京都の京セラ本社に隣接する「稲盛ライブラリー」に行ってきました。京セラ創業者である稲盛和夫氏を紹介する施設で、5階までの各フロアで彼の思想や技術者・経営者としての足跡、様々な社会活動が展示されています。
一昨年90歳で逝去された時は、日本だけでなく海外からもその死を惜しむ声が寄せられたことがニュースになりましたが、久しぶりに稲盛経営哲学に触れ、私にとっても新たな学びの機会となりました。5階には執務室も再現されています。ぜひ一度足を運んでみてください。
大事なのは「考え方」
フロアの3階は「思想(Philosophy)」というテーマで、過去の講演や著書での様々な言葉がパネルで展示されています。ここに「京セラ精神 及 京セラ経営の基本方針」という直筆のメモがあるのですが、このメモの最後にあの有名な「仕事の結果=熱意×能力×考え方」という方程式が書かれていました。
メモの日付、昭和42年1月15日は創業8年目のことです。その後、仕事だけでなく人生の結果でもあると説明されるようになるこの方程式のポイントは、足し算ではなく掛け算であるということです。
そして3つの要素の中で最も大事なのは「考え方」です。考え方にはマイナスの場合があるため、いくら能力に恵まれ熱意があっても、考え方の方向が間違っていれば悪い結果を招いてしまうからです。
プラスの考え方とは一言でいうと「良い心」のことで、決して難しい内容ではありません。私たちが子供の時に親から教わった当たり前の道徳心であり、常に前向きである、感謝の心や思いやりを持っている、努力を惜しまない、利己的でない、というような事なのです。
「なぜ、人生や仕事でうまくいく人と、うまくいかない人がいるのだろう。」という素朴な疑問がこの方程式を考えるきっかけだったそうですが、アメーバ経営のような合理的な経営管理を行う一方、人として正しい生き方とは何かをしっかり考え実践する。
この2つのバランスが、経営者としてとても大切なことであると感じました。
主体的であるということ
稲盛和夫氏は、人が生きる目的や価値は「心を高めること、魂を磨くこと」にあると断言しています。
私たちは、人としての正しい生き方を頭の中では分かっているし、そのように生きるべきであると心の中では思っています。しかし現実には、時にそれに反する行動や考えに陥り、気が付く度に反省するということの繰り返しではないでしょうか。
私たちが本来持っている自分の良い心に従って行動するにはどうすればよいのでしょう。ここで私が思い出すのが、スティーブン・R・コヴィーの『7つの習慣』で紹介される「主体的である」という第1の習慣です。私たちは自分で考えているようで、実はその時々の状況に反応しているのであり、外部環境にイニシアチブを握られてしまっているのです。
主体的であるということは、率先して行動することだけを意味するのではありません。自分の良い心に基づいて行動を選択していることが主体的であるということであり、外部環境に反応している限り主体的ではないのです。人は本来、「衝動を抑え、価値観に従って行動する能力」を持っており、このことが人間と動物との決定的な違いだそうです。
「俺は怒った!」と言うと外部からの刺激に反応し影響を受けている状態ですが、「これは怒りだ!」と言えば感情的な思考から離れることができています。このように、実は人は自分の思考をコントロールできるのであり、そうすることで初めて、良い心に基づいた行動を選択することができるようになるのです。
プラスの考え方は、すでに私たちの心の中に存在しています。あとはこれを高め続け、外部からの刺激に反応してマイナスに転じないようにしなければいけません。プラスの考え方を持ち続けるためには、人は主体的になれるという事実に気づくべきなのです。
TOMAコンサルタンツグループ株式会社
代表取締役社長
市原 和洋
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<チェックポイント>
□生きる目的や価値は「心を高めること、魂を磨くこと」にある
□思考をコントロールし、主体的に良い心に基づいた行動を選択する
□心の中に存在するプラスの考え方を高め続け、マイナスに転じないようにする