BLOG

専門家によるブログ

行政書士業務ブログ

種類株式にはどのようなものがあるか

記事作成日2017/12/20 最終更新日2023/03/17

X
facebook
copy

この記事では株式のうち種類株式について解説します。種類株式はどういったものがあり、どういった特徴があるのか、ぜひ内容をご確認ください。

種類株式とは

株式会社では複数の種類の株式を発行することができます。一般的に「株式」と呼ばれているものは「普通株式」のことを指します。1つの株式に与えられる権利は原則として平等であり、株式を保有している株主は株主総会での議決権を有することで経営に参加したり、配当を受け取けたり、その保有する株数に応じた権利を有しています。

この普通株式とは別に「権利の内容が異なる株式」を発行することができます。これを「種類株式」といいます。

種類株式は、以下の9つの権利について内容の異なる株式を発行することが可能です。9つの権利のうちいくつかの権利を重複して付与したり、いくつかの権利を制限または剥奪することも可能です。

1.剰余金の配当(会社法108条1項1号)

剰余金の配当について、他の株式より優先又は劣後する株式。配当優先株式は、その他の種類株式と組み合わせて使われることが一般的です。

例えば、無議決権株式の種類株主は、議決権を行使しない代わりに、普通株式に比べて高い配当金を要求するのが一般的で、このような場合、無議決権株式と配当優先株式が組み合わされて発行されます。

2.残余財産の分配(会社法108条1項2号)

残余財産の分配について、他の株式より優先又は劣後する株式。

3.議決権制限種類株式(会社法108条1項3号)

株主総会の決議事項の全部又は一部について、議決権を行使することができない株式。会社の経営にはまったく興味がなく、配当収入などの利益のみ興味がある投資家にとって、「議決権」は必要ありません。このような株主向けに議決権制限株式を交付することが考えられます。

このため、株主に認められている経営権を放棄する代わりに、高配当を要求することがあるので、配当優先株式と組み合わせて設計されることが多くあります。

また、議決権を制限する事項(例えば、役員選任決議など)を設定することもできます。公開会社においては、議決権制限株式の総数は、発行済株式総数の2分の1を超えて発行することはできません。一方、非公開会社の場合は、このような制限はなく、1株だけに議決権があれば、他の株式はすべて無議決権株式とすることも可能です。

4.譲渡制限種類株式(会社法108条1項4号)

すべての株式又は一部の種類の株式について、その譲渡につき会社の承認を要する株式。また、種類株式発行後、ある種類株式を譲渡制限とする場合は、その種類株主総会の特殊決議を要し(会社法111条、会社法324条)、反対株主は、会社に対して、自己の株式を公正な価格で買い取ることを請求できます。(株式買取請求権 会社法116条)

5.取得請求権付種類株式(会社法108条1項5号)

すべての株式又は一部の種類の株式について、株主がその株式について、会社に取得請求できる株式。

6.取得条項付種類株式(会社法108条1項6号)

すべての株式又は一部の株式について、会社が一定の事由が生じたことを条件としてその株式を取得することができる株式。この取得条項付種類株式は、会社側から株主側に対して当該種類株式の取得を申し出ることができるので、この種類株主は自らの意図に関わらずその地位を失います。

この取得の対価が金銭であれば株主としての地位が完全に失われ(会社法108条2項6号イ)、その他の株式が対価であれば、その種類株主としての地位に転換されることになります。(会社法108条2項6号ロ、会社法170条2項4号)

7.全部取得条項付種類株式(会社法108条1項7号)

会社が株主総会の特別決議により、その全部を取得することができる株式。会社法107条2項3号の全株式に対して取得条項を付すのと似ていますが、この種類株式は当該種類株式のみ全部取得できる点で異なります。

内容 107条2項3号の場合 108条1項7号の場合
対象 全株式 一部の株式(種類株式)
設定条件 総株主の同意(111条) 株主総会の特別決議
反対株主の 取扱い 反対株主がいる場合には可決されない 反対株主の買取請求権が認められる
(116条、117条)

8.拒否権付種類株式(会社法108条1項8号)

株主総会又は取締役会において決議すべき事項のうち、その株主総会の決議のほかに、種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を必要とする旨の定めが設けられている株式。

9.取締役・監査役の選任についての種類株式(会社法108条1項9号)

公開会社以外の会社で、委員会等設置会社でない会社において発行することができ、その種類株主総会における取締役・監査役の選任に関する事項について内容が異なる株式。

定款の記載例

種類株式を発行する場合には、必ず、各種類株式で発行可能株式総数も一緒に定款で定めていく必要がありますので、種類株式の発行の定款変更決議のときにあわせて定款変更しなければなりません。その定款の記載方法を下記に、記載します。

(発行可能種類株式総数)
第○条 当会社の発行する株式の総数は、1万株とし、このうち6,000株は普通株式、4,000株はA種類株式とする。

種類株主総会の開催

種類株式を発行した場合には、種類株主の利害の関係ある事項や会社法322条1項各号に該当する事項については、通常の株主総会(普通株式を有する株主と種類株式を有する株主が出席する株主総会)のほかに種類株主総会(種類株主だけが出席する株主総会)を開催しなければならなくなります。通常の株主総会だけですと、種類株式の株主にとって不利な定款変更等がされる恐れがあるからです。

