRM、 MAといった営業管理ツールは、1980年代後半に欧米で生まれたシステムです。欧米における営業活動はマーケティングの一部と考えられています。世間の流行や顧客の情報を分析し、組織的に営業活動を行うのが一般的です。
また、職場にパソコンが普及し、オンライン環境が広がり始めたことも営業管理ツールの採用が広がった一因と考えられています。
また、オンライン環境が整備されることによりビジネスはよりグローバルに展開されるようになり、経済活動は激化の一途を辿り始めます。その結果、単純に価格や機能だけでなく、サービスやアフターフォローといった顧客満足度の向上がビジネスシーンで勝ち残る必須条件となりました。
日本では、「それぞれの営業が独自の工夫を凝らし、取引先との関係性を築く」といった属人的な営業が常態化していました。しかし、それでは世界規模での競争に勝ち残れないことに気づいた企業から徐々に、SFAをはじめとした営業管理ツールの導入が始まります。
MA・SFA・CRMの違いは何?それぞれの特徴を徹底解説
では、営業管理ツールとしてよく聞くMA・SFA・CRMの違いは一体何なのでしょうか。それぞれの特徴を解説したいと思います。
MAは新規顧客を的確に見極めるためのツール
MAはMarketing Automation=マーケティング オートメーションの略で、新たな顧客を獲得するためのツールで、企業のマーケティング力を高めることが主な目的です。
例えば、あなたの会社がとくにターゲットを絞ることなく闇雲にDMを送り、チラシを撒いて、問い合わせのあった企業だけにアタックしている。あるいはメルマガ登録をした企業にはもれなくテレアポをとる。それで売上が伸びているなら問題ありませんが、いまいち成果を挙がっていない。費用対効果が悪いと感じているならMAの導入を検討してみると良いでしょう。
MAは新規顧客となりえるターゲットの思考を分析・見える化することができます。そして自社の商品・サービスへの関心度が高い見込み客を判別し、優先的なアプローチを可能にするシステムです。
MAの特徴は?
このようにMAは営業活動の中でも主にマーケティングの分野である、新規顧客獲得をサポートするシステムです。マーケティング活動における3段階のプロセスすべてにおいて大きく力を発揮してくれます。
その1.リードジェネレーション=見込み客の集客
リードジェネレーションとは、数多ある企業の中から自社の商品・サービスに興味のある企業を獲得するためのマーケティング活動です。セミナーなどの営業活動で交換した名刺や、Webサイトの訪問回数、閲覧履歴、資料請求の有無などから見込み客となりえる顧客の情報を収集します。
→MAでは、見込み顧客の中でも頻繁にサイトに訪問している企業や、メルマガの開封率の高い企業などをピックアップし、名刺や資料請求時に得たメールアドレスなどを利用し、自動でコンタクトを取ってくれる機能が備わっています。
その2.リードナーチャリング=見込み客の育成
リードナーチャリングとは集客した顧客情報の中で、まだ自社商品・サービスへの興味が低い企業に、自社への関心を高めてもらうために行うマーケティングです。顧客へアプローチを試みる機が熟すまで、メールやメルマガなどで継続的に関係を築いていきます。
→これまでテレアポなど人的要因をかけるのが一般的でしたが、MAはその作業をバックアップする機能があります。一例ではメルマガの自動配信があります。メルマガは送ったからといって全員が読んでくれるとは限りません。メールを開けずにゴミ箱に直行することもしばしばです。MAでは、メルマガの開封率はもちろん、文中に含まれるURLへのクリック率といったデータを収集することができます。
その3.リードクオリフィケーション=見込み客の選別
メルマガを頻繁に読んでいる顧客と、全く読んでいない顧客がわかればどちらを優先的にアタックすればいいかは火を見るよりも明らかです。このようにアプローチをかける顧客に優先順位をつけ、確度の高い顧客は実働部隊である営業部に託します。確度の低い顧客にはナーチャリングを継続します。この判断を行うのがリードクオリフィケーションです。
→MAでは事前に条件を決めておくことで、この判断作業を自動で行ってくれます。
日本において、MAが本格的に導入されはじめたのは2014年頃。まだまだ新しいシステムですが、SFA・CRMとともに現在、注目されている営業管理ツールです。
MAでできること
①顧客リストの作成
自社のWebサイトやホームページに訪問したユーザーの情報(企業名・個人名・企業情報)を取得できます。また、訪問者が自社サイトの中でどんなページを閲覧したか、どのページを頻繁に開いているかといったデータを収集・分析が可能です。
②条件付けによる顧客抽出
MAに条件付けをし、確度が高く、優良顧客となり得そうな顧客情報を抽出することができます。
条件例)
「自社商品・サービスのページの閲覧回数が●回以上」
「メルマガ開封率が●割以上」
「企業の年商が●億以上」
「資料請求の回数が●回以上」
「従業員の人数が●千人以上」…etc
確度の高い顧客情報をリストアップし、営業部門への橋渡しをします。
③顧客の状況に合わせたメール配信
