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(のれんの会計)買収時に計上されるのれんの減損。買収の責任をとらされることも。買収時の企業評価を安易に考えないようにしましょう。

記事作成日2015/06/10 最終更新日2017/01/27

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はじめに

シンガポール法人でもM&Aをおこなうことによって、シンガポールもしくは他のアジア諸国の企業をグループ会社にすることがあります。買収後、公認会計士もしくは監査法人による監査をうけるときに気をつけたい、のれんの減損とその影響についてお話します。

のれんとは?

企業会計上ののれん (goodwill)とは、一般的に企業の買収・合併時の、「買収された企業の時価評価純資産」と「買収価額」との差額のことをいいます。

たとえば、買収先企業の純資産時価が3億の企業を5億で買収した場合、差額の2億がのれんとして連結貸借対照表に計上されます。

のれんの会計処理、日本と海外の違い

日本の会計基準では「のれんは、資産に計上し、20 年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却する。」として毎期のれんの償却費が費用として計上され、連結貸借対照表ののれんの金額が自然と減少していきます(企業結合に関する会計基準第32項)。

しかし、国際会計基準をはじめとする海外の会計基準は、のれんは資産に計上した後、規則的に償却することを求めていません。このため、のれんの金額は買収時の金額のまま毎年連結貸借対照表に計上されます。

減損会計の影響

買収先企業の業績が思わしくなく、将来の買収先の収益力で投資済みの資産の原価が回収できない見込みとなった場合、連結貸借対照表の簿価を減額し、連結損益計算書の損失として計上しなければなりません。これを減損といいます。公認会計士もしくは監査法人による監査を受ける機会の多いシンガポールでは、監査人より減損の適否のチェックをうけます。

監査の現場で時々目にするのは、買収後買収先の業績が悪く、連結貸借対照表に計上されているのれんの評価を下げ、連結損益計算書に損失を計上しなさい、もしくは損失を計上しなくて良い理由を教えてくださいと指摘されるケースを見ます。

日本でも監査をうけている企業がありますが、先ほどお話したとおり、日本ではのれんは毎年償却されるため、連結貸借対照表の計上されているのれんの金額は小さくなっていきます。このため、のれんの減損を実施する可能性は少なくなっていきます。

しかし、海外ではのれんは買収時の金額でずっと貸借対照表に計上されますので、減損を実施した場合は連結損益計算書に損失額が一気に計上され、大赤字になる傾向があります。このため、買収元企業内では大問題として扱われることとなります。場合によっては買収に関与した方々の責任問題となります。

日本の皆様へ

日本では連結財務諸表を作成して、のれんを計上する必要がある企業は多くないかもしれません。しかし、シンガポールをはじめとした海外では、会計基準で連結財務諸表を作成するように求められており、かつ、監査も義務化されているケースが多くあります。

企業買収をおこなう場合は買収金額について安易に考えないことをお薦めします。もし、買収金額を高めにしてしまいますと、買収後のれんの減損の話がでてしまうとともに、買収額が高すぎたのではないかとの指摘を受けてしまい、責任問題に発展する可能性があります。

これを防ぐためには買収前に信頼の出来る公認会計士もしくは監査法人に財務デューデリジェンスを実施してもらい、その結果をしっかり検討していくことが良いのではないでしょうか。