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日本とシンガポールの移転価格税制 その1

記事作成日2015/09/28 最終更新日2021/05/21

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【はじめに】

今回は、日本でもシンガポールでも話題となっている、移転価格税制についてお話いたします。

【移転価格税制とは?→低税率国への所得移転を防ぐ税制】

日本以外にも複数の国に法人をもち、すべての法人を影響下においている経営者がいたとしましょう。私が日本法人の経営者で、各国の法人にも影響を与えることが出来る存在であれば、シンガポールのような低税率国に所得を移し、グループ全体の税額を小さくしようとするだろうと思います。

そのためには、例えば、日本法人とシンガポール法人との取引価格を第三者との取引価格よりワザと低い価格で取引し、日本側で所得を少なく、シンガポール側で所得を多くします。

このような場合、形式的には日本法人とシンガポール法人との取引で契約書などの文面があれば、取引は成立するので問題ないように思えます。しかしながら、上記の例では、所得が減少する日本の税務当局にとっては、税収減少につながる大問題です。

そこで、海外に所在する子会社等(国外関連者※)との取引価格を操作することによる所得の海外移転を防止するため、その取引について第三者との取引価格、すなわち、独立企業間価格を用いて所得を再計算し課税する制度を多くの国で採用しています。これを移転価格税制といいます。

言い換えると、税務上妥当とされる価格(=独立企業間価格)を逸脱して取引価格を設定している場合これを認めないという制度です。

※国外関連者…外国法人で、法人との間に、持株関係、実質的支配関係又はそれらが連鎖する関係の「特殊の関係」のあるものをいいます(国税庁ホームページ、用語の解説より)。噛み砕いてご説明すると、日本法人がコントロールしやすい外国関連法人を国外関連者と定めてします。詳細は別途ご確認ください。

【日本における移転価格税制】

日本では、以前よりこの制度が導入されていますが、平成22年の税制改正により、移転価格に関する税務調査の際に提出を求められる書類が明確化され、一般的には移転価格の文書化について明確にしたといわれています。

移転価格の文書化とは、海外関連会社との取引価格が独立企業間価格であることを証明する資料を作成・保管しておくことです。仮に税務調査時にこの資料を提示できなかった場合、税務当局は「推定課税」と呼ばれる一方的な手法により課税をおこなうことが可能になってしまいます。

この推定課税というのが曲者で、納税者は自らの取引価格が独立企業間価格であることを立証しない限り、税務当局が算定した金額より課税されてしまうのです。

【移転価格の文書化が求められる法人】

では、小さい法人から大きな法人に至るまで、この移転価格の文書化に関する書類を作成しなければならないのでしょうか。実は答えはYESです。なぜなら現状の日本の移転価格税制では、小規模法人に対する免除規定等が設定されていないためです。これに対し、シンガポールでは、小規模法人に対する免除規定等が明確に設定されています。

【移転価格の文書化への対応は?】

現実問題として、日本の経営者様はどうすればよいのでしょうか。一つの解決手法としては、この分野に詳しい税理士から、過去の調査の動向と対策を聞いた上で対応を検討することが考えられます。ただし、現在のところ日本においては移転価格に対応できる税理士は決して多くありませんので、相談相手は慎重に選ぶ必要があります。

また、海外取引に関する税務は、移転価格税制以外にも、国外関連者への寄付金や、人件費等の費用について日本法人、海外法人のどちらに帰属するかなど、論点となりやすいポイントが多く挙げられます。

私見ですが、多くの企業ではむしろ上記の論点のほうが問題だと感じています。これらのポイントについても、海外取引に関する税務に実績がある専門家に、ご相談されることをお薦めします。

【参考文献】

図解 国際税務 一般財団法人 大蔵財務協会