目次
はじめに
IFRS第15号が定める収益を認識するための5つのステップについて説明をします。
日本でも、国際財務報告基準(IFRS)第15号の影響を受けた収益認識に関する会計基準が開発中であり、2017年7月をめどに公開草案が発表されるとのアナウンスがあります。日本の実務にも影響を及ぼすものと予想されるため、本ブログで取り上げます。
(話の前提)IFRS第15号が定める収益を認識するための5つのステップ
IFRSでは会計帳簿に売上などの収益を記帳するに至るまでに、5つのステップを踏んで、各事項を検討し、収益の額を記帳するように定めています。
(ステップ1)契約の識別
(ステップ2)履行義務の識別
(ステップ3)取引価格の算定
(ステップ4)履行義務への取引価格への配分
(ステップ5)履行義務の充足(収益の認識)
(ステップ1)契約の識別
契約の識別とは、収益認識に関する会計処理が求められる契約の有無を判断することを言います。契約とは、強制可能な権利及び義務を生じさせる複数間の当事者間の合意を指します。
例えば、顧客からの契約に基づく代金回収ができる可能性が高くない環境下のもとで、顧客から預け金を収受したとしても、その預け金を収益として認識できる可能性は低いとされます。これは、相手方からの販売代金の回収可能性が高くない場合は、収益認識に関する会計処理が求められる契約とみなさないためです(IFRS15号第9項のe参照)。
(ステップ2)履行義務の識別
履行義務の識別とは、ステップ1で識別した顧客との約束(義務)が単一の履行義務か複数の履行義務を含むかを判断することを言います。
仮に履行義務が単一であると識別した場合は、収益の測定や認識を単一なものとして扱い、
複数の履行義務を含むと識別した場合は、それぞれの履行義務ごとに収益の測定や認識と行うことから、売上の金額や計上時期を左右することとなります。
例えば、建設業者が顧客のために病院を建設する場合、様々な作業過程があるものの、その作業過程が一体となって病院が出来上がること、また、病院の建設という作業は様々な作業過程を契約上別個に識別できないと思われることから、単一の履行義務として識別すると考えられます。
これに対して、ソフトウェア開発業者がライセンスの移転、インストールサービス、アップデートや保守サービスを提供する契約を顧客と締結した場合、病院建設と異なり、一部の作業が欠けていたとしてもソフトウェアが正常に稼動することや、それぞれの作業が独立して販売可能であることから、複数の履行義務として認識することとなります。
(ステップ3)取引価格の算定
取引価格の算定とは、ステップ1で識別した契約において、企業が提供する財貨やサービスの移転と交換に得られる対価の金額を算定することを意味します。
厄介なのは、対価の金額が変動するケースです。
例えば、建設業者が建物を建設する契約を締結するとします。約束した対価は3億とするが、建物完成後買主が建物を検査し、所定の評点を満たしていると判断したときは、追加の報酬を支払う取り決めがあるとしましょう。その時の売上金額をいくらにするかは期待値に基づいて算定するか、もっとも可能性の高い金額のいずれかを使って売上金額を決める必要があります。
(ステップ4)履行義務への取引価格への配分
履行義務への取引価格への配分とは、ステップ2で複数の履行義務を含むと判断した場合、各履行義務へ取引価格を配分することを指します。配分はそれぞれの財やサービスの独立販売価格に基づいて配分するとしています。
複数の履行義務全体に対して一括してされた売上値引きや売上金額が変動する場合は詳細な検討が必要となります。
(ステップ5)履行義務の充足(収益の認識)
履行義務の充足(収益の認識)とは、財やサービスを顧客に移転することによって履行義務を充足した時点、または充足するにつれて収益を認識することを言います。
ここで、収益の認識とは売上を計上するタイミングを決めることをいい、収益の測定とは売上の金額を決めることをいいます。
例えば、給与計算代行会社が顧客に対し1年間サービスを提供するとします。顧客から見ると毎月給与計算サービスをしてもらうたびにサービスによる便益を享受するし、給与代行会社も過去の給与計算についてはやり直しすることもないでしょう。このため、給与計算代行会社は、毎月の給与計算が終わる都度、売上を計上することになると思われます。
IFRS第15号では、顧客が当該資産に対する支配を獲得したとき、または支配を獲得するにつれて、売主が収益を認識できるとしています。このため、顧客視点からの判断が必要となります。