リードナーチャリングの段階にある顧客へは、状況に合わせたメルマガの配信が必要になります。例えば、1話完結のメルマガではなく、全10話のメルマガを配信する際に、1話すら読んでいない顧客に対して2話、3話、4話とどんどんメール配信をしても意味がありません。しかし、人的要因だけではメールを開封して読んでくれたかどうかがわかりません。
MAを使うと、メールの開封率やURLのクリック率がわかるため、メルマガを効率的に送ることが可能になります。
- 毎回メルマガを開封してくれる顧客には詳しい自社商品・サービスに関するメルマガを送る、あるいはメルマガの頻度をあげる。
- ある一定の商品・サービスに関するURLを開いている顧客には、その商品・サービスに特化したメルマガを配信する。
- 開封率の低い顧客には、開封したくなるような件名をつけたメルマガを配信する …etc
1社1社の状況に合わせたメールマーケティングを行うことが可能です。
④マーケティング部門と営業部門の連携強化
主に、MAはマーケティングに特化した部署が管理することになりますが、実働部隊である営業部門との連携に使うことができます。
- リードクオリフィケーションによって育成が十分と判断された場合に、営業部門へのアラート、担当営業のアサインができる
- すでにアタックをかけている顧客が自社HPを訪問した場合、どのページを閲覧したかを担当営業にアラートすることができる
- マーケティング部門と営業部門が情報を共有することができる…etc
このように、これまで人がしていた作業の自動化を図れます。
⑤効率的なリードの選別
これまでは営業の長年の経験による勘に頼っていたようなリード(見込み客)の見極めをサポートします。ある特定の商品・サービスのページばかりを訪問している、さらに資料請求も行っているとなると確度がグッとあがります。それらを判断してくれる機能です。また、問い合わせは来ていないが、問い合わせページには何度か訪問している、という企業があれば、「こちらからアクションを起こせば何かニーズを聞き出し、受注につなげられるかもしれない」といった戦略を立てることができます。
⑥自動でグラフを作成するなどのレポート機能
Webサイトに新しいページを作った、ブログを更新した、セミナーの申し込みを開始したなどの施策を打った際、ページの閲覧数、申込数、資料請求数などをグラフで視覚的に自動作成することができます。
SFAは実働部隊である営業をサポートするツール
SFAはSales Force Automation=セールス フォース オートメーションの略です。「営業支援システム」とも呼ばれています。実際にフィールドセールスに赴く営業部隊の活動をサポートします。主には営業活動における、アポイント、商談、受注の部分を補うツールです。現在の案件進捗、1日の営業の行動スケジュール、各フィールドに散らばる営業たちの行動の見える化などが主な役目です。
SFAの特徴
では、具体的にSFAの特徴を見ていきましょう。
その1.営業活動の「見える化」
日本の営業活動の中で、最も多くの企業が感じている課題といっても過言ではないのが業務の「属人化」。原因の一つが各営業の行動が見えないことです。
- 苦労して手に入れた顧客の情報が、営業部内に共有されない
- 営業が今どこにいて、何をしているのかがわからない
- 案件の進捗状況や提案の感触がわからない
このような状態が常態化していると属人化は進行します。SFAで一元管理することで、一人一人の行動がすぐにわかるようになります。すると、戦略を練る営業マネージャーはリアルタイムで情報を集約できる、行き詰まっている営業に的確な指示が出せる。現場営業は、外出先から顧客情報を確認できる、出社帰社する必要がなくなり効率的に営業活動ができるといったさまざまなメリットがあります。
その2.業務の「属人化」を改善
他の営業の動きが見えるようになると、これまで属人化していた業務の改善も期待できます。
- トップの営業が1日をどんなスケジュールで動いているのかがわかり、営業部門全体の能力アップ、新人育成に役立つ。
- 案件進捗の報告の中で受注への最短ルート、勝ちパターンが見えるようになる。
- プレゼンに効果的な営業ツールを共有できる
- 担当顧客以外の情報や活動履歴がわかると、担当変更による引き継ぎも楽になる
このように各営業の動きを見える化すると、属人化の改善にもつながるのです
その3.業務の「効率化」を実現
昔ながらの営業にはたくさんの無駄が存在します。最もわかりやすい例が移動時間ではないでしょうか。会社に出社し、1日のスケジュールを全体で確認し、顧客への提案。それを終えたら、会社に戻り上司に報告。スケジュール確認と上司への報告を、SFAを通して行えば会社への出社と帰社は不必要になります。
この他にも、見積書を提案時にその場で作成できたり、見積書と連動して請求書を作成できたり業務の効率化を図る機能が搭載されています。
SFAでできること
①案件管理
各担当の案件の進捗を共有できます。商談内容やキーマンとなる人物の趣味趣向などさまざまな案件を管理できます。
②顧客管理
顧客の名称、所在地、電話番号、担当者の名前などの基本情報を管理することができます。顧客との接触回数など訪問履歴も管理可能です。
③行動管理
営業がどんな活動を行ったかを管理する機能です。電話の件数、訪問履歴、行動スケジュール、TO DOチェックなどが可能です。
