属人的株式について
属人的株式とは、以下の3つの権利に関して、その持ち株数にかかわらず、株主ごとに異なる取扱いができる株式のことをいいます(会社法第109条2項)。ただし、この属人的株式を設定できるのは、非公開会社に限られます。
1.剰余金の配当を受ける権利
2.残余財産の分配を受ける権利
3.株主総会における議決権
ただし、余金の配当権・残余財産分配権を全く与えない旨を定めることはできません。(会社法105条2項)
「属人的株式」は、「Aさんという株主に対する配当や議決権等は○○」、「Bさんという株主に対する配当や議決権は××」、というように特定の株主に対して、その持株数に関係なく、剰余金の配当、残余財産の分配、議決権を定めることができます。つまり、「株主平等の原則の例外」ということになります。
種類株式と属人的株式の相違点として、種類株式は登記が必須なのに対し、属人的株式は定款で定めるのみで登記を要しないという点があります。したがって、会社の履歴事項全部証明書に記載されないので、第三者には分からない、という会社側のメリットがあります。
また、種類株式は、株式自体に特徴があるので、誰が保有していても権利内容に変化はありません。一方、属人的株式は、その株主特有の特徴になります。
属人的株式の設定・変更・廃止
種類株式の発行には、通常、特別決議ですむところ、属人的株式の設定の場合には、定款変更に際して特殊決議という大変厳しい決議が要件となります。
非公開会社で、定款を変更して属人的定めを設定、変更、廃止する場合、それぞれ以下の手続が必要になります。
決議要件 | |
設定 | ・特殊決議 |
変更 | ・特殊決議 ある種類の株主に「損害を及ぼすおそれ」がある場合には、種類株主総会での決議が必要 |
廃止 | ・通常の定款変更と同じ特別決議 |
議決権についての属人的株式
種類株式として、いわゆる複数議決権付株式は認めていません。しかし、この属人的株式を活用することによって、複数議決権付株式と同様の効果をもたらすことができます。
例えば、「社長の有している株式は、1株について100個の議決権がある」と定款で定めた株式がこれにあたります。ある特定の『株主』が持っている株式について、特別な権利を付けた株式です。したがって、株式が他の人に譲渡された場合、その特別な権利まではその人に引き継がれません。
たとえば、定款で「当社の代表取締役が有する株式は、1株について100個の議決権を有する」と定めた属人的株は、他の人に譲渡された場合やその人が代表取締役を退任した場合に、1株につき1個の議決権を有する普通の株式に戻ることになります。
属人株式と事業承継
事業承継を進めている途中で、現経営者に認知症や不慮の事故が起こったり、株主構成などによっては紛争が発生したりする場合もあります。
例えば、会社の議決権の過半数を社長が保有している状況で、病気などにより社長の判断能力が失われた場合には、株主総会での決議ができなくなってしまい、経営に支障をきたす場合、事前に後継者の所有する株式について、「社長の判断能力が失われた場合には、後継者が保有する株式の議決権を3倍にする(後継者の議決権が過半数となるよう)というような内容を定款で定めておけば、社長の判断能力が欠如した場合でも、会社経営を円滑に遂行することができます。
このように、現経営者に万一のことがあり、判断能力の喪失や減退に備えて、属人的株式を活用することができます。属人的株式は、個々の会社や株主の状況に応じて柔軟に議決権についての設計をすることができます。事業承継を考えている会社では、一度導入を検討してみると良いでしょう。