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【相続法改正】配偶者居住権の活用

記事作成日2019/10/11 最終更新日2019/10/11

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2018年7月に民法が改正され、配偶者居住権という権利が創設されました。2020年4月から施行となり、相続を取り巻く環境が大きく変わると予想されます。
その理由は、配偶者居住権を活用すると、これまで遺言だけでは不可能であったことが可能になったり、遺産相続争いの防止に非常に強い力を発揮するからです。
今回は、配偶者居住権の基本知識と条件等について解説させていただきます。

配偶者居住権とは?

配偶者居住権とは、建物所有者である配偶者の死亡時において、その建物に住んでいるもう一方の配偶者の居住権(自宅に住み続けることができる権利)を保護するための制度です。
この配偶者居住権は、長期居住権と短期居住権の2つに分けられます。

・長期居住権

長期居住権は、配偶者の生活保障として、1番手厚い配偶者居住権です。 被相続人が亡くなった時に、贈与や遺産分割協議によって取得した配偶者居住権により、亡くなるまでそこに住むことができます。(ただし、遺産分割協議や遺言に別段の定めがあるとき、又は家庭裁判所が分割の審判で別段の定めをしたときはそれに従う) つまり、被相続人の配偶者は、自身が亡くなるまで無償で、被相続人の住居に住むことができます。

・短期居住権

短期居住権は、配偶者の居住権を短期的に保護する方策として設けられています。
被相続人が亡くなり相続が発生した際に、被相続人の所有する不動産に配偶者が無償で住んでいた場合に適用される権利です。
配偶者は、遺産分割協議で居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日まで、無償でその不動産を使用できます。
残された配偶者は、被相続人が亡くなった後も6か月程度まで、無償で不動産に居住することができます。
短期居住権を取得した後に、長期居住権を取得することもできますが、その場合には短期居住権は消滅します。

 

配偶者居住権が認められるための条件

被相続人の配偶者に配偶者居住権が認められるためには、まず相続開始時点において、配偶者が被相続人の所有している不動産に居住している必要があります。そのため、別居をしていた夫婦の間では認められません。
また、相続開始時点において当該不動産が被相続人と配偶者以外の者との共有であった場合には、配偶者居住権は認められません(民法1028条但し書き)。
配偶者居住権を取得するためには、上記の条件をクリアした上で、さらに次に掲げるどちらかの条件を満たさなければなりません。

①遺産分割で配偶者居住権を取得した場合
相続人間で行われた遺産分割協議の結果、被相続人の配偶者が配偶者居住権を取得した場合、配偶者は当該不動産に居住する権利を取得することになります(民法1028条1項1号)。

②配偶者居住権が遺贈の目的とされた場合
被相続人の遺言によって配偶者居住権が遺贈の目的とされた場合、配偶者はこの居住権を取得することができます(民法1028条1項2号)。
なお被相続人には、遺言によって配偶者居住権の存続期間を定めることも認められています。

③審判により配偶者居住権が認められた場合
一定の場合には、家庭裁判所の審判によって配偶者居住権が認められることもあります(民法1029条)。

なお、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が、配偶者居住権を遺贈した場合は持ち戻し免除の意思表示があったものとされます。

つまり通常、遺贈した財産は相続財産に含まれますが、前述の場合は相続財産に配偶者居住権が含まれないということになります。

ポイント解説

①配偶者居住権は登記が必要

居住建物の所有者は、配偶者に対し、配偶居住権の設定の登記を備えさせる義務を負います。配偶者居住権を第三者に対抗することができるようにするためです。

ちなみに、配偶者居住権は、不動産のうち、建物だけに登記がされます。建物の敷地となっている土地には登記されません。

②居住建物の使用方法について決まりがある

配偶者居住権を使って居住する場合に気を付けたいポイントは下記の通りです。

・配偶者は従前の用法に従って、善良な管理者の注意をもって居住建物の使用・収益をしなければならない。

・配偶者居住権は譲渡することができない。

・居住建物の所有者の承諾なく、増改築はできない。

・居住建物の所有者の承諾なく、第三者に居住建物を使用収益させることはできない。

なお、配偶者は居住建物の使用・収益に必要な修繕については自分ですることができます。また、居住建物の通常の必要費については配偶者が負担します。このあたりは通常の賃貸と同様の考え方です。

③配偶者が死亡したら配偶者居住権は消滅する

配偶者居住権は、以下の場合に終了します。

・期間満了(期間を定めた場合)

・用法遵守義務違反(使用についての決まりを守らなかった場合)

・配偶者の死亡

・居住建物の滅失

配偶者が亡くなると、配偶者居住権は消滅するので、その権利を誰かに相続させたりすることはできません。

また、配偶者居住権が消滅すると、賃貸物件同様原状回復義務などが発生します。配偶者が亡くなったら誰が原状回復義務を行うのでしょうか。その場合は、配偶者の義務を相続した相続人が原状回復等を行うことになると想定されます。