2020年税制改正の影響
日本の富裕層に個人所得税節税のための米国不動産投資が流行ったのが数年前、そのような節税をしていた又はしようとしていた方をターゲットとして2020年税制改正が発表され、富裕層には大きな反響がありました。
この税制改正が大きな反響を及ぼした理由は、日本と異なり、築年数が経過していても不動産価格に占める建物価値が50%を超えている物件も非常に多い海外不動産、とりわけ米国不動産に日本の税制上認められていた中古資産の耐用年数(主に簡便法)の採用が出来なくなったからです。
それまで採用されていた簡便法では、例えば耐用年数を経過していた中古木造家屋を合法的に4年で償却できました。また、これに売却の出口において長期の譲渡所得税率を適用出来れば、短期効率的、確実に節税効果を得る事が出来たのです。このため、耐用年数を経過していても新規取得した時に建物価値が高い米国不動産は富裕層の格好の所得税節税対象となり得たのです。
しかしながら2020年税制改正以降、個人所得税節税目的で取得を考えていた富裕層の米国不動産に対する注目度は大幅に下がる事になりました。
節税以外の米国不動産のメリットとは
ただし、よく考えてみると、税制改正で即効的な節税効果は失われたものの、建物の価値が高いことは変わらず、また、海外不動産に関して減価償却自体が認められないわけでありません。つまり高い建物価値を簡便法による耐用年数ではなく法定耐用年数(木造賃貸住宅22年)で償却することは認められてはいるのです。
生じた利益に対する税負担が少ない
例えば1億円の耐用年数を経過している土地付き木造中古住宅で建物価値80%、ネット利回り(償却費以外の経費差引き後の利回り)3.5%だとすれば、手取り350万円、償却費363万円(1億円×80%÷22年)となり、その年の米国不動産から生じる所得はゼロとなります。つまり、米国不動産から生じた利益に対して日本では税金が生じない事になります。
一方、米国でも申告が必要となりますが、米国側では賃貸住宅の耐用年数は27.5年と日本より若干長めでの償却となるようですので、多少税金が生じるかどうかという程度となります。これらが意味するところは、建物価値が高い事は変わらないので、償却が長期にわたるものの、法定耐用年数の期間、米国不動産から生じた利益に対してはほとんど税金を負担せず残せるという事です。これは投資をする上では大きなポイントとなります。
米国人口増加によるインフレ率上昇の可能性
また、移民国家と言われるだけあって、米国では人口は増え続けており、大幅な政策等の変更がなければ今後も増加していく事が統計的にも予想されています。一方、日本では出生率は減少を続けており、超高齢社会となり、人口は減少し続けることが予想されています。
別の視点で過去30年のインフレ率を見ますと、米国は1991年以降、1回だけリーマンショックのあった翌年の2009年のみマイナスを記録するものの、それ以外は常にプラスとなっており平均でも約2.3%となっています。一方の日本はといいますと過去30年のうちその半分にあたる14回マイナスの年があり、平均で約0.3%となっています。
人口増加=インフレ率上昇という事は必ずしも言えないかとは思いますが、この2つの指標は不動産の価値には影響を与えているかもしれません。米国国税調査局の資料によりますと米国では過去30年間(リーマンショックの前後の大幅な上昇と下落を除いて)ほぼ一貫して上昇傾向であるためです。
これは人口減少、インフレ率の低い又はマイナスの日本では都心などのほんの一部を除き、一般の日本人の多く実感できない事ですが、これまでのところ、米国ではこの傾向が続いているのです。もちろん米国内における地域差もありますし、今後の事まではわかりませんが、この点も投資をする上では大きなポイントです。その他では、米国は法整備が整った民主的先進国であることも投資環境としては重要ポイントといえそうです。
ここのところ数年前に個人所得税節税で取得した方々が出口を迎えて売却を選択される事も多くなっております。海外投資において、為替リスクや自然災害リスクなどリスクをゼロにすることはできませんが、TOMAのお客様においても売却の際に不動産価値が大幅に上昇し、それらリスクを加味しても余りある果実を得られている投資家の方も多いようにも感じています。
個人所得税節税の魅力は下がったものの、法人の節税には今でも有効
これまで見て来た通り、節税効果は大幅に縮小したものの、個人の富裕層にとって耐用年数期間、ほとんど課税されないインカムゲインとインフレによるキャピタルゲインの可能性は大変魅力的な投資対象たり得るのではないでしょうか。
一方で、実は2020年税制改正は個人所得税の計算上適用されるものであり、法人税法上は中古木造建物の4年償却については今も適用可能となっています。このため、単年度のみの節税即効性を求める法人には引き続き航空機リースが節税には最適かもしれませんが、コロナ禍における航空機需要に対する不安も重なり、継続的に利益体質の法人においては、伝統的な航空機リース等の節税商品と米国不動産投資をミックスする節税手法が分散投資という投資の基本理論の観点からも合理的といえるのではないでしょうか。