今現在、種類株式を発行しておらず、普通株式のみ発行している会社であっても、発行済みの普通株式を種類株式に転換することも可能です。例えば、普通株式3,000株を発行している会社が、普通株式3,000株のうち、1,000株だけを今までどおり普通株式とし、残りの2,000株をA種類株式に転換することが可能です。

ただし、この場合には、株主の利益を害する可能性があるので、総株主の同意が必要です。

種類株式の使い分け・組み合わせによる効果

これら9種類の種類株式を使い分けたり、組み合わせたりすることで、さまざまな経営上の効果を得ることができます。

例えば、株主総会の議決権よりも、より多くの配当がほしいという人には「剰余金の配当に関する優先株式」を発行することで資金調達がしやすくなりますし、将来事業を承継させる後継者には普通株式を、他の株主には「無議決権株式」を発行することで、経営権の分散を防ぐことができます。会社の状況に合わせて適切な種類株式の設定を行いましょう。

TOMAでの成功事例

1)拒否権付株式(黄金株)

相談内容
株式会社甲の会長であるX氏は、後継者予定のY氏に代表取締役の地位を承継し、それと同時にX氏が保有している株式をY氏に譲渡した上で自身は引退しようと考えていますが、Y氏の経営にはまだ不安が残っている。

実施内容
X氏が1株だけ保有し、それを※拒否権付株式(黄金株)とし、代表取締役を引退後も会社の経営をサポートできるようにしました。

※拒否権付株式(黄金株)の特徴
・一定の株主総会決議について拒否権を付与
・3年間の期限付きにし、さらに、第三者への譲渡や相続発生を条件とする取得条項を付与

拒否権付株式(黄金株)の発行により、X氏は、Y氏の未熟な会社経営や無謀な組織の改編、役員の選任・解任などをコントロールすることができるようになりました。会社の経営に強い支配力を持つ黄金株が、会社にとって好ましくない人に相続されないよう、取得条項も付与しました。

定款例

第〇条 当会社の発行するA種類株式の内容は、次に定めるとおりとし、特に定めのない点については、普通株式と同一の内容とする。

(1)A種類株主総会の決議があることを必要とする事項
次の各号に定める事項については、法令又は定款において要求される当会社の株主総会による決議のほか、A種類株式を有する株主(以下、「A種類株主」という。)を構成員とする種類株主総会の決議を経なければならない。

①当会社の取締役及び監査役の選任及び解任
②会社法第309条第2項各号で定める株主総会の決議

(2)取得条項
当会社は、以下の事由が生じた場合には、A種類株式の全部を取得し、当会社は、A種類株式を取得するのと引換えに、当該A種類株主に対して、A種類株式1株につき普通株式1株を交付する。

①A種類株主が第三者に対してA種類株式を譲渡する旨を約したとき(競売による場合を含む)
②A種類株主に相続が発生したとき又は裁判所が成年後見人を選任したとき
③令和〇年〇月〇日を経過したとき

2)取得条項・配当優先株式の発行

相談内容
これまでオーナー家で株主を独占してきましたが、今後は、オーナー家以外の取締役にも株式を付与することで株主総会の議決権を与え、経営革新・企業価値の向上の意欲を高めていただきたい。

実施内容
取締役に配当優先株式を発行することで、企業の業績アップ、企業価値の向上の意識を強く持って業務に取り組んでもらいたいと考えました。また、今後の望ましい株主構成については検討中であり、退職役員の株式分散対策のため、取得条項も付与しました。

定款例

第〇条 当会社の発行するB種類株式の内容は、次に定めるとおりとし、特に定めのない点については、普通株式と同一の内容とする。

(1)優先配当
B種類株式は、毎事業年度において他の株式に優先して剰余金の配当を受けることができる。優先配当金額は、他の株式に対して配当される金額に1株あたり〇円を上限として加算した金額とする。

(2)取得条項
当会社は、B種類株主が以下の各号のいずれかに該当する場合、株主総会の決議によって、当該B種類株主が保有するB種類株式全部を取得することができる。その場合、当会社はこれと引換えに、B種類株式1株につき〇円を当該B種類株主に交付する。

ⅰ 当会社の取締役、監査役、従業員等のいずれの地位も失ったとき
ⅱ 死亡、失踪宣告がなされたとき
ⅲ 後見、補佐、補助が開始されたとき
ⅳ 禁固・懲役以上の刑に処せられたとき
ⅴ 当会社が、合併、株式交換、株式移転、会社分割を決定したとき
ⅵ その他当社株主総会が特に必要と認めたとき

3)従業員持株会と種類株式の活用

相談内容
事業承継のタイミングで役員や社員にも経営に参画してもらい、全員経営を実現したい。また、従業員のモチベーションアップを図りたい。

実施内容
先代の希望の一つに「社員の幸福度向上」があることから、役員持株会、従業員持株会を組成し、配当優先株式を発行しました。持株会組成時の社員向けの挨拶文も弊社で作成し、組成から運営までを支援しました。

TOMAコンサルタンツグループのサービス

TOMAコンサルタンツグループでは行政書士による月次契約の法務顧問サービスを提供しています。毎年、行われる定時株主総会に関わる書類作成、取引先との契約書チェック、民法や会社法に関する相談等を行政書士がサポートします。サービスの詳細はこちらよりご確認頂けます。また定期的にメールマガジン(無料)も配信しておりますのでお気軽にご登録ください。