④日報管理
クラウド型のSFAなら、スマホからも日報が書けるため、外出先からの移動時間を有効に使うことができます。また、マネージャーはリアルタイムで状況を確認できます。
⑤スケジュール管理
一日のスケジュール確認を自分のみならず、営業部全員の動きを確認できます。
⑥名刺管理
自分が受け取った名刺だけでなく、営業部全体の名刺を一括管理できる機能です。データ保存なので、大量の名刺を持ち運ぶことが可能なのもメリットです。
⑦メール一斉配信
顧客の業種や案件の進捗に合わせてメールを一斉配信できます。開封率のチェックも可能です。
⑧データ分析
日々の営業管理で蓄積されたデータを分析し、その結果を次の営業戦略立案に利用できます。
CRMは受注後の顧客満足度を上げるためのツール
CRMはCustomer Relationship Management=カスタマー リレーションシップ マネジメントの略で、顧客関係管理と訳します。受注後の顧客との関係を良好にし、再受注やアップセル、クロスセルにつなげるためのツールです。
自社の商品・サービスに対する感想やクレームなどをヒアリングすることで、自社商品・サービスのブラッシュアップ、品質向上などに役立てることができます。また、顧客の抱える課題を抽出し、その解決策を価値として提供することで、さらなる顧客満足度の向上を目指します。
さらに、競合他社の情報をチェックし、顧客を他社に奪われないようにすることも目的の一つです。
CRMの特徴
高度経済成長期、いわゆるバブル期は、あらゆる業界が上り調子で業績を上げていたため、新規顧客の獲得は難しいことではありませんでした。また、競合他社に顧客を奪われてしまった場合も、価格を見直す、他社より高機能・高品質の商品を開発するなどハード面を整えることで顧客を取り戻すことができました。
しかし、現在では長引く不況による経済の停滞、少子高齢化による人口減少に突入し、新規顧客の獲得は大変難しくなっています。
また、インターネットが普及したことにより、競合他社の商品・サービスを比較検討することが容易になった結果、既存顧客の継続受注も難しい時代になっています。
そのため、価格、機能はもちろんのこと、顧客との「信頼関係」が何より重要なエッセンスとなっているのです。そこで生まれた概念・システムがCRMなのです。
CRMでできること
その1.顧客情報・案件情報の管理
顧客の会社名、担当者・キーマン、連絡先などの基本情報。商品の購入理由から、クレーム、ニーズ、課題など顧客情報、さらには次年度の予算といった情報も管理します。
・クレームを把握することで自社商品での解決を提案できないか?
・次年度の予算を鑑みて、さらなる商品(アップセル・クロスセル)を提案できないか?
情報を活用することで新たな戦略を立てることができます。顧客としても、ただ提案されるだけでなく「自社のことを理解した上での提案なのだ」と感じられるため、信頼関係を築くことができます。
その2.プロモーション機能
管理・収集する顧客情報の中から顧客にとって最適なセミナーの紹介や、商材の提案を行うことができます。営業部門全体で情報共有するため、アクションが遅れるリスクを減らすことも可能です。顧客にとっても有益な情報を個別で受け取ることができるという利点があります。
その3.レポート機能
蓄積された情報をレポート、アウトプットができます。これらをうまく活用すれば、現在の流行りは何か、アップセルに成功した顧客と似た事例の顧客はいないか、営業フローを見直せないかといったPDCAを回す材料として利用することが可能です。
それぞれの営業管理システムの領域と役割
これまで解説してきたように、MA・SFA・CRMは似た機能を持っているケースもありますが、領域と役割が異なります。
MAは新規顧客の獲得からアプローチ段階までの育成を役割としています。そのため、マーケティング活動における初期段階のシステムです。
SFAは実際に顧客との折衝・受注までをサポートするシステムです。
CRMは受注後における顧客との関係性を良好にするためのシステムです。
マーケティング活動には一連の流れがありますが、システムの担当する役割が異なることがわかると思います。では、3つのシステムを全て導入すれば生産性が上がり、売上が伸びるのかというと、必ずしもそうではありません。
単純に全てを導入すれば、それだけコストがかかるという問題もありますが、大切なのは自社の課題が何かということです。
「新規顧客の獲得に苦戦しているが、商談からクロージングには強い」という企業であればMAを導入し、SFAを導入する必要はないでしょう。
また、顧客の離脱率が最近気になるという企業にはCRMがおすすめです。
どんな営業管理ソフトを導入すれば良いかに迷ったら
今回のブログでは、近年、導入が進む営業管理ツールの特徴と違い、選択の基準について解説しました。
ただ、自分自身の性格一つ取ってもそうですが、自らを俯瞰し、ウィークポイントを探すというのは案外難しいものです。
自社の営業活動には一体何が欠けていて、どうすれば売上の向上が見込めるのかわからない、現場に任せきりで状況が把握できていないため課題が見えないという経営者の方もいるでしょう。
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