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社長のブログ ~100年続く企業を創る~

想いに気付き、ゴールを定める

記事作成日2025/02/13

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昨年読んだ本の中で一番のお勧めは?と聞かれたら、私は『ユニクロ』(杉本貴司著・日経BP刊)と答えます。

本書は、日本を代表する経営者である柳井正氏が、山口県宇部市で父から引き継いだ小郡商事をどのように現在のユニクロに変革させたのか、その歩みを丹念な取材に基づき追っていくノンフィクションです。457ページに及ぶとても厚い本ですが、最後まで読む者を物語に引き込み、多くの気付きを与えてくれます。

世界一というゴール

今の柳井氏の姿からは想像もできませんが、意外なことに子供の頃は内気で言葉数の少ない性格だったそうです。「なんでもいいから一番になれ」と言われ続けた父の期待から逃げるように早稲田大学に進学し東京にやってきたものの、その生活は無気力そのもの。大家のおばさんに「寝太郎」というあだ名をつけられる程でした。

大学卒業後は父のコネでジャスコに就職しますが、たった9ヶ月で辞めてしまいます。「このままじゃ、俺は本当にダメになっちまうんじゃないか…」そんな不安と焦りを抱えて宇部に戻り、紳士服とカジュアルウェアの2店舗を営んでいた小郡商事で働くことになったのは、23歳の時でした。

しかし小郡商事に入社後も、柳井氏が「金の鉱脈」と呼んだユニクロ1号店が誕生するまで、およそ10年もの間、暗いトンネルの中でもがき続けることになるのです。後継者である柳井氏に不満を抱えた古参の社員が辞めていき、7人いた社員は1人だけになってしまいます。

自信を失った柳井氏が帰宅後に行っていたことは、大学ノートに自分自身の性格を書き記すことでした。内省し自分と向き合うこと以外にも、作業マニュアルを自筆で作成し、どの商品のどのサイズが売れたのかなど日々の商売を詳細に書き記していきます。このような極めて地道な作業を繰り返し続けていたそうです。

先の展望が見えず何度も店が潰れる夢を見ていた暗黒時代に、柳井氏の目線を大きく引き上げたのが、本を通じた偉人達との対話でした。松下幸之助、本田宗一郎という名経営者の影響を受け、ハロルド・ジェニーンの『プロフェッショナルマネジャー』という本に出会った柳井氏は、「現実の延長線上にゴールを置いてはいけない」ということ、「終わりから始めて、そこへ到達するためにできる限りのことをする」という逆算思考を学びます。そして「世界一」という行き先を定めることになるのです。

それはフリースがブームになり、東京に進出する前のことであり、関西でも全く無名の、田舎の中小企業だった頃のことでした。


思食を食べるということ

四食という仏教の教えをご存じでしょうか。生きるために必要なものを「食」とし、➀段食(だんじき)、➁触食(そくじき)、➂思食(しじき)、➃識食(しきじき)の4つに分類します。このうち段食は米や肉など目に見える食べ物ですが、残りの3つは目には見えない心の栄養です。

人は、目に見える食べ物だけでなく生きるために必要なエネルギーを食べることによって心と体が養われ、イキイキと生きることができるという考え方です。このうち➂思食とは、夢や希望を持って何かを思うことであり意思や意欲を持つことです。

私たちは、どこか「大きな夢を持ってもどうせ叶わない」と思い込んでいないでしょうか。自分が「できそうなこと」を目標にしてしまい、「できそうなこと」だから情熱を持てないということがないでしょうか。

柳井氏が現実の延長線上にない「世界一」というゴールを定め、人にどう思われようと自分が生きたいように生きることができるのは、思食を食べているということです。毎日の食事と同じように思食を食べることが、自分の人生をより良くするためには大切なことなのです。

ユニクロの物語はその後、製造小売業(SPA)への進化、フリースブーム、後継社長の更迭、海外進出、そして情報製造小売業への挑戦と続いていきます。『ユニクロ』を読んで、自分に向き合い想いに気づくこと、そして勇気を出して行動を起こすことの大切さを学びました。本当にお勧めの一冊です。

TOMAコンサルタンツグループ株式会社 
代表取締役社長 
市原 和洋
代表メッセージはこちら

<チェックポイント>

□できそうなことをゴールに置くのではなく、夢や希望を持ったゴールを定める
□内省し自分と向き合うことや極めて地道な作業を繰り返し続けることも必要
□ゴールに向かって勇気を出して行動を